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これが異世界の平穏

俺は暗闇の中を通り過ぎていく。

体がフワフワと浮いているかのようにして前へ進んでいく。

そして突然、目の前に光が差し込める。

気が付いた時には目に前に二人の人影が現れた。

その人影は二人で何かを話している。

「無事に生まれて来てくれて本当に良かった」

「ああ。元気な男の子みたいだな」

「ねぇ、あなた、この子の名前はどうします?」

「んー、そうだなあ・・・」

どうやら俺は今生まれて来たばかりの赤ん坊みたいだな。

そんなことよりも、今はとにかく眠っていたい。

俺は強い眠気に襲われた。



「おーい、アレン! どこだー? これから剣の鍛錬だぞー」

野太くて甲高い声。その声が剣の鍛錬の時間を報せる。

「父さんは庭で先に待ってるからなー」

「はーい、父さん。すぐに行きます!」

僕は読んでいた{魔法独力}という本を途中で切り上げ、支度をする。

厚手のグローブを手に着け、短剣を腰に携えてから、家の2階にある自分の部屋から飛び出し、足早に声の主のもとに向かう。

階段を下り終えたところで、優しく微笑む母の顔が僕に視線を向けた。

僕の目を優しく見続けながら、母さんは少しづつ僕の方に歩み寄る。

そして、彼女は僕の頭をそっと撫でながら「剣の鍛錬頑張ってね」と、透き通るようなとても優しい声音で僕に囁く。

僕は彼女のその言葉に、笑顔で勇みよく「はい、母さん!」と、返事を返す。

この、毎日変わらずにする母と子との間のやり取りに、僕はいつも自信と勇気を貰っている。

「アレン、鍛錬の調子はどう? あの人ったらいつも厳しくアレンの相手をするんだから、困ったものよね」

少し怪訝そうな表情をしながら彼女がそう呟く。

「それだけ僕に期待してくれているんだと思います」

「もうー、そうやってアレンはいつも物分かりがよすぎるんだから」

「いい? あなたはまだ7歳なのよ。その歳の子はもっと我儘を言ったり、親に甘えても良いものなのよ」

「親の言う事ばかり聞かずに、もっと子供らしく伸び伸びと自由に生きても良いんだから」

「だから、あんまり良い子でいるのも許しませんからね」

 まるで、残念がっているかのような母のその言葉に、笑いながら「なんですかそれー」と突っ込む。

「私は本気よ」不貞腐れながら彼女が言う。

「おーい、アレンまだかー? モタモタしてるとあっという間に夕飯の時間になっちまうぞー」

 どうやら待ちぼうけを食らっていたらしいその呼び声の主のもとに、急がなければいけないみたいだ。

「はあ、あの人ったら本当にいつもせっかちなんだから」

彼女はやれやれといった具合で肩を竦める。

「それじゃ、待たせちゃ悪いですからそろそろ行きますね」

「ええ、そうね」

母さんの方を背にする形で僕は門戸に向かう。

「あ、アレンちょっと待って」

「ん・・・、なんです?」

彼女が僕の身に着けていたグローブに指をさす。

「糸が解れているわね」

僕は身に着けていたグローブに目を落とす。

「本当だあ、気付きませんでした」

「とりあえず今日はそれを使いなさい。鍛錬が終わったら私が直すわね」

「お願いします」

この解れ具合なら、確かに今日使うぐらいは大丈夫だろう。

「くれぐれも怪我はしないように気を付けるのよ」

「あと、頑張るのは良いけれど「[頑張り過ぎはしないことよ]」

「ですよね?」

僕はいたずらっぽく言った。

「ふふふ、よろしい」

アレンは母の方を見遣りながら扉を開ける。

母は息子を、笑顔で送る。

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