主人公はへこたれない!
ようやく袋に入ってある物の確認が済んだ頃には、城の住民達の殆どが夢の世界に旅だっている時間になっていた。
旅立つ直前だというのに、彼は精神的に酷くくたびれていた。
何故こんなことになった。こんなことなら袋をもらった!やった!ラッキー!で済ませれば良かった。
そうは思うが、それでも確認せねばならない理由が確かにあった。
それは幸男が王、ひいてはその部下達を何一つ信用していないから。当然のことだ。何にも関係ない俺達学生の人生をぶち壊しておいて、あのクソジジイ!我々のためにだと!ふざけるな!
その上、まったく信用できない奴等から貰ったものなど何が入っているかわかったモンじゃない。
だからこそ彼は中身に入っている物を一つ一つ確認せねばならなかった。
確認し始めの頃はまだ良かったが、まったく何も細工されたものが見つからないまま半分ほど確認し終えたときに、もう止めにしてしまおうか、という考えが何度も脳裏をよぎった。
だが万が一の事もあり、しかもここまでやって今さら投げ出せるか!ということで、彼は全部確認するはめになったのだ。
結局、細工された物は見当たらず、この城をぶち壊してやろうか!と激昂したのはまた別の話。
まったく、ああいう自分が善人だと信じて疑わない奴と来たら、何か与えておけばいいと思ってやがる!
そのあとの事は知らんぷり。ようは自分を慰めたいだけなんだろうな。
私は罪深いことをしましたが、このクソガキ共に確かな支援を行いました。旅に出たいとのたまうガキには確かな物資を渡しました。ほらこれで私の罪は相殺されましたよね?
なんて事を疲弊した頭で考えながら、今度は広げた物資を袋に入れる作業をせねばならないことに思い当たり、額に手を当てて酷く呻いた。
彼は深々とため息を吐いてから、えらく難儀そうに物資を袋に入れ始めた。
詰め込む作業事態はすぐに終わった。袋にただ詰め込むだけなのだから当然といえば当然だが。
ようやく作業が終わり、くたびれた体をベットに詰め込み、意識を落とす前にもう一度、王の罪悪感について考えてみた。
本当にそんな、ただの善人ぶりたいだけの男なのだろうか?
そう疑問に思い、最後に対面した時の王を思い出してみた。
ストレスで白髪だらけの髪に充血した目、その目の下には深い隈が、そしてやっぱり初対面の時と同じような切羽詰まったあの雰囲気・・・・
そこまで思いだし、彼は結論を出した。
きっとあの人はよい人なんだろうな、と。
そう結論を出した瞬間、一気に体の力が抜けて、意識が夢の世界へ旅立っていった。
夢を見た。
まだ父と母が生きていた頃の夢を。
あの頃は都会ではなく、田舎に、それもかなり人気がないところでひっそりと住んでいた。
だが、幸男が人狼の姿になっているところを見られてしまった。
そのせいで、石川親子は追い出されてしまった。石を投げられ、化け物と罵られながら。
そのすぐ後に、彼らのような存在を許さない教会のアサシンに付け狙われ、幸男と母を逃がすために父が大立回りを演じ、結果を見てはいないが臭いでわかった。彼は鼻が良いのだ。父は焼き殺された。
母もその後、幸男を逃がすために大立回りを演じ、父と同じ末路を迎えた。
そして幸男は何とか逃げ切り、孤児院に潜り込み、今日まで生きてきた。
彼はガバッと跳ね起きた。全身冷や汗でびっしょりだった。
何か目に違和感があったので目元を拭うと、涙が溢れていて目の縁からこぼれ落ちていた。
自分が泣いていることに気がついた彼は、そのまま涙が収まるまで動かなかった。
日が登り始めており、泣いている彼を太陽が優しく照らし出した。