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旅の成果と生誕祭

その後、三年半が過ぎた。


今は12月。年の瀬である。

年越しのお祭りに参加するために、雪の中、馬車を進ませる。


3年経っても、僕の旅が終わってないのは、理由がある。


あれから一度、僕のスキルはレベルアップしている。酒屋を選択した僕は、かなりの種類のお酒を出せるようになった。一部のお酒は王家にも求められ、カカオの取引がなくなった今でも、異世界市場は王家御用達のままである。


それと、王妃様から苗の件を含め、転生者支援に貢献した事をたたえられ、すごい金額の金貨を頂いてしまった。どうやら男爵位が買える値段らしく、貴族になれと言われているようで心臓が痛い。

巨額すぎるので、後見人のハイド男爵に預かって貰っている。

成人するまでは、甘えても良いかなと思っているのだ。


苗の件は、あっと言う間に国中に広がり、スキル【緑の手】、【植物栽培】、【農家】の人たちの尽力により、まだたった3年、けれども3年。

米は一定の産地で収穫出来るようになり、一部のフルーツもしっかり収穫出来ている。

僕が思っているよりもスキル持ちの力は強く、栽培に失敗したという話は聞かない。


ラグナスティール王国は周辺国より一歩抜き出た豊かさを手に入れ、今まで問題だった転生者の食事問題も解決した。


カカオは名前が知られていなかった小国で栽培され、国の名前がカカオ国になるくらい、潤っていると聞いている。国をまたぐため関税がかかり、まだまだ高級品ではあるものの、チョコレートも一般的に知られてきた。


珈琲は南の連合国で作られ、様々な国で愛されている。

喫茶店ツバキのように珈琲を出す店が増えてきて、何よりである。

喫茶店ツバキも6号店まで増えてきて、念願の王都進出も果たしている。


僕は今、半年に一度異世界市場ルカート支店と王都支店に納品する為に旅をしている。


醤油と味噌も作れたらしいんだけど、まだ数が少なくて、異世界市場の主要商品の米、醤油、味噌は相変わらずだ。


ただ、苗の注文はそろそろなくなりそうなので安心している。


14才になったら王都学園に入学する。

そうなったら納品は出来なくなるので、なるべく身体が空くように調整していきたい。


そんなわけで、年末である。

6才から比べれば随分大きくなったと思う。

今、9才。そして、今年の生誕祭で10才になるのである。


「カッスィー。もうすぐティティー村に着くよ」


今年は納品の関係で少し遅れてしまった。

しかし、生誕祭に間に合えばいいのである。


「はい、カミーラ師匠。トリートメントはティティー村でも売りますか?」


「売れるなら売ろう。それが商売の鉄則さ」


かつてはかぶりのない商材でやっていた異世界市場だが、今は化粧品やトリートメントで小銭を稼ぐこともしている。


勿論、あっと言う間に真似されてしまうので、専売と言うわけにはいかない。


そうこう言ってるうちに、ティティー村にたどり着いた。


久しぶりの自宅に入り、母さんと父さんに挨拶をする。


「カッスィー、お帰りなさい」


「カッスィー、お帰り。生誕祭は明日だよ。間に合ってよかった」


「母さん、父さん、ただいま! カミーラ師匠達を呼んでくるね」


そう言って、雪の中玄関で待っていたカミーラ師匠達を迎え入れた。


火蜥蜴のコートのお陰で全く寒くないけれど、見るからに寒そうな3人を迎え入れ、客室に案内する。


僕は久しぶりの自室で旅装を解き、ベッドに身体を預ける。

もうすぐ夕刻。

クリーム色の天井を眺めながら、しばし身体を休ませた。


ノックがあり、夕飯に呼ばれたので食堂へ行く。


上座に、父さんと母さん。

こちら側に、カミーラ師匠と僕、ニンゲさんとロックさん。


「では、晩餐を始める」


父さんの声を合図に、ミラノさんが配膳してくれる。


今日のメニューは、ビーフシチューとバケット、野菜スープ。


ビーフシチューはとろとろのお肉がとても美味しかった。

バケットと野菜スープも完食した。


デザートは、チョコレートケーキだった。

ふんわりと軽いチョコレートホイップが、チョコスポンジをうまく調和させている。

トップに刻んだチョコが乗っており、口の中でアクセントになり、とても美味しかった。


食後のお茶を飲みながら、旅の話で盛り上がる。


「そうですか。トリートメントが重宝されたのは始めだけでしたか」


「化粧品もあるし、小銭稼ぎだからいいんだけど、模倣が恐ろしく早いんだ。食品の方がまだ多く、高く売れるね」


「カッスィーの旅ももうすぐ4年。国中に作物の苗が割り振られ、配られ、うちの村も麦以外では蕎麦を特産品とすることが出来ています。うちの北側の食堂は、すっかり蕎麦専門店になりましたしね」


「味がいいし、店長のテンさんも蕎麦との出会いは運命だったと言っていましたからね。明日の振る舞いの蕎麦を楽しみにしていますよ」


カミーラ師匠がそう答えると、父さんもにこやかに笑った。テンさんが蕎麦大好きなのは、皆が知っているのだ。


「では、解散しましょう」


僕は席を立ち、自室に戻り、お風呂に入った。

お風呂上がりに牛乳を飲み、歯磨きをしてすみやかに就寝した。


翌日、朝食後。

テッサの家に行き、テッサにお伺いを立てると鑑定師をやってくれると返事が来た。


「カッスィー、お帰り。いいぜ。納品だろ? 今日は修行にならないから、鑑定師をやるよ」


家の倉庫で、伝票片手に僕は聞いてみた。


「今日はなんで、修行にならないの? 蓄音機っていう素晴らしい商品が出来たって、こないだキャロ師匠から聞いたばっかりだよ」


「アイディアは良かったんだけどな。魔石が長持ちしないから売れてないんだ。改良すると言っても、出来ることはしちまったしさ」


「へえー。でもシェリー様がパトロンについたって聞いたよ。将来的には、喫茶店ツバキのツバキ劇場で使いたいって」


「ああ。ありがたい話だよ」


僕達は伝票をチェックし、商品を積み上げながら話をした。


途中、ご飯を食べ、おやつを食べ、やがて夕刻となり、納品は中断となった。


玄関に行くと、ガイ、ルビア、イクトが待っていた。


「カッスィー、お帰りなさい。キャンプファイヤー始まっちゃうよ、行こう」


「ありがとう、ルビア。皆も一緒に行こう」


広場へ行くと、櫓が組まれており、中の木々に火をつけるところだった。

火がつき、キャンプファイヤーが始まった。


どこからともなく笛の音がしてくる。


手を打ち鳴らし、開会の宣言を皆でじっと待った。


村長のベンが前に進み出て、挨拶をした。


「今年の生誕祭を執り行う! 今日は無礼講だ。酒と食い物はニネさん夫妻とテンさんの食堂で受け取ってくれ。金は村長宅で出す。よし、一曲目は『リュースクットの夜明け』だ。踊る奴は前に出てくれ」


数名の男女が躍り出る。


ベンの合図にあわせて、『リュースクットの夜明け』を笛で吹く。

沢山の笛の音と、歌声が重なっていく。


カッスィーとガイは笛で演奏の一員となった。

イクトは真っ直ぐに歌っている。

ルビアとテッサは、カスタネットで拍子を取り、歌いながら踊っていた。


 さぁ生誕の夜明けだ ああ 君に会えた

 リュースクットの旅立ちだ さぁ共に行こう

お読みいただき、ありがとうございました。


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