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曇天の決戦

 どうにか町から逃げおおせた彼は、枯れ木が疎らに生えている開けた場所に出た。


 まずいな、と彼は思った。


 こんな開けた場所では隠れようにも隠れられない。隠れてやり過ごすことが出来ないとなるともう走って逃げるしかない。


 今の彼の状態ではそれはあまり上手くいきそうに無かった。


 思うように足が動かなかった。ここに来てついに、この数日間で起きた出来事が彼に襲い掛かってきたのだった。


 体が重かった。体力は有り余っているのに何故だか呼吸が落ち着かない。一歩進むごとに歩みがどんどん遅くなっていく感覚があった。


 早く逃げなければとは頭で理解していても、心が全く聞き入れず、足取りは重くなる一方だった。


 まだ十分離れていない、とっとと足を動かせよ犬ヤロウ。どれだけ自分を罵ってもまるでダメだった。


 ついに彼は立ち止まり両の手を膝に置き息を荒げていると、目の前の地面が爆ぜた。


 その衝撃で彼はもんどり打って倒れ、後頭部をしたたかに打った。


 目の前に星をちらつかせながらどうにか立ち上がり、後頭部を抑えながら状況判断しようとし、今度は左肩に衝撃を受け、身を捻ってたたらを踏んだ。


 衝撃を受けた左肩を確認しようとし、抉れた肩口を見て彼は驚きのあまり顔を強張らせた。


 肩が抉れたことに対してではない。もう追いつかれてしまったのかという事に対してである。


 付近を見回すと数人の騎士が、どうやら手柄欲しさに集団から独断で抜け出した数名が、彼を前にじりじりと獲物を構えにじり寄ってきた。


 今の衝撃はそのリーダー格らしき男が放ったのだろうか?手を突き出しながら下卑た表情を隠しもしない男が、喚きながら切りかかってきた。


 その剣撃を受け流し、どうにか隙を見つけて駆け出そうとして、真横から衝撃波を受けて跳ね飛ばされて地面を転がった。


 その方向を見ると手を突き出した男が立っていた。


 魔法か!そう考えたと同時に、男たちが魔法を次々と放ってきた。


 最早手加減している場合ではない。他者の命を顧みる余裕など今の自分にはない!こいつらを除け、一刻も早く離れなければ今度は自分が焼かれるのだ!


 そう焼かれる。内なる声が囁く。はっはは!結局こうなる。冒険者どもが作ってくれた隙をお前は無駄にしたんだ。


 感傷など後でいくらでもできるのにも関わらずお前は今やった。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない!ここまでくると滑稽を通り越して茶番にもなりゃしないな!


 内なる声を雄たけびでかき消し、彼は魔法の雨をまるで回避せず男たちに向かっていった。


 皮膚が焼けただれ、肉が抉れ、骨が折れ、血を流れるままにして接近してきた幸男に、男たちは化け物と叫びながら何とか仕留めようと魔法を撃ちまくった。


 だが全く勢いを止めずに走り寄ってくる幸男に、ついに魔法での攻撃をあきらめ、獲物を構え近接戦を挑んできた。


 それが男たちの寿命を縮めた。横一列に並んで突撃してきた騎士たちに彼は手刀を一線。真っ二つに叩き割られた男たちは臓物を溢しながら倒れ伏した。


 安堵の息もつかの間、背後から飛来した大量の魔法に背中を穿たれ、前のめりで勢いよく倒された。


 どうやら本当に追いつかれてしまったようだ。


 呻きながら立ち上がり、そちらに向き直り彼は構えた。彼が構えたと同時に教会騎士たちは魔法を一斉に放ってきた。悪しき魔獣を滅するために。


 それを見て内なる声はあはあはと嘲笑い、さも愉快そうに彼を罵りまくった。


 雨が降り始めた。



 --------------------



 雨が降っている。無慈悲で無感情で、それでいて誰に対しても平等な慈悲深き雨が。


 そんな雨が降りしきる地で、幸男は俯いて佇んでいた。


 彼の周辺には無数の屍と、その屍のものであろう臓物や夥しい血が、雨に打たれてひっそりと朽ち果てるときを待っていた。


 雨に流され、少しずつ霞んでいく血を見て、この血の半分以上は自分の血なんだろうなと、ぼんやりとした頭でそう思った。


 かぶりを振るってそんな考えを振り払って、そして曇天の空を能面のごとき満ち足りた表情とガラス玉の様な生き生きとした目を向けた。


 曇天を睨み付けながら、彼はいつもの様にこう思う。


 どうしていつも最後はこうなるんだろう・・・・・・・。


 ともかく逃げなければと思い、走り出そうとし、今までの比ではないほどの悪寒に襲われ咄嗟にバックジャンプした。


 その一瞬後に彼のいた場所に切り裂かれた跡ができた。


 今のは!?と思いその剣擊が飛来した方向を向くと、そこには恐るべき教会の騎士が、美しい女騎士が険しい顔で立っていた。


 聖騎士を視界に入れ、もはや自暴自棄になった彼は瞬時に人狼へと姿を変え、爆発的な勢いで飛び掛かった。





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