納品と外食
テンさんの店に着いた。
春に建てたばかりなだけあって、真新しい。
二階建てで、二階は住居になるんだろう。
入り口のドアを明け、中へ入っていく。
カランカランと、鈴が鳴った。
客足はまばらだった。
席に着くと、テンさんが出てきて、説明してくれた。
「この店はメニューが一種類しかない。今日はオークのステーキだ。それで良いか?」
「はぁい。それで良いけど、デザートはないの?」
ルビアの問いに、テンさんは「ホットケーキならある」と答えた。
「じゃあ、人数分ホットケーキもお願いします」
僕がそう言うと、テンさんは注文を復唱して厨房へ入って行った。
しばらく待って、オークのステーキが届いた。
醤油ベースのステーキソースの香りが、オークの油と混じり合い、なんともかぐわしい香りを放っていた。
ナイフを入れ、一口ぱくり。
うん、美味しい。脂身が甘く、肉の旨味がたっぷりで、スパイスもきいているため、ご飯が進む。
あっと言う間に食べきってしまった。
その後、デザートのホットケーキを食べた。
ホットケーキはふっくらと焼かれており、キラービーの蜂蜜がないことが悔やまれた。
「俺達もさ、雨季が終わって7月に入ったらまたダンジョンに行こうって話してるんだ。勿論、イクトも一緒だぜ。イクトと言えば、クラーケンが大好きだ。母ちゃんに売ってやったらどうだ?」
「テッサ、どう思う?」
「とりあえず、一匹の半分売って欲しい」
「了解。ダンジョン、いいね。僕も少しだけどイヴリンダンジョンに行ってきたよ」
「美味いもんいっぱい取ってきてたもんな。父ちゃんが鼻歌歌いながら仕込みしてたぜ」
「クラーケンはイカフライにして定食にして出すって言ってたけど、あとはどんな料理になるか楽しみだね」
「岩蛙は唐揚げ定食にして、キラーホーンは煮込み定食だって、今朝見たよ。後、ミノタウロスはステーキだったな」
ガイが指折り答えてくれる。
「どれも凄く美味しそうだね」
「じゃあ、明日食いに行くか。皆、また明日中天にカッスィーの家で待ち合わせな」
「はーい」
明日の予定が決まった所でお金を払って店を出た。そして、解散。
「僕とテッサは納品があるから家に戻るね」
「ああ。じゃあ、また明日な」
皆と別れ、テッサと一緒に倉庫に戻ってきた。
納品の続きである。
途中、おやつを食べて、また納品を続けた。
夕刻になり、今日はここまで。
「じゃあ、また明日来るから」
「うん。エルゥさんにクラーケンを売りに行くついでに送るよ」
そう言って、テッサの家までやってきた。
テッサが家の中に入り、エルゥさんを連れてくると、イクトもやってきた。
「カッスィー、久しぶり。クラーケンありがとう。俺、大好物なんだ」
「それなら良かったよ。明日、食堂にダンジョン素材の定食を食べに行くんだけど、イクトも来るか?」
「いいのか? じゃあ、行く。中天にカッスィーの家だな。了解」
必要事項をイクトに伝え、エルゥさんに金貨2枚でクラーケン一匹の半分を売る。
そして村長宅に戻った。
夕飯を済ませ、お風呂に入る。
お風呂から出て、牛乳を飲み、歯磨きをして就寝した。
翌日、朝食後。
朝からテッサと納品に精を出していた。
チェックをして、積み、また積み上げる。
あっと言う間に中天になり、納品を中断して外に出た。
玄関口に、皆揃っていた。
ガイとルビア、イクトにテッサ。皆と一緒に南の食堂へ向かう。
店に着き、中に入る。
数量限定でダンジョン素材の定食が売られていた。
ルビアとイクトはミノタウロスのステーキ、テッサは岩蛙の唐揚げ、ガイと僕はキラーホーンの煮込み定食を頼んだ。
じっくりと煮込まれたキラーホーンは、スパイスもたっぷりで、口の中に入れるとするすると解ける。肉の旨味をゆっくり堪能できる逸品だ。
他のみんなも、美味しそうに食べている。
この分なら、出立前にもう一度納品したほうが良いかもしれない。
客足の途絶えない店内で、僕はそんな事を考えていた。
さて、デザートである。僕とルビアがクリームあんみつ、テッサがぜんざい、イクトとガイがチョコレートパフェだ。
アイスクリームは旅先でなかったものなので、美味しく食べることが出来た。
お金を払い、店を出る。
そこで、解散した。
「またね、カッスィー」
「うん、またね」
僕は挨拶をして、テッサと共に納品に戻った。
チェックをして、積んで、また積んで。
夕刻までかかったけれど、全て納品が終わった。
そうなると、出立の準備が必要である。
テッサと別れ、夕飯に呼ばれた。
上座に、父さんと母さん。
こちら側に、カミーラ師匠と僕、ニンゲさんとロックさん。
「では、晩餐を始める」
父さんの声に合わせ、ミラノさんが配膳してくれる。
今日のメニューは、岩蟹のローストだった。それと、野菜スープとバケット。
岩蟹は味が濃く、濃厚な美味しさだった。
野菜スープとバケットも完食し、次はデザートである。
デザートは、雪見大福。お餅の中にアイスクリームを詰め込んだ、意欲作だ。
ミラノさんに聞くと、テッサのアイディアで出来たスイーツだという。
ぱくりと食べると、アイスとお餅の美味しさが口の中に広がった。とても美味しい。
「では、出発は明後日ですか?」
父さんがカミーラ師匠に確認を取った。
「ええ。カッスィーは休んでないので、明日は休み。明後日出立とします。次は半年後に戻ってくる予定です」
「わかりました」
「先日お話した通り、カッスィーが苗を売ることが出来る事は箝口令が敷かれています。王都の役人が来ても話さないようにお願いします」
「わかっております。うちの村では蕎麦を育てるらしいので、役人が来るのを待ちましょう」
「カッスィー。後は何かあるかな?」
「年越しのお祭りには帰って来たい」
「なるべく叶えよう」
カミーラ師匠が、笑顔で請け負ってくれる。
その後、解散となった。
僕は翌日の休みをゆっくりと過ごして満喫した。
ニネさんとテンさんには、追加の納品をしておいた。
その翌日。朝食後、ニンゲさんが御者をやり、僕達は馬車に乗り込んだ。
母さんと父さんに見送られ、僕は「行って来ます」と挨拶をして別れを惜しんだ。
目的地は王都の異世界市場だ。
ひと月かかる道のりを、足早に踏み出した。
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