カッスィーとお弁当
「転生者という言葉を聞いた事はありますか」
「……なんでも、人生を繰り返してるとか」
答えながら、ベンは顔がひきつるのを感じた。
カッペラード様が言い出した言葉は、何となくとしか聞いたことがない。
しかし、荒唐無稽なそれをわざわざ口に出す理由が見当たらなかったからだ。
「その通り。実は転生者の保護も仕事のうちでね。実際、年に一人か二人は見つかるんだ」
「はあ……」
「これは確認なんだが、カッスィー君は転生者ではないよね」
「うちのカッスィーがですか?」
「スキル【ネットスーパー】は、スキル【物々交換】に似ている。そしてスキル【物々交換】の主は転生者だった。それだけなんだけどね」
「フアラ、おまえはどう思う?」
「変わったところもないし、思い当たりませんねぇ」
「じゃあこの話はここまでで。転生者はうまく適応できない場合、うちで養子にしたり、色々と救済案がある。見つけた場合、なるべく穏便に話し合いたい」
「わかりました」
ベンとフアラは神妙な顔で頷いた。
「さて、ミクシーヌはどうしたんだい?」
「おやつに頂いたフレンチトーストのバニラアイスがけ。とっても美味しかったわ」
「ああ、本当に美味だったね。アイスクリームは溶けてしまうから持ち帰れないのが残念だよ」
「カッスィーはうちに持ち帰れないの、お兄様。これだけ有用なら転生者でなくたって養子にするべきよ。それがあの子を守ることに繋がるわ」
「しかし、まだ5才だ。親元から離すのは早すぎる。カッスィー君は実際、親に恵まれているじゃないか」
「でも、本当の親子じゃないんでしょ」
「ミクシーヌ!」
「確かにうちは血のつながりのない親子ですが、親類ではあります。カッスィーの授かったスキルが凄いものだっていうのは薄々感じてましたが……テッサがいないとなにがなんだかわからないみたいでね。力が抜けたんですよ。カッスィーは、うちの子です」
「カッスィーは妹の子なんですが、妹夫婦が亡くなった後、カッスィーはまだ3つでした。ちょっと大人びてる時はあるけど、養子に出すなんて考えられません」
ベンとフアラの訴えに、ミクシーヌもしぶしぶ矛先を下ろした。
「16歳で成人したあと、取り合いになるより良いと思うんだけどなぁ」
「ミクシーヌの懸念はわかるよ。養子にするとしたら貴族としての立ち居振る舞いを学ばねばならない。その場合、早ければ早いほど良いからね」
ミクシーヌ様を宥めながらも、話を続けるカッペラード様を見て、ベンの胸に心配の灯りが灯った。
「カッスィーは危険なんでしょうか?」
「スキル【物々交換】はあまりに有名だ。似ているスキルだというだけで注目されてしまうだろう。ものを出すスキルはそれだけ珍しいんだ」
「しかし、毎日弁当を買うくらいで、貴重品はなさそうだという話です」
「現段階ではね。スキルは使用していくうちに成長することがある。この先どうなるかはわからないね」
思わず、ため息をついた。
どうしたら我が子を手助けしてやれるだろう。
「あら、それで良いじゃない。スキル【弁当交換】だって事にして、よってくる人にはお弁当だけ買わせてあげればいいのよ」
「相手が貴族だった場合、偽証は罪だ。噂程度にしよう」
「カッスィーに、何か言い含めることはありますか」
「勝手に契約をしないことかな。お弁当だったら売ってあげて構わない。大きな商売をするときは、ハイド男爵家を通して貰おう」
「かしこまりました」
「じゃあ、よろしくね。ミクシーヌ、帰るよ」
「はぁい。わたくしみたいにカッスィーやテッサを連れて行こうとする人がいたら、遠慮なく連絡して頂戴」
「ありがとうございます」
出立の見送りをした後、フアラと話し込む。
「あなた、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうは言うが、カッスィーを守る為に出来ることは他にないだろうか」
「あなたはちゃんと、カッスィーを守ったわ。カッスィーはうちの子ですって言えたもの。きっとそれがいちばん大事な事よ」
「……フアラが言うなら、間違いないな」
「ええ、そうですとも」
ベンに呼ばれたカッスィーは、契約についてしっかり約束させられた。
うっかり誰かと契約してしまうと、この家の子でいられなくなってしまうと聞いて、ふらふらになるぐらい何度も勝手に契約をしないことを約束した。父との約束は重たかった。
そして、対外的にはスキル【弁当交換】として、カッスィーのスキルは静かに広まっていくのであった。
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