新しいクラス
あれから、4年と4ヶ月が経った。
今日は、王都学園の入学式。
テッサと一緒に平民用の寮に入寮し、この日を迎えた。
ちなみに寮は男女別で別れており、二人一部屋となっている。
僕と同室なのはキリという男の子だ。
神経質そうだった為、おそるおそる接していたが、カッスィーがお弁当を出せると知ると、パッと顔を輝かせた。
親子丼を食べながら、寮の食事は口に合わないと、残念そうに語った。
キリが転生者だと分かったのは、入学式が終わり、クラス分けの案内を読み、Bクラスに入ってからだった。
「俺が担任のセーワ・クリス。はじめに言っておくぞ。このクラスは転生者ばっかり集められている。しかし、前世について詳しく聞くことはマナー違反とさせて貰う。俺は皆の事を14才の少年として扱う。因みに俺も転生者だ。気軽に相談してくれ」
「せんせーい。寮の食事が口に合わないんですけれど、どうしてますか?」
そう聞いたのはキリだ。数名が賛同し、先生の言葉を待つ。
「俺は休日は外食している。主に和食屋ミヤビという店が多いな。普段の食事でもパンと米は選べるようになったが、おかずの改革まで至っていないようだ。ティアージア公爵家が毎年やっている転生者歓迎パーティで出てくるような食事は、残念だが諦めざるを得ない」
「じゃあ、カッスィーからお弁当を買って良いですか?」
「カッスィー? 立って見ろ。どんな弁当が買えるんだ? そんなスキルだったか」
「スキル【ネットスーパー】です。出来立てアツアツのお弁当を売る事が出来ます。カツ丼、親子丼、牛丼、豚丼、卵かけご飯、焼肉弁当、カレーライス、回鍋肉弁当、ミックスフライ弁当、エビフライ弁当、唐揚げ弁当、海苔弁当、鮭いくら弁当、お寿司、うな丼。そのほかお惣菜です」
「なんとも豪勢なラインナップだな。キリ、3食買うつもりか?」
「カッスィーの邪魔にならない範囲でと思ってます。後、カレールゥを異世界市場から買ってくるから、寮の食事でカレーライスの日を作って欲しいです」
「よし。カッスィー、希望者に、弁当を売ってやってくれ。金はちゃんと貰うように。学業の妨げになるようなら相談して欲しい。カレーライスに関しては会議にかける。カレールゥも買いに行かなくて良い」
「はい、わかりました」
その後、一人ずつ自己紹介が行われ、今日の授業は終了した。
明日からの時間割は、植物紙にプリントされて配られた。
ざわざわした室内、僕に話しかけてきたのは、アギト・ピリオネだった。自己紹介で喋っていたから覚えている。養子が多い転生者の中で生まれつきの跡継ぎであり、転生者でもあると、はっきり言っていた。しかも、なんと公爵家。スケールが大きいよね。きっとお風呂では毎日泳げるんじゃないかと思う。
「カッスィー、ちょっといいかい? ネットスーパーって事は、色んな物が取り寄せ可能なんじゃないかと思ってね」
「どんなものを探してますか? お菓子?」
「やっぱり菓子はいけるのか! たけのこの山はあるか?」
検索でたけのこの山……あった。
「ありました。銅貨3枚です」
「待ってくれ。じゃあポテチもあるだろう。のりしお味を頼む」
「ポテトチップスだ。カッスィー、大丈夫か?」
ポテチがわからないでいると、テッサが助太刀をしてくれた。
「たけのこの山とポテトチップスのりしお味で、銅貨6枚です」
「じゃあ、これで」
「はい、どうぞ」
僕が虚空から商品を出すと、皆一斉に距離を取った。
テッサもそうだが、僕達は制服の為、マジックバックを装備していない。
「驚いた。賢者様候補じゃないか。流石Bクラスといったところか」
アギトはあんまり驚いてなさそうな顔で、ゆっくり近付いてきた。
「それがね、僕は転生者じゃないんだ。探す商品は検索にかけるから、正式名称を教えて欲しい」
その後数名、お菓子の販売を行った。
手探りだけど、僕のスキルの使いどころを分かってくれて嬉しいと思う。
その後、テッサと校舎内の探索をし、お昼時になったので、食堂へ行った。
今日の日替わりはステーキだったのでそれを選んだ。
味については、普通に美味しい。味付けは塩とスパイスのみ。醤油があったらもっと美味しいかと思う味だった。
テッサと別れ、寮部屋へ戻る。
部屋には、キリが待っていた。
どうやら昼食は、先生が言っていた和食屋ミヤビに行ってきたと言う。
「和食屋ミヤビ、どうだった?」
「美味かったよ。せっかくだから、お好み焼き食べてきた。でも、夕食はカッスィーの弁当を買って良いか? 他の奴の希望も聞いてきたんだ」
なんと、カッスィーのお弁当を希望している人達のオーダーを取ってきてくれたそうだ。ありがたい。
希望者の中には女の子もいて、寮まで取りに来るとのこと。
夕刻になり、お金は徴収済みだったので、お弁当を出した。
キリの分はカツ丼、あと5つお弁当を出した。
お弁当を取りに来た女の子にも渡したよ。
食べ終わった後、みんなニコニコしていたので、満足して貰えたんだと思う。
僕は寮の食堂で食べたけどね。
食事が終わったら共同風呂に入り、風呂から上がったら、速やかに就寝した。
翌日、朝食後。
1年のBクラスに移動した。
ざわついた教室内は、担任のセーワ先生が来たら、ぴったりと静かになった。
やがて授業が始まり、一コマずつ授業が進み、四コマが終わった後、昼食となった。
お弁当購入希望者は八名。そのうちの一人は、セーワ先生だった。
皆にお弁当を売った後、セーワ先生からなんで食事の改善が出来ていないかを聞いた。
せっかくなので僕とテッサもお弁当を買い、教室で食べることにした。
「貴族には戦争の際、従軍義務がある。その時に、食事をえり好みしていられない、と言うのが大半の理由だ。しかし、カレーライスについては受け入れられた」
ワッとクラスが盛り上がる。これからカレーライスの日が出来るのだ。今から楽しみである。
「じゃあ、戦時中を想定して食事のメニューは作られてるんですね」
「ああ、そうなんだ。だからこれ以上は変更できないと言われたよ。要するに、まずい飯に我慢するのも訓練のうちだと言いたいんだろう」
先生の言葉に、少しだけクラスが沈む。
マルコ・ドリューがぽつり、ぽつりと言葉を吐き出した。
「本当に転生者を歓迎しているなら、もう少しなんとかなりそうな気がしますけどね」
「私もそう思う。転生者歓迎パーティ、行ったけど本当に凄かったもん。カッスィー君のお弁当のラインナップに加え、煮物やお新香とか、後デザートもものすごかった」
「あそこまでは無理でも、味噌汁を付けるとか、何か駄目なんですか? 先生」
「会議に上げておく。ただ、期待はしないでくれ」
そこまでで話は終わり、しばらくして授業が始まった。
僕も、これから四年お世話になるんだし、ご飯は美味しい方が良い。ティアージア公爵に一応何か出来ないか手紙を書いてみよう。
異世界市場は、今でも存続している。
これは転生者歓迎パーティの際に出張窓口を用意したので、知名度がかなり高い事が関係している。
メイン商材を酒に変え、主に加工品を取り扱っている。
学園に入学するにあたり、四年分の酒を異世界市場王都支店に納品してある。王宮への納品も、ドラグ店長に頼んであるので問題ない。
喫茶店ツバキは店舗数がかなり増えた。
現在で38号店まである。とにかく珈琲の人気が高いと言うことだろう。
生ケーキの売上も良いし、オーナーとしてとても満足である。
テッサの蓄音機は改良され、喫茶店ツバキに置かれてツバキ劇場を彩っている。
音に合わせて動く演劇は好評で、もっと持続時間が伸びれば、もっと大きな劇場で使われるかもしれない。今は30分が限界なのである。
そして、ガチャ。
半年分だとテッサの父が買い取れないという話になったので、ルカート町のタウンハウスでガチャを行い、出た資源をハイド男爵に買い取って貰っている。毎回凄い数が出るので、ありがたい。
ハイド男爵は僕が貴族になるのを待っているようで、ルカート町にタウンハウスを建てる為の土地も用意してくれている。
僕は返事を保留にしてるんだけど、護衛は雇わなきゃ駄目だろうと思っている。
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