転移
閃光が収まり、あたりを見回すと、他の者はまだ目が眩んでいるのだろう、全員がふらふらしていた。
まず目に入ったのは切羽詰まった雰囲気を醸し出している、年は大体40代前半ほどだろうか、王冠をかぶった身分が高そうな男が立っていた。その隣にはその妻らしき女が。付近に兵が彼らを守るように立っている。
足元には何か、幾何学的な、この世界の文字らしきものがびっしり書かれた大きな魔法陣(幸男はこれに似たようなものを見たことがあるのですぐに分かった)が書いてあった。
よく見たら魔法陣のすぐそばにゼエゼエと息を荒げている、自分たちとあまり年が離れていないような美しい女が横たわっていた。一人だけじゃない。服装からしてシスターだろうか?なんにせよそういった類の者達が気絶していた。
ようやく他の者も回復したのか、あたりを見回したり、毒づいたり、興奮している等々様々な反応をしていた。
「こっこれは・・・、あっあなた達はいったい!」
あのいじめっ子たちに立ち向かっていた男子生徒が、眼前の身分が一番高いらしき人物に困惑しながら問うた。
「このようなご無礼をどうかお許しください、異国の選ばれし強者たちよ」問われた男が謝罪しながら自己紹介をしてくる。
「私の名はキン=キングダムと申す、こやつは我が妻のメアリンタールじゃ」紹介されて軽く会釈する女。どうやら女王のようだ。
「このような場所で状況説明をするわけにはいかぬ。客人である諸君らに失礼だからな。これから説明いするのにふさわしい場所まで案内するので、どうかついてきてほしい」
そう言って出口へ向けて王が歩を進める。それにしぶしぶ男子生徒がつき従い、他の者も後に続いた。
案内された場所は、防音の魔法が施された(入るときに王が言った)広い会議室らしき場所だった。
座るように促され生徒たちは好きな席に座る。
最後に幸男が座る前に座っている生徒をちらりと見た。
(見事にグループが分かれたな・・・)
長テーブルの一番王に近いところにあの3人といじめられっこの彼と幸男が、その向かい側にはいじめっ子グループ3人が座っていた。早朝でホームルーム前だったことを含めてそこまで人数がいないのは不幸中の幸いだったのだろうか?
「それでは説明を開始する。結論から言うとだな、オヌシ達を全く別の世界に召喚したんじゃ」
そう切り出し説明していった。
要約すると、全く無関係のお前たちを勝手に拉致し、危険で恐ろしい戦場に率先して立ち、魔族の頭目の首を取ってこい。もちろん帰ることはできない、といった内容だった。
「そんな!じゃあ俺たちはもう帰れないってことなんですか!」そんな内容に彼は、立花健司は悲痛な声でそう訴えた。
「そんな戦争なんて私たちは何も関係ないじゃないですか!それに私たちにそんな大それたことをするような力なんて無いんですよ!」立花の隣にいた薫リサがそう援護射撃を繰り出す。
それに便乗し「私たちにどうしろというんですか!」と薫の隣に座っている星川聖子が絶叫する。
「ウム、そうじゃな。その反応は当たり前のことじゃ。わしらはその言葉の刃を喜んで受け入れよう。だが私たちはそれほどまでに追い詰められているのじゃ」
それに、と王は付け加えて力がないという言葉を否定した。
「確かに力はなかったかもしれない。だが召喚に伴い何かしら諸君らに力が芽生えているはずじゃ。あれはそういう秘術でな」「なんだって!」
「今からオヌシ達にカードを配る。それに力を込めるように念じてみてくれ。そうすればどんなものが付与されたかを見ることができる」
使用人たちが一人一人にカードを配っていく。
「そのカードは、身分証の様なものでな、持ち主の身分やスキルなどが反映されるんじゃ」
こいつ話題をすり替えやがったな、とぼんやりと考えながら、幸男は言われたとおりにカードに力を籠め始めた。
何かに力を注ぐのは何度かやったことがあるので、すぐにカードに変化が現れた。
石川幸男:18 ♂
スキルなし
称号 ひとでなし
だろうな、ひどく冷めた感想をこぼした。それだけだった。他の人達はどうだろうか・・・。そう思い、ちらりと彼らの様子を観察した。
「これが俺の・・・?」
立花健司:16 ♂
スキル 光魔法3 身体強化3 耐久強化3
称号 勇者
「わ!スキルが魔法ばっかり!」
薫リサ:16 ♀
スキル 火魔法3 水魔法3 風魔法3 闇魔法3
称号 超魔法使い
「これが・・・私のスキル・・・?」
星川聖子:16 ♀
スキル 聖魔法3 回復魔法3
称号 聖女
「・・・・そんなっ!」
畑太郎:16 ♂
スキル 身体強化1
称号なし
「いぴぴー!やったぜ!見ろよこれ!」「おーすげっ!おー!」「おー!俺もなかなかやるんじゃない!」
喜ぶもの、驚愕するもの、絶望するもの、と点でバラバラなリアクションをしていた。
「おい、お前のカード見せてみろよ!」「あっ!」そう言っていじめっ子のリーダーは畑のカードを取り上げ、仲間とまじまじと見て、大爆笑した。
「「「ダセー!」」」
そのあと一悶着あった後ものの、おおむね事態を理解し、今日は解散となり、拠点になるであろう、個室に一人ひとり案内されていった。
幸男は一人残り、王にある提案を話していた。
「私にはスキルがないので戦えません。なので旅に出たいと思います」