呪い時計
とある日の事。モデルの志穂は、自宅にいた。
志穂は、有名なファッションモデルであり、最近では女優にも挑戦している。とても性格は穏やかで人付き合いも上手い、そんな人物だった。
そんなつい最近、大きな時計が壊れてしまい、知り合いの修理業者に家に来てもらっていた。
志穂「時計直りそうですか?」
業者「そうだね。多分無理そうだね」
志穂は少し残念そうな顔をして
志穂「そうですか」
業者「新しい時計を勧めます」
志穂「分かりました」
志穂は考えた。次の時計を何にしようかと
実を言うと、志穂は昔からアンティークなものが好きだった。
食器・家具などはアンティークを揃えているほどで、骨董屋を出歩いては、買うほどだった。
近くに会った携帯を取り、近くの骨董屋に電話を掛ける。
店主「はい。園田骨董屋」
志穂「あっ、私です、志穂です」
店主「おぉ久しぶりだね。今度は何だね」
志穂「時計が壊れちゃって」
店主「時計が?」
志穂「えぇ、なんか、良い時計がありますかね?」
店主「時計、時計」
店主が中を見渡す。すると、ひとつだけ大きな古時計があった。
店主「あっ、一個だけあるよ」
志穂は思わず笑顔がこぼれた。
志穂「本当ですか?よかったぁ」
店主「いつ来る?取り置きしておこうか?」
志穂「いや、今から行きます」
自分の腕時計を見ながら
志穂「あと1時間ほどで行きますから。それまで待ってもらってもいいですか」
店主は微笑みながら
店主「別に構わないよ。今日は5時までやってるから」
腕時計の時間は午後1時半。十分間に合う。
志穂はその足で、園田骨董屋に向かう。
午後3時、少し遅れてしまったが、骨董屋のドアを開ける。レジ前にいた店主は笑顔になり
店主「おぉ、いらっしゃい」
志穂「例のものありますか?」
店主「あれだよ」
店主が指を指す先には、大きな古時計があり、アンティークマニアである志穂にとっては、凄い心が惹かれ、つい惚れてしまうほどだった。
志穂「これ、いつこの店に」
店主「それが、1週間前かな。店の前にこれが置いてあったんだよ。これと一緒にな」
店主が一つの本らしきのを渡した。それを手にする志穂。
志穂「取扱説明書?」
表紙にはガイコツの絵が描かれている、なんとも不気味な書だった。
店主「中身は読んでいない。これ見ればわかるだろ、不気味だし。買わなくてもいいんだよ。こっちで処分するから」
志穂「何言ってるんですか。こういうアンティーク時計が欲しかったんですよ。買います」
店主は一瞬驚きながらも、頷きながら
店主「分かった」
志穂「いくらですか?」
財布を取り出そうとする志穂を止め
店主「いや、お代は結構だよ」
志穂は驚きの顔をしながら
志穂「え?何でですか」
店主「いや、まさか買ってくれると思っていなかったからさ。お代はいいよ」
志穂は少し戸惑いながら
志穂「そうですか。ありがとうございます」
店主は少し笑顔になった。
その不気味な笑顔は少し違和感を覚えていた志穂。
店主は書類を棚から出し
店主「いつなら空いてる?」
志穂「え?」
店主「いや、いつ家に持っていけばいいのかな」
志穂「あぁ、それなら明日の午前中なら」
店主は書類に時間と宅配先を書いている。
志穂は、あの店主の笑顔を気になりながら、家に帰る。
疲れたせいか、家に帰るとすぐにソファに座ったが、例の不気味な取扱説明書が気になる。鞄からその説明書を出し、ページをめくり始める。
そこには「呪い時計」と書かれていた。
志穂「呪い時計?」
気になりページを次々にめくり始める。
それによると、どうやら毎日深夜0時を回ると、鐘が10秒間鳴る。その間に呪いたい相手を頭で浮かべ、一人声に出して言う。すると、相手が呪われる。効果は3人だけ。呪うか呪わないかはあなた次第という内容だった。
志穂「嘘でしょ?くだらない」
説明書を目の前の机に置く。最初は信じていなかった。
次の日、午前中に時計が届き、リビングの中心に置いた。
志穂「これが本当に呪いの時計?」
午後になり、志穂は写真撮影のため、スタジオにいた。
カメラマン「はい、もうちょっと手を挙げてみようか」
言われた通りのポーズをする。志穂にとってはこの時間が一番好きであり、誇りに思っている仕事であった。そのせいか、次第に笑顔が溢れて、カメラマンからも褒められるほどだった。
2時間後に撮影が終わり、帰ろうとしたとき、自分を呼ぶ声がして振り向くと、そこには同じくモデルで同期の和多喜美の姿があった。
和多「久しぶり、元気だった?」
志穂は笑顔で
志穂「久しぶりだね。うん、元気だったよ」
和多「ならよかった。頑張ってね」
そのまま和多はカメラ前まで向かっていった。
志穂は何食わぬ顔でその場を後にする。
午後11時半
志穂は偶然起きており、次のドラマの台本を覚えていた。
志穂「「あなたには、私はもったいないぐらい。どうか忘れてください」うーん。もうちょっと感情付けた方が良いかな」
するとふいに机の上に置いてあった説明書が落ちた。それを見ながら、つい試してみようという思惑が働いてしまい。志穂は思い出していた。
一体誰を呪うか
志穂はずっと悩んでいると、ふと思い出したのは、午後に会った和多だった。
彼女は若手の頃、同じ事務所の期待のエースとして共に、人気雑誌の表紙を飾ったこともあった。
しかし、とある映画のオーディションのこと、和多と志穂は共に最終オーディションまで勝ち進み、業界の間では志穂の勝ちが確実的だと言われたが、和多はお得意の色気を監督とプロデューサーに使い、オーディションを勝ち取られた苦い、いや憎い記憶があり、それを思い出し、心の中で決意した
「和多を呪う」
深夜0時。不気味な音で鳴り始める。その時に
志穂「和多喜美」
鐘の音が鳴り終える。
志穂「そんなことないか。くだらない」
そう言い、寝室に入っていった。
早朝、志穂は久々の休日で寝ていると、携帯が鳴る。寝ぼけながら出る。
志穂「はい、もしもし」
相手はマネージャーだった。
マネージャー「あっ、もしもし志穂?大変なのよ」
志穂「どうしたの?」
マネージャー「喜美ちゃんが、顔に大やけどだって」
志穂が飛び起きる。
志穂「どうして?!」
マネージャー「まだ詳しいことは分からないんだけど、どうやら鍋が爆発して、顔に大やけどらしいのよ」
志穂は信じられない気持ちでいっぱいながらも
志穂「無事なんでしょ?」
マネージャー「無事なんだけど。他のマネージャーから聞いたら、モデル活動は不可能なんだって」
志穂「そ、そんな…」
電話を切ると、すぐに時計を見た。
「まさか本当に呪った?」
でもあり得ないと思ったが、もし本当だったらこれは使えると思い、志穂の心の闇が現れてきた。
しかし、呪う相手がいない。どうしようかと悩んでいた時、ふと思い出したのが、別れた彼氏だった。
彼からはひどい暴言や暴力を受け、その理由で別れた。よく彼からは付き合っていたという理不尽なことで、金を要求してきて、これまでこいつのせいで何百万出ていったか、そう思いながら決意した。
「こんどはこいつを呪おう」
少しぐらい怪我をしてもらわなきゃ気が済まない。ふと笑みを浮かべながら、ドラマ撮影の現場に向かっていった。
撮影現場では上手く撮影が進み、帰ろうとしたとき、取材陣が志穂に押し付けてきた。どうせ和多の件でしょ、そう思っていると
記者「すいません。和多喜美さんが事故に遭われたって件で」
志穂「すいません。何もまだ分からないもので」
記者「確か同期ですよね。何かエールでも」
志穂「しつこいですよ。すいません、失礼します」
すぐに車に乗り、その場を後にする。運転しているマネージャーは志穂に
マネージャー「ねぇ志穂」
志穂「何?」
マネージャー「例の映画出演断っていたから」
志穂「は?」
例の映画とは志穂が念願の主演を務める映画で、来月から撮影開始だった。
志穂は信じられない顔になり
志穂「何でよ」
マネージャー「あなたには、やっぱり似合わないよあの映画は」
志穂「何てことしてくれたの!あれは、私の念願の主演よ」
志穂は怒鳴りながら言う。
マネージャー「あなたは清純派のモデルであり女優。ベッドシーンがあるのはさすがに厳禁よ」
志穂「じゃあなんで最初引き受けたのよ」
マネージャー「引き受けたわけじゃない。考えさせる時間を貰っただけ。一言も引き受けたとは言っていないからね」
このマネージャーは、元々和多の専属マネージャーであり、よくこういう嫌がらせをする。今回の件もこの人は、完全に引き受けたと言ったのを記憶している。
「今度はこいつを呪う」
そう決意しながら車は志穂の家に向かっていった。
夜には、電話を掛ける志穂。相手は元彼の翔太だった。
志穂「もしもし翔太」
翔太「なんだよ。こんな時間に」
志穂「明日暇?」
翔太「なんだよいきなり」
志穂「いいから。臨時収入が入ったの。少し上げるから」
向こうで翔太が微笑んでいるのが分かった。
翔太「明日なら、午前中なら」
志穂「分かった。10時に渋谷の駅前ね」
翔太「了解」
電話を切り、予定通り深夜0時。鐘の音が鳴り始め、そこで
志穂「横田翔太」
そのまま寝始める志穂。
朝の10時、約束の時間に渋谷の駅前にいるが、当然翔太が来る様子はない。すると、渋谷の大型ビジョンにニュースが流れて
キャスター「えぇ、今日朝6時。東京都港区で、住民の横田翔太さん30歳が、交際中の女性にナイフで刺されて重傷を負う事件が起こりました」
確かに呪いはかかったが、あまりにも大きな事件に少し驚きながらも、呪いがかかった事でほっとした感情が勝ち、そのまま仕事場に向かった。
楽屋にはいつもの通りマネージャーがいた。でも実を言うと、このマネージャーの名前は「由美」だが、苗字が知らない。このままだと呪えない。そう思い、立ちながら手帳を確認している彼女に
志穂「ねぇね」
マネージャーは手帳を読みながら
マネージャー「何?」
志穂「確か、由美ちゃんって苗字なんだったっけ?」
マネージャー「何よ急に」
志穂「いいじゃん聞いたって」
マネージャーは少し怪しんでいたのか、手帳を閉じ、志穂を見ていたが渋々
マネージャー「勝馬よ」
志穂「勝馬由美っていうの?」
マネージャー「そうよ」
志穂「ありがとう」
志穂はそのまま撮影現場に向かった。
これで完了と思い、夜に家へと帰ると、すぐに深夜0時に最後の相手として鐘が鳴ると同時に
志穂「勝馬由美」
急に眠気が襲い、寝てしまった。
早朝5時過ぎ、仕事のため勝馬の車で現場に向かっていた。その道中、なんとなく気になり
志穂「ねぇね」
マネージャー「何?」
志穂「喜美ちゃんって、何時に怪我したの?」
マネージャー「変なこと聞くわね」
志穂「ちょっと気になってね」
マネージャー「6時だったらしいけど」
今のでピンときた。翔太の時も6時に刺されたとニュースで言っていた。それも和多も6時に火傷している。もしかしたら6時に呪いがかかる時間かもしれない。気になり腕時計を見ると、あと10分で6時だ。
「やばい。呪いに巻き込まれるかもしれない」
そう思い焦っていると、近くに道の駅の明かりが見えて
志穂「ごめん。ちょっとトイレ行きたいから、そこ寄ってもいい?」
マネージャー「いいわよ」
車は道の駅に向かった。あと5分で6時だ。焦りながら
志穂「ごめんね。すぐ戻るから」
マネージャー「待ってるから、急ぎなさい」
志穂が車を降り、トイレに向かうふりをして、遠くから車を見ていた。
腕時計を見ると、ピッタリ6時。しかし何も起こらない。
「なんだ、なんもないか」
と思い車に戻ろうとすると、車が突然大きな音を立てて爆発した。
嘘でしょと思いながら、思わず震えながら固まってしまった。
その後、警察の調べで原因不明の爆発として、処理されてしまったが、志穂はまさか死んでしまうと思わずに戸惑いながらも、警察からの事情聴取を終え、家に帰った。
「呪いがどんどん酷くなっていってる」
そう思いながら、時計に目線を合わせた。すると時刻は午前0時。
時計の鐘がいつもとは違う感じに鳴り始める。少し不気味さを覚えながら、震えていると、時計が膨れ始めて、そこから死神が現れる。
志穂が逃げようとすると、死神に足を掴まれて、そのまま時計の闇奥に引きずり込まれていった。
取扱説明書が勝手に開き、最後のページになる。
そこには3人の呪いが成立したら、あなたの命を頂戴いたしますと書かれてあった。
その後、刑事らが志穂の家に駆けつける。そこには時計の下で横たわる志穂の死体があった。
刑事A「鑑識だと、死因は心筋梗塞らしいです」
刑事B「こんなに若くてか?」
刑事A「えぇ」
刑事B「可哀想にな」
その後、園田骨董屋には一人の若い女性が訪ねてくる。
女性「すいません」
店主が笑顔で
店主「はい。いらっしゃいませ」
女性「良い時計とかありますか?」
店主「あぁ。良いのありますよ。1週間前にこれが店の前に置いてあったんですよ」
店主が例の呪い時計を、女性に勧める。
そう。この店主こそ全てを知って販売している張本人だった。
~終~