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わたしの殺し屋  作者: 大里 トモキ
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「わかりました。そのご依頼、たしかに承りました」

 殺し屋があまりにあっさり承諾したので、いささか拍子抜けしてしまった。わたしの依頼の奇抜さに少しは驚くものと思っていたのに。

 そう言うと殺し屋は、「私は殺しを生業にしている身ですからね。そんじょそこらのことでは動じませんよ」とのこと。ふーん、だったらさっそくそのプロフェッショナルなところを見せてもらおうじゃないの。

「じゃあ、さっさと殺ってちょうだい」

 わたしが急かすと、殺し屋は困ったように肩をすくめ、

「申し訳ございません。今すぐにというわけにはいかないのですよ」

「どうしてよ。さっきは誰でも殺せるって言ったじゃない。あれは嘘だったわけ?」

「いえ、決して嘘ではございません。私は自分の腕には絶対の自信を持っております。ですが、完璧な仕事を行うには万全の準備が必要なのです。まことに恐縮ですが、今しばらくお時間をください」

 なんだ、つまらないの。殺し屋が出し抜けに銃を取り出してわたしを撃ち殺したら、公園にたむろしている連中がどういう反応を見せるか楽しみだったのにさ。

「ですが、ご安心ください。依頼を受けたからには、準備が整い次第、速やかに殺しに伺いますので」

 やる気に満ちた殺し屋の言葉を、わたしは「はいはい、せいぜいばんばってね」とすげなく受け流した。

 そのとき、公園の一角から怒声がわき起こった。何事かと思って目を向けると、そこにはスケーターやダンサー、ストリートミュージシャンといった連中が一堂に会していた。何やら揉めている様子だ。

 ストリートミュージシャンの調子外れな歌声のせいでリズムが崩れたスケーターがダンサーのレトロなラジカセに突っ込み、その衝撃でボリュームのつまみが動いて大音量となり、ストリートミュージシャンの歌声をかき消してしまった。ストリートミュージシャンがダンサーに文句を言い、ダンサーがスケーターに詰め寄り、スケーターがストリートミュージシャンを罵倒するという具合に互いを責めたてる。日頃から異種の相手を自分のパフォーマンスの邪魔だと思って煙たがっていたこともあり、同一ジャンル同士で結束して相手勢力を非難し合う事態となった。――周囲から漏れ聞こえてくる話を総合すると、だいたいそういう状況であるようだ。

 抗争は瞬く間に公園全土へと飛び火し、中には殴り合いを始める者まで出る始末だ。それぞれのオーディエンスやナンパ目的で公園にいた連中は、その新しい見世物に大いに盛り上がり、やんやの喝采を送っている。

 そんな周囲の熱狂とはうらはらに、わたしは冷ややかな面持ちでその仁義なき戦いを眺めていた。

 よくもまあ、こんなどうでもいいようなことでいちいち熱くなれるもんだわ。とてもじゃないけど、わたしにはついていけそうにないね。

 騒動に興味を失ったわたしは、再び殺し屋と向き合おうとした。こいつはこいつで、別の意味でついていけそうにない相手なわけだけど――

「……あれ?」

 そこに殺し屋はいなかった。あたりを見回してみたものの、目立たない効果を狙っているようでいて、その実、周囲から浮きまくっていた黒ずくめの男は、まるで最初から存在していなかったかのようにこの場から消え去っていた。

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