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わたしの殺し屋  作者: 大里 トモキ
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「遅い!」

 わたしを出迎えた母親が開口一番に言った。

 なんという理不尽……。本気で賞賛されることを期待をしていたわけではないけど、怒られるだなんて想定外もいいところだ。

 この不当な扱いに文句のひとつも言わなくてはと思っていたところ、今度は物を投げつけられた。……冗談抜きでしかるべき機関に訴え出るべきなのではなかろうか。

 胸で受け止めたそれは、幾重にも折りたたまれた布だった。広げてみるとエプロンに姿を変えた。変な薬でもやりながらデザインしたと思われるような柄だ。別に母にサイケ趣味があるわけではなく、単に布が安かったのだろう。母の方は違うエプロン――こちらは年甲斐もなくファンシーな柄。やはり値段が気に入ったものと思われる――を着けていた。

「制服のままでいいから、それを着けて台所に来なさい」

 それだけ告げと、母は台所に引き上げようとする。

「ちょっと待ってよ」わたしは慌てて母を呼び止めた。「いったい何だっていうのさ? まだ拭かなきゃいけない皿があるわけじゃないでしょ」

「夕食を作るから手伝いなさい」

「は?」

「わかったら早くしな」

「何を突然――」

 わたしはさらに問い詰めようとしたものの、すでに母の姿は玉のれんの向こうへと去ってしまった。目の前では木製の玉同士がぶつかり合い、カラカラと小気味よい音を立てている。

 ……いったい、なんだっていうんだろう?

 よくわからないけど、まごまごしていたら再び玉のれんの間から顔を突き出して罵倒の二つや三つぶつけられかねないので、わたしは困惑しつつも言われた通りにすることにした。

 カバンを部屋に置いてくる余裕はなさそうなので、とりあえず居間に放り込んでおく。

 父親はまだ帰宅しておらず、居間はしんと静まり返っていた。いくら天下の公務員様といえども、まだ小学生が外を駆け回るのを許されるような時間帯に帰宅し、のんびりテレビを見ていられるほど優雅な生活がおくれるわけではないらしい。

 制服の上からエプロンを身につけて準備を終えたわたしは、いったいどうなることやらと思いながら玉のれんをかき分けて台所に入っていった。

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