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わたしの殺し屋  作者: 大里 トモキ
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「げっ」

 コロッケを箸で二つに割ったわたしは、思わず声を漏らしてしまった。俵形に成形された上に衣がついているし、ジャガイモも潰してはあるものの、その茶色がかった色合いといい、肉の形状といい、それは明らかにきのうわたしが作った肉じゃが以外の何ものでもなかった。そういえば調子に乗ってジャガイモの皮をむきすぎたせいもあって、三人家族で食べるには明らかに量が多かったからなぁ。

「高屋さん、どうかしたの?」

 田丸が訊いてきたので、わたしはコロッケの前世について話した。こちらとしては、「きのうの余りものを食わされるなんてたまらないね」なんて話のネタになればいいくらいに思っていたのだけど、

「すごい!」

 田丸は目を輝かせた。

「すごいって、何がよ?」

 困惑してわたしは尋ねる。まさか、余りものを別の料理に作り替える主婦の技に感嘆しているのだろうか。

「高屋さんって、自分で晩ごはんのおかずを作るんだ。すごいなぁ」

 あ、そっちね。そんなことをしたのは今のところ、きのうの一回きりしかないのだけど、キラキラした尊敬の眼差しを向けられてしまうと、とてもそんな事実を伝えることはできず、「ま、まあね」と言葉を濁すより他なかった。

「おいしそうだなぁ……」

 物欲しそうに肉じゃがコロッケを見つめる田丸。まるでお預けをくらっている犬のようだ。

 わたしはやれやれと小さくため息をつくと、田丸のピンク色の弁当箱の蓋にコロッケの半分を入れた。

「食べれば」

「いいの?! ありがとう!」

 田丸は大げさなくらいに歓喜の声を上げた。

「いだだきまーす」

 田丸はさっそくコロッケを口に入れた。落っこちるのを防ごうとするかのようにほっぺたを抑えながら、

「おいしいなぁ。高屋さんの愛情の味がするよ」

「何よそれ……」

 田丸の食レポに呆れはしながらも、満足してもらえたことは少なからず嬉しかった。

「じゃあ、お返しに卵焼きあげるね。うちのお母さんのはフワフワしておいしいんだよ。エビフライもあげる。実がぷりっぷりだよ。ブロッコリーは……わたしは嫌いだけど、きっと気に入ると思うよ」

 田丸がわたしの弁当箱の蓋に気前よく自分のおかずを入れていく。わたしはブロッコリー以外は素直に受け取った。

 わたしは田丸家の卵焼き(我が家のものと違って甘かった)を頬張りながら、ちらりともう一人の同伴者に視線を向ける。

 中沢は一人黙々と食べていた。彼女の弁当箱は小さなお重のようで、中身もわたしのものとは違いカラフルでおいしそうだったけど、あまり食は進んでいない様子だ。緊張のあまり食欲が湧かないのだろうか。

 中沢に対していまだ警戒を解けずにいるわたしではあったけど、それはそれとして、残ったコロッケの半分を彼女の弁当の蓋の中に入れた。驚いた様子の彼女に、「あげる」とだけ言った。

「ありがとうございます」

 中沢は嬉しそうに答えた。

 こちらとしては〝衣替え〟したとはいえ、きのうと同じものを食べさせられるのは勘弁願いたいと思っただけなので、そんな感謝されても困るのだけど。

「釣り合うかどうかわかりませんけど」

 中沢はお返しとして、表面がてらてらしたプチトマトを二個わたしの弁当箱の蓋に入れた。

「これは?」

「プチトマトのハニージンジャーマリネです。皮を湯むきしたプチトマトを、はちみつとしょうがの絞り汁で作ったマリネ液に漬けて冷やしたものです」

「へーえ」

 マリネだなんてハイカラな代物、我が家の献立にはまず登場することはないだろうな。

 聞くところによると、中沢は毎朝自分で弁当を作っているのだそうだ。一回だけ晩ごはんのおかず作りを手伝っただけでドヤ顔していたわたしなんかよりよっぽど「すごい!」な。

 中沢ご自慢の一品はさっぱりしていて、焼きものや揚げものが多い我が家の弁当の中で爽やかなアクセントになってくれた。

「おいしいですね、これ」

 わたしのコロッケを食べた中沢はこれまで硬かった表情が少しばかり弛んでいた。

「でしょー」

「いや、なんであんたが得意気なのよ」

 田丸に思わず突っ込みを入れたわたしだったけど、その際、再び中沢の顔がこわばるのを見逃さなかった。

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