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21話

 魔女の前から一目散に逃げ出した彼は、転がるように山を抜け山の麓にある村へと逃げ込むように入り込んだ。


 息を切らして走り寄ってくる幸男の様子に、村の入り口に待機している兵士は不審に思ったが、その幸男を身なりを見て兵士は彼は冒険者か旅人で、おおかた魔物に襲われでもして山から逃げてきたのだろうと思ったらしく、特に咎められずに村に入ることを許可した。


 村入り込んだ彼は入ってきた勢いのまま宿へ駆け込んだ。幸運にも部屋は空いており、早口で部屋を借りたいと店主に言い、渡されたカギを奪うように取り、急いでその部屋に駆け込み震える手でカギをかけ、そのままずるずるとドアを背に力なくへたり込んだ。


 へたり込んでしばらくは全く何も考えられず、ただ漠然と上を見ながら呆けた様子でたたずんでいた。


 へたり込んでそれなりの時間が経過し、さすがにこのままではいけないと考えた彼は、へたり込んでしまった体をどうにか動かそうとしたが、まったく力が入らずいくら立ち上がろうとしても駄目だった。


 結局彼は立ち上がることをあきらめ、えらく難儀した様子で何とか体育座りに体勢を変更した。


 そしてようやく物事を考えられるようになった瞬間、彼の思考はまるで濁流のごとく魔女についての考えに飲み込まれた。


 あの後彼女はどうなったのだろうか、やはり俺のことを醜い獣と思ったのだろうか、あの場にいたらまた拒絶の言葉を吐かれたのだろうか?あるいは俺があいつらを連れてきたと思われたのかもしれない。


 いや待て、もしかしたら俺が連れてきたとも思わず、その上あんな大軍を根こそぎぶっ殺してくれて感謝してるのでは?


 そう考えた瞬間、自分の内なる声がその甘い考えをあざ笑うように吠え立てる。


 お前は馬鹿だ。馬鹿で甘ちゃんだ。と嘲り笑う。いったいどこの誰が俺のような特異な人間のことを気持ち悪くないなんて言うんだ?あんな辺鄙な場所に住んでいる女が俺のことを認めてくれるとでも?あまつさえ感謝だと?ふざけるのもいい加減にしろ、と内なる声は吠える。


 俺は絶対に感謝なんてされないし、変化することを認めてくれる奴なんていない。俺がたどる道なんてろくなもんじゃないし、末路はお父さんとお母さんとおんなじで、最後は石を投げられながら焼かれてお仕舞さ。まともに死ねると思うなよ、と内なる声は彼をとことん罵り嘲った。


 内なる声に罵られながら彼は窓から見える沈みゆく太陽を見た。雲の隙間から見えるその太陽の見せる美しさによって自分の惨めさが浮き彫りになった気がして、彼はさらに惨めな気持ちに落ちてゆき、気が付けば泣いていた。


 目元をごしごしと拭っても拭っても落ちてくる涙に、とうとう彼は拭うことをあきらめ涙を流れ落ちるままにして、膝を強く抱えすすり泣いた。


 太陽は今や完全に沈み、雲に覆われた夜空は月明りすらなく闇のように暗かった。彼は意識が落ちるその時までただ黙って泣いていた。




 -------------------



 鳥のさえずりで彼は目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 とりあえず立ち上がろうと考えた彼は、難儀して立ち上がろうと力を入れたが、なかなか力が入らず起き上がるのにえらく時間を費やした。


 なんとか立ち上がった彼は下に降りてゆき、宿でサービスで出されるあまりおいしくないが量だけはある朝食を腹に押し込み、外に出て村を見て回った。


 小さな村で、家がまばらにあるだけでこれといった特徴がない辺鄙で侘しい村だった。しいて特徴をあげるなら小さな教会がぽつんと一軒あることだけの村だった。


 協会があることに気が付いた彼は、とにかく近寄らないようにして体制が整い次第すぐにここから離れなければ、と考え沈んだ心をどうにかして引き上げるためにまた部屋に戻りそのための作業をした。


 部屋で休んでいること数時間後、何やら外がにわかに騒がしくなっている事に気が付いた彼は、何だ何だと思い外に出て原因を聞こうとした。


 近くにいた村人に声をかけ、どうしてそんなに慌ててるんだと彼は聞いた。


「どうしてだと?!あんた旅の人か?冒険者かい?なんだっていい!とにかく戦えるなら迎撃隊に参加してくれ!山からたくさんの魔物がこの村に突っ込んできてるんだ!」「何だって!」


 村人からの言葉に幸男は絶句してしまった。馬鹿な!何故?どうして!と頭の中では疑問にあふれていた。


 そしてあることに思い至る。


 まさかアンリの時と今回のことは偶然ではないのでは?と。


 だがもうそんなことを考えているほど余裕はないらしく、村の外からたくさんの戦闘の喧騒が聞こえ始めた。


 今村の外で戦っているのはこの村の自警団らしく、戦闘員はそれ以外存在しないと村人が言っていた。


 このままでは全滅してしまう!と考えた幸男は急いで加勢に行こうと走り出したが、もう村の外に行く必要はなくなった。


 なぜなら、自警団だけでは捌き切れなくなった魔物が村の中に侵入し始めたからである。


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