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わたしの殺し屋  作者: 大里 トモキ
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 学校におけるあらゆる物事から距離を置いているわたしではあるものの、それでも田丸がクラスでシカトされていることにはさすがに気付いていた。いくら無関心を決め込もうとも、同じ教室にいる以上、まとわりつくような陰湿な空気を肌で感じずにはいられなかったから。

 どうしてそのような事態になったのかまでは知らない。小動物ぽくて加虐的な気分を刺激させられるとか、人なつっこいというよりは馴れ馴れしくてうざいとか、本人に自覚があるかはさておいて、全身から男に媚びを売るフェロモンが発散されているようで癇に障って仕方がないとか――理由はいろいろと考えられるけど、でもそんなものはさして重要ではないのだろう。大勢の人間が集まれば、必然的にそこから弾き出され、迫害される者のひとりやふたり出るものだ。たまたま今回はその不運な役どころが田丸に割り振られたという、ただそれだけにすぎないのだろう。わたしとて小、中、高と学校生活を送ってきた身であるから、その手の集団心理は理解しているつもりだ。

 すべてのクラスメイトが嬉々としていじめに荷担しているわけではないのだろうけど、教室を支配している空気に抗するのは懸命ではないとの判断から、誰も「こんなくだらないことはやめろ!」などとは言わず、見て見ぬふりを決めこんでいるようだ。そしてこのわたしも、そんな大多数の傍観者のひとりなわけだ。

 わたしにだってまがりなりにも良心と呼ばれるものはあるわけで、いじめられて傷ついている人間を目の当たりにすれば、胸がちくりと疼かないではない。

 でも、だからといって田丸のために指一本でも動かそうという気はさらさらなかった。そんな空気を読まない真似をしようものなら、今度は自分が次の標的にされかねない。しかもその際には、これまでいじめられていた側にいた人間も喜々としていじめる側に回るに決まっているのだ。これもまた、十年以上学校生活を送ってきた経験というやつだ。己のご立派な行いに陶酔したい人間であれば甘んじてそのような受難を受け入れるのかもしれないけど、あいにくとわたしはその手の殉教者的マゾっ気など持ち合わせてはいなかった。

 そもそも、別にわたしは田丸と親しいわけではない。それどころか、クラスメイトになって半年ほど経つというのに、挨拶すら交わしたことのないような間柄だ。はっきり言ってただの他人だ。そんな縁遠い人間がいじめを受けたところで、救いの手を差し伸べてやる義理などありはしないだろう。

 わたしは穏やかな学校生活を守るため、クラスの煩わしい力学などにはいっさい関知せず、光栄ある孤立を貫くのだ。それこそが賢明なやり方というものだろう。

 ――と、いつものわたしなら思ったはずだ。しかし、今日のわたしは〝いつも〟とは違っていた。

 ……死ぬ人間が何をびびっているんだ?

 そう、わたしは近々殺し屋に殺されるのだ。どうせ死ぬのであれば後先のことなど考えず、自分の心が命じるまま素直に行動すべきではなかろうか。

 だから、わたしはしたいようにした。

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