王さまからの贈り物
あの日から半年ほどが経過した。
それだけの時間があれば、さすがの彼でも最低限必要なことくらい覚えられる。
人は本当に追い詰められると凄まじい学習能力を発揮するということもあるらしく、もしかしたらそれが起こった結果かもしれない。
何にせよ彼は、この城付近からそろそろ離れよう、と考えており、そのための準備をしていた。
準備は思いの外長引いてしまい、気がつけば夜になっていた。
相も変わらず彼は食事を他の連中とは一緒に食べず、部屋に持ってきてもらい一人で食べていた。
運んできてもらった料理を黙々と食べながら彼は、この料理もそろそろ食べ納めか、と微妙に感慨深くそう思った。
全くなんで俺はこんなところにいるんだ?やっぱりどう考えてもおかしいだろ、と何度も浮かんできたその疑問を頭のなかで反芻した。
あの連中が喚ばれるのは何となくわかる気がする。あのいじめっ子グループもだ。
じゃあ自分が喚ばれた理由は?何度も浮かんでは消えていった疑問を改めて考えてみる。
けれどもいくら考えたってちっとも答えが見当たらない。
こじつけでもいいというならば、自分が普通の人間じゃないってこと。
だがそれが何だというのだ。
この世界は称号やスキルがモノをいう世界なのだ。
あの身分証にすら写らないのであれば、そんなものないのと一緒ではないか。
それ以前にスキル欄や称号欄に人狼の二文字が入ってみろ、今の時代なら火炙り串刺しルートに直行だ。
住民達は嬉々として、処刑される彼に向かって罵声と石を投げつけることだろう。父や母に行ったのと同じように。
とにかく、と彼はその問いに、いつもと全く同じ結論をだした。
とにかくもはや賽は投げられた。過ぎたるは及ばざるが如し。つまりはそういうこと。
それに、もはや自分ではどうこうできる段階ではないのだ。そうやって諦めることにした。いつものように。
夕食を食べ終え、食器を返し、体を洗い、また準備を再開した。
明日の夜明け辺りでこの城を出るつもりだったから。
王にはもう明日にこの城を発つ事を伝えてあった。
その時の王の言葉が脳裏をよぎる。
『そうか・・・もう発つのか・・・あいわかった。オヌシの旅立ちを許可しよう』
それに、と王は付け加える。
『本来ならば、そもそもオヌシ等にこんな事を頼むのはおかしな事なのは理解している。たが私たちはただ黙って魔族に侵略されるわけにはいかぬ。そのためならば他者の人生をねじ曲げてまで阻止したいことなのだ』
『私を恨んでくれて構わない。いやむしろ恨んでほしい。その代わりに、どうか他の者は恨まんでやってほしい』
その言葉を聞き、幸男は今すぐこの男とその一族達を噛み千切りバラバラにしてやりたい衝動が沸き起こった。
が、幸男は何とか堪えた。その堪えにより引き起こされた震えを、王はなんとか理解してくれた証、と解釈した。
幸男の心情など露知らずに、王は幸男の旅に必要な物と十分な金銭を与えた。自らの罪を少しでも軽くするために。
そんな経緯があり、彼は大量に必要な物が入った魔法の袋をもらい、その中身を確認するために丸々一日を使って確認していた。