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今回も短めの話なので、ちゃっちゃとやってさっさと完結させたい所存です。(自分追い込み型)


*女性から男性への暴力シーンあります。






 タリアは激怒した。

 確かに今日は約束をしていなかった。

 いなかったがこれはないだろう。


 視線の先には密着する男女。タリアのよく知っている人物──つまり男の方は女の肩を抱き、親しげに何か囁いている。


 仕事後だしお腹が空いただろうからと、差し入れにと持ってきたパンの袋をぎゅっと握りしめた。


『明日、建国祭に一緒に行こう』


 昨日、タリアを誘ったその舌根も乾かぬうちにこれか。

 建国祭にプロポーズするとそのカップルは幸せになるというジンクスがある。だからてっきり今回こそはそのつもりだと思ったのに。

 小さな頃から一緒にいて、当然未来も一緒にいるものだと思っていた。

 だけどもう。


『おおきくなったらけっこんしようね』


 あの頃は結婚が何かもよく知らなかったけれど。幼き日にしたあの約束は無効というなのだろう。


 男女は相変わらず寄り添って会話をしている。顔が近い──と思ったら二人の顔が重なった。

 タリアはくるり、踵を返して背を向けた。

 涙が一粒ポロッとこぼれ落ちて地面に吸い込まれた。



──────────




「誤解だよ、タリア! 噂のことなら……」

「誤解じゃないわよ、リュシー。昨日、女の子と仲良くしてる所を実際にこの目で見たんだもの」

「は……話の内容を聞いたのかい?」

「はぁ?! 聞きたいわけないでしょ! 自分の恋人が他の女を口説く台詞なんて」

「聞いてくれ、誤解なんだよタリア!」


 誤解って何だろう。あんな事しておいて。


 今日は建国祭の当日。

 何事も無かった様な顔をして待ち合わせ場所へノコノコとやってきた男──リュシーを、タリアはさっさと路地裏へ引っ張りこんだ。

 今日の大通りは祭りで賑わっている。そんな場所で痴話喧嘩などできやしないから。


「あの人は商売先のお嬢さんで、昨日は父さんにどうしてもって言われたからご機嫌とってただけだってば!」


 リュシーによると商売先のお貴族様に気にいられ、彼とあの女の縁談が『勝手に』進んでいるらしい。


「もちろん僕は断るつもりだよ。本当に愛してるのは君だけなんだから!」


 切なそうな顔で訴えてくるリュシーに、タリアはちょっと絆されそうになる。


 ──いやいやいや、チュッチュしてましたやん!


 そうだった! タリアはキスの現場を見ている。あれは幻覚なんかじゃない。


「キスしてたわよね? 私見たんだから!」

「目にゴミが入ったって言われたから見てあげただけだよ」


 それ、ヒロインが恋人と他の女とのキス現場を目撃したと思ったら、目のゴミを取ってあげてただけだったって言う、誤解の定番じゃん!

 タリアは思わず、先日読んだ恋愛小説を思い出した。


「彼女とはこのまま結婚させられるかもしれない。でも! 必ず妻とは別れて愛する君の元へ戻ると誓うよ! だから待っててくれ!」


 ──はい?


 あの女と結婚する気満々だった! いや、もう結婚した気になってる?

 それ、恋愛小説で、親に無理やり結婚させられ、愛する人との仲を引き裂かれた人が言う台詞──!

 小説におけるベタな台詞は、使うタイミングを完全に間違えて最早意味不明だ。

 現実を把握してみようか。

 二人の仲は引き裂かれたのではない。リュシーが自分で引き裂いたのだ。


 もう、リュシーの顔がじゃがいもにしか見えない気がする──きっと百年の恋も冷めたというやつだろう。いっそマッシュポテトにでもしてやろうか? ──いや、やめよう。こんなクズと比べるなんてじゃがいもさんに失礼だ。


(待っていろもなにも、こちとら何年待ったと思ってるのよ!?)


 恐らく彼は、タリアをキープしたまま商売先の条件のいいお嬢さんと結婚するつもりなのだろう。相手はお貴族様らしいから入婿なのかもしれない。

 聞いた話だが、入婿はとにかくストレスが溜まるという。タリアをキープしておいて、ストレスや性欲のはけ口としていいように使うつもりに違いない。

 その辺にいるお花畑脳の女なら、悲劇のヒロインぶれるこのチャンスに飛びついて、感涙にむせび泣きながら男の胸に飛び込んだかもしれない。


「ふっざけんなーっっ!!!」


 しかし、今のでプッツンとキレたタリアは叫んだ。大通りまで聞こえてしまうかもしれないが、もう構いやしない。


「た……タリア?」

「何が『待っててくれ』よ!? バッカじゃないの?! このどクズがぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!!」

「ぐばぁっ!」


 生まれて初めて繰り出した右ストレートは、隙のない軌道を描いて男の左頬を抉った。タリア渾身の拳を受けた男の身体は宙に浮いて吹っ飛んだ。

 リュシーの口からなんか色々なものが飛び出ていたがもう知らない。タリアの口からは呪いの言葉が飛び出したが。


「死ね! 禿げろ! もげろっ!」


 うわぁーんばかーっ! と、叫びながら路地裏を飛び出すタリア。

 こんな男でも好きだったのに。

 だけどもう。

 涙も出なかった。

 昨日帰ってから泣きすぎたのかもしれない。




 タリアが怒りに任せて自棄気味やけぎみに走っていると、突然目の前に現れた老婆が花籠を目の前に差し出した。


「そこの綺麗なお嬢さん、花はいらんかね?」


 そういえば、リュシーはタリアのことを綺麗だと褒めたことすらなかった。


「頂くわ」


 声をかけてきたおばあさんに銀貨を1枚渡し、代わりに赤い花を受け取った。

 あんなことがなければ今頃は、この赤い花をお互いに贈りあって笑っていたはずだ──そう思うとチリッと心の奥底が痛んだ。


「本当にバッカみたい」


 でも、花に罪はない。部屋にでも飾ろう。

 この赤い花は、尖った花弁が星のように並んでいることから星花とも呼ばれる。

 白、ピンク、赤などの色があり、白は『結ばれた二人』、ピンクは『私を好きになって』、赤は『運命の恋人』などの意味の花言葉を持つ。

 いつから始まった習慣かは分からないが、年頃の男女は建国祭の間中この星花を身につけていることが多い。

 白は既婚者、赤は恋人あり、ピンクは恋人募集中の印だ。タリアは例年、リュシーと共に赤い星花を身につけていた。

 つい癖で赤い花を買ってしまった自分を鼻で嗤う。


「本当にバカね……」


 愛し合ってると思ってた。

 けれど、タリアの愛とリュシーの愛の重さは釣り合っていなかったのだろう。


(あんなんじゃ足りない。もっと痛い目に合わせてやればよかったわ!)


 タリアは星花の茎から丁寧にトゲを取り去ると、長いその茎をバキバキボキボキと折っていた。


 ──ドンッ!


「あっ! ごめんなさい!」


 前を見ずに歩いていたら誰かにぶつかってしまった。

 ふと視線をあげると、それはあまり見慣れない騎士団の紺の制服だった。そういえば建国祭は人出が多いから、治安維持のために騎士団が総出で巡回してるって誰かが言ってたっけ。

 しかも、目の前の騎士はかなりイケメンだった。制帽を目深に被ってはいるが、頭一つ低いタリアからははっきりと見えた。黒のまつ毛が縁取る赤い眼が驚きに瞠られている。

 そして感じる恋の予感──などではなくて。


(けっ! イケメン騎士様はさぞおモテになるんでしょうね!)


 なんと、やさぐれていた。


「大丈夫ですか?」


(大丈夫なわけないじゃない! こちとら振られたばっかだっての!)


 振られたのか振ったのかよく分からない状況だったが、昨日のあの状況は振られたに等しいと思う。そういえばリュシーもそれなりにイケメンだった。どこぞの貴族のお嬢さんを誑し込むのに困らないくらいには。

 目の前の騎士が悪いわけではない。悪いわけではないが──。


(男なんてみんな一緒よ! イケメンなんてクソ喰らえだ!)


「あの……?」


 なおも言葉を返さないタリアに戸惑ったように声をかけるイケメン騎士。


「……あら、ごめんなさい! 帽子が歪んでしまったみたいですわね」

「えっ……あっ!」


 戸惑う騎士にタリアはすっと手を伸ばして、彼の制帽を手直しする。


「失礼しました、オホホホホホ……!」


 高笑いをしながら、ポカンとした騎士を置き去りにして去ってやった──口を半開きにした姿も様になるとはイケメン恐るべし。そして、タリアの手に握られていたはずの星花は姿を消していた。


(おほほ! 赤い星花を帽子に差してやったわ! 誰にも声をかけられずに落ち込めばいいのよ! イケメンなんて滅びろ!)


 赤い星花は恋人ありの印──身につけていれば、十中八九声を掛けられないだろう。建国祭で白や赤い花をつけた者に異性が声をかけるのはマナー違反だからだ。なりふり構わない強メンタルの持ち主なら分からないが。

 あのイケメン度合いならば普段からモテモテだろうし、今日くらい声を掛けられなくても大したダメージではないだろう。


(こちとら再起不能だっての!)


 ただの八つ当たりであった。






タイトルって、決めるのくそ難しくないですか?

皆さん、どうやってあんな魅力的なタイトルつけてらっしゃるのでしょうね?

だから今回もサブタイはなしです……(言い訳)

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