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わたしの殺し屋  作者: 大里 トモキ
act3
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 その黒き死の到来を、わたしは氷のように静かな心で受け止めた。

 ……遅かったじゃない。いいかげん待ちくたびれちゃったよ。ほら、さっさとやってちょうだい。一刻も早く、わたしを退屈から救い出してよ。

 殺し屋は田丸たちの脇をすり抜けて、わたしの方に向かって駆けてくる。懐に手を入れ、中から黒光りするものを取り出した。銃だ。

 それを見たわたしは、背を向け、殺し屋が来るのとは反対側の出入り口に向かって走り出した。

 背中越しに田丸と中沢がわたしを呼ぶ声が聞こえた。

 それに応えることなく、わたしは公園の外に飛び出した。

 町の中をひた走るわたしの行く手を大勢の通行人が邪魔をする。わたしは彼らの隙間を縫い、ときにはぶつかって文句を言われながらも駆けていく。

 殺し屋は誰にもぶつかることなくわたしを追ってくる。

 横断歩道を渡ろうとしたところ、緑色のタクシーが飛び出してきた。けたたましいブレーキ音を響かせ、わたしの数センチ手前で停止する。「赤信号が見えないのか!」と怒鳴る運転手にわたしはぺこぺこ頭を下げながら前を通りすぎる。

 殺し屋はひらりとタクシーのボンネットを飛び越えてわたしを追ってくる。

 わたしはビルとビルの間の路地裏へと入った。殺し屋が気付かず前を通りすぎてくれることを期待した。

 しかし、殺し屋は何の迷いもなく路地裏に入り、わたしを追ってくる。

 わたしは迷路のような路地裏をひた走りながら、自分の選択が失敗だったのではないかと思い始めていた。たしかに人通りのない路地裏なら誰にも行く手を邪魔されないけど、その条件は殺し屋も同じなのだ。むしろ、わたしを追いやすくなったといえるかもしれない。

 殺し屋はぐんぐんわたしに迫ってくる。

 何かがわたしの足にぶつかり、たまらず転倒してしまう。倒れたわたしの脇を行く手を邪魔をしたポリバケツが転がっていく。わたしは擦り剥いた膝の痛みも忘れて立ち上がり、そのポリバケツを手に取る。中にはまだゴミが残っているのか少し重たい。根性で持ち上げると、殺し屋がやって来る方向めがけて投げつけた。床をバウンドしながら転がってくポリバケツ。

 殺し屋はそれを難なく飛び越える。

 それを見て、わたしは再び駆け出す。

 殺し屋が追う。

 わたしは路地を右に曲がる。

 殺し屋も右にまがる。

 ちょっとした段差になっているところをわたしは飛び越えた。

 殺し屋は段差を長い足でひとまたぎする。

 わたしは逃げる。

 殺し屋が追う。

 逃げる。

 追う。

 逃げる。

 追う。

 逃げ――わたしは足を止めた。

 目の前に広がっていたのは、三方をビルの壁に囲まれた袋小路だった。

 振り返ると、こちらに迫ってくる殺し屋の姿が見えた。

 わたしは隠れられる場所がないか探したけど、猫が入り込めるような隙間すら見当たらない。

 殺し屋が迫る。

 わたしはビルをよじ登ろうと試みたものの、何の引っかかりのもない壁には手をかけることすらできない。

 殺し屋が迫る。

「誰か! 誰か助けて!」

 わたしは叫んだ。自分の声があたりに反響する。返事はない。

 殺し屋が迫る。

 わたしはたまらず頭を抱え、固く眼を閉じた。

 嫌だ! こんなところで殺されるだなんて、絶対に嫌だ!

 殺し屋がすぐそこまで迫る。

 死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない――


「死にたくない!!」

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