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わたしの殺し屋  作者: 大里 トモキ
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「お父さん、肩をお揉みしましょ――」

 夕食後、いつものように皿拭きを手伝ったわたしは、やはりいつものように父の肩を揉もうと居間に入ってきたのだが、肝心の相手がそこにはいなかった。

 テレビは付けっぱなしで(言うまでもなくナイター中継だ)、夕食の残りの肉じゃがをつまみにして飲んでいたビールは、グラスにまだうっすらと泡が残っており、ソファーはお尻の形にへこんだままになっている。そのいずれもが、父がついさっきまでここにおり、慌てて出て行ったのだということを示していた。

「チッ、逃げられたか」

 つい舌打ちをこぼしてしまったけれど、気持ちはわからないでもない。これまで肩のこりがほぐれるどころか、逆にこってしまいそうなことばかりしていたからなぁ。このままではボールの投げすぎ以外の理由で肩が壊れてしまうと危惧したのだろう。

 とはいえ、最初の頃に比べるとかなり上達したのだから、大人しく揉ませてくれたってよさそうなものなのにさ。失礼しちゃうよ、もう。

 わたしがふてくされていたところ、逃亡したと思われた張本人が居間に戻ってきた。

 父はヘンリーネックの長袖シャツにステテコという、こちらがウブな乙女なら「キャーッ!?」と悲鳴のひとつもあげそうな恰好をしていた(ようするに、わたしは平然と受け流したわけだけど)。薄い頭のてっぺんからはふわふわと湯気が立ち上っている。

「お父さん、お風呂に入ってたの?」

 そんなのは一目瞭然ではあったけど、念のため訊いてみたところ、父は「ん」と返答した。その通りということらしい。

 でも、どうしたんだろう? 普段はこんな早く――少なくともナイター中継が終了するまでは風呂に入ることはまずないのに。それも、急に思い立ったように大急ぎで済ませてくるだなんて。その理由を訊いたところで、向こうからは一文字以上の説明が返ってくることはないだろうけど。

 父はソファーに腰を下ろすと、再び「ん」とわたしに言った。あいかわらず言葉が少ないにもほどがあったけど、わざとらしいくらいに肩を回してみたり、上下に揺らしてみせたりとしきりにアピールしているので、その意図は明白だった。

「はいはい、わかりましたよ」

 自ら志願するだなんていったいどういう風の吹き回しだろうと思いながらも、こちらも最初からそのつもりでいたので、ご要望通り肩を揉んであげることにしよう。

 父は風呂上がりということもあり、当然ながら肩にフケは付いていなかった。言葉が少ないくせに案外わかりやすい人なのかもしれないな、と今さらながら思った。

 わたしは「お客さん、こってますねー」なんて言いながら父の肩を揉み始めた。


 父が悲鳴を上げたかどうかについてはノーコメントということで。

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