スキルが無ければ旅立てばいいじゃない!
転移してから初めのころは、あわただしい日が続いた。
何せこの世界について知らなければならないし、その上自分のスキルの把握、及び訓練などをしなければならなかったから。
幸いにも、王は彼らに惜しみない待遇を与えてくれたので、そこまで難儀はしなかったが。
転移してきた初日に幸男がした提案を、王は快く受け入れた。
スキルが無いなんて、なんて役に立たない小僧だ!貴様など獄中で死ね!と言われると思っていた幸男だったので、二つ返事でOKを出されて逆に困惑したのを覚えている。
なんにせよ幸男は勇者殿達と違い、戦うためではなく、生きていくことを重点して、主に座学を勉強していた。
護身術ぐらい学ぶべきでは?という王や訓練の指南をしている兵に言われたが、幸男は曖昧な表情でやんわりと断った。
その表情を見て、兵たちはこれ以上は無駄だなと思ったようで、それっきり訓練の提案はしてこなくなった。
幸男にはそれがありがたかった。そのおかげで彼は必要な時以外誰にも話しかけられなくなった。
これのおかげで座学に集中できる。少しでも早くこの場所から立ち去りたかったから。
戦いたくないという理由もあるし、それだけではなくあんまり一緒の空間に長くいるといつかボロが出るのではないか?という懸念があったからだ。
これだけはばれる訳にはいかない。これだけは決して。
虐げられる者にはできる限りなりたくなかったから。
幸男は必要な本を図書室から持ち出し、自分に与えられた部屋に持って行って勉強することにしている。
今日も世はこともなし、なんて取り留めもないことを考えていたら、訓練場のあたりから嘲笑と打撃音と悲鳴、そのあと遅れて怒号が聞こえてきた。
『お前たち!畑に何でこんなことを------』『うるしぇ~!俺には力があるんだぜー!何しようが----』
力あるものが力なきものを虐げる。どこへ行ってもそのしがらみからは抜け出せないようだった。
だが話を聞いていくうちに、どうやら畑が思いのほか抵抗してきて、それに腹が立ち3人で袋にした、ということが分かってくる。
(俺もその姿勢は見習わなくちゃな・・・)自分よりはるかに弱い存在が、巨大な悪に立ち向かっているという事実に、少しだけ彼は勇気づけられた気がした。
「さぁ、今日も勉強勉強・・・」
部屋につくなり彼はさっそく持ってきた本を机に置き、一番上にあるこの国についての本を開き始めた。
『この国の名であるキング王国の由来は、ある没落した王族が自らの一族に復興のために-------』
コンコンと扉がノックされる。
「はい、なんでしょう?」「お夕食をお持ちしました」
もうそんな時間か、そう思い窓に目を向けると日が沈み、麗しき夜になっていた。満月と星が輝く夜に。
「どうもすみません・・・」「お客様ですもの。当然のことです」
ドアを開け夕食を受け取り、机の上の本や紙をどかし、黙々と食べ始める。
(贅沢言う立場じゃないのは分かってるけど、王家の料理人が作ってるってモノの割にはそこまでじゃないよな~)
この世界はいわゆる中世ヨーロッパの様な時代で、むしろこの世界ではこれが最上級のモノであるとは理解している。が、食堂のご飯ぐらいのおいしさなので、少々疑問に思ってしまったのだ。
食べ終えた食器を厨房に届け、王たちと一緒に食事をしている勇者たちの部屋を通過し、さっさと体を綺麗にし、また勉強を再開した。