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狼の恩返し

「大変だ!ゴブリンの巣内のゴブリンどもが予想以上に変異していた!そのせいで討伐隊がヤバい!」


「なんですと!」とギルドの職員がぼろぼろの男たちを介抱しながらその報告に驚愕していた。


 幸男はその話を聞き、あの男のことが思い浮かんだ。


 ファーストコンタクトは酔っぱらった状態だった。クソウザい絡みと酒臭い息。そのせいで依頼を見れたのは次の日になってしまった。


 次に会ったのは依頼の報告の時だ。オークの無残な死骸を見て足を踏み鳴らしながら喜んでいた。


 そして昨日。こっちが聞いたらちゃんと理由を話してくれた上に忠告までしてくれた。


 向こうにそんなつもりなど無かったのかもしれない。ただ聞かれたから答えただけかもしれない。


 会って間もないどころか向こうとの接点などほぼ何もない。興味関心があるのかどうかもわからない。


 それでも良かった。依頼の時には感謝してくれた。聞かれたことに答えてくれたし、どんな理由であれ忠告までしてくれた。


 彼にはそれで十分だった。感謝し恩返しするに足る十分な理由だった。


 だから彼は向かうことにした。


「職員さんよ」「はいなんでしょうか?」


 なので彼は、ぼろぼろの冒険者たちを介抱している職員に討伐隊が向かった場所の確認をするために話しかけた。


「連中が向かったのは街道の途中にあるあの森でいいんだよね?」「そうですが・・・まさか一人で向かうつもりですか!」


 場所の確認のためにそう聞いてきた幸男に、まさか一人で向かうつもりかと聞いてきたが、もう幸男はギルドから飛び出していた。


 街を駆け抜け、街道を風のように走り去り、ほんの数分で彼は森の中に入っていった。


 どこにいるかは知らないが、そんなものは関係ない。鼻が勝手に位置を教えてくれるから。


 鼻に従いながら彼は思う、どうか生きていてくれと。


 目的のゴブリンの巣に近づくにつれてゴブリンの臭いと人間の血の匂いがどんどん強くなっていく。


 しかも道中には沢山のゴブリンの死骸と時々人間の死骸が混じっていた。


 これだけ色々な臭いが混じていてはあの男の臭いを判別するなんて不可能だった。


 ならば耳ならどうだと思ったが、これも様々な絶叫や喧騒の音でちっとも判別できなかった。


 もう生きていることを願うしかないと思った彼は、わき目も振らずに音の中心地点に突っ込んでいった。


 すぐ前方に倒れている冒険者の男に棍棒を振るおうとしているゴブリンが見えた。


 そのゴブリンの頭を走ってきた勢いのまま腕を振るい頭部をたたき割る。


 このゴブリンの巣はどうやらゴブリン達がある程度整備したようで、ちょっとした広場のようになっていた。


 そんなゴブリンの巣は完全な乱戦になっていた。大量にいるゴブリンを相手に人間たちがどうにか動き回って少しずつ削っていっている。


 が、ほとんど焼け石に水のようだった。冒険者達の数は時間が経つにつれてどんどん減っていったが、逆にゴブリンは森に散っている同種を集めてどんどん増えていた。


 一晩中戦っていたようで、冒険者達30名はいたのだが今では10人ほどに減っていた。


 そんな数では100を超えているゴブリンは絶対に殲滅できないだろう。


 その上ちょくちょくゴブリンの変異種が紛れ込んできて、しかもボスらしき大きな個体までいた。もはや完全に彼らは詰んでいた。


 なので彼は、まず冒険者たちを囲んでいるゴブリンどもを一掃することにした。


 爆発的な勢いでゴブリンたちに接近し、冒険者たちを囲んでいるゴブリンたちの周りをぐるりと回り冒険者たちの前で急停止した。


 一瞬後、囲んでいたゴブリン全員の頭がずるりと落ちバタバタと倒れ伏した。


 冒険者たちはそんな光景に唖然とし、その光景を作り出した張本人を見て完全に思考が消し飛んだ。


 そんな様子の彼らを無視し、こちらに飛び掛かってくるゴブリンたちを次々引き裂きバラバラにしてゆく。


「ギィ!」と殴り掛かってきた5匹のゴブリンを爪の一振りでまとめて惨殺。


「ギャピー!」と背後から殴り掛かってきたゴブリンの頭の噛みつき、かみ砕いてから付近のゴブリンに投げつけた。


 と今度は矢が飛来してきたので、たった今殴り殺したゴブリンを盾にして矢を受ける。


 矢を撃ってきたのはゴブリンの変異種のようだ。多少の魔法が使えるらしく魔法で矢を複製して次々撃ってくる。


 飛来する矢を変異種に一気に接近する事で回避し、そのままの勢いで胴体に手を突っ込み内側から真っ二つにした。


「「「「ギャー!」」」」とゴブリンの団体がわらわら突撃してきたので引き裂き、殴り倒し、噛み千切りただひたすら殺戮していった。


 そして冒険者たち付近のゴブリンをあらかた殺したので、彼は一気にゴブリン達を屠るために冷線を吐き出した。


 冷線を放出したまま首を振り回し、逃げようとするゴブリン達を残らず砕いていった。


「ギャオー!」怒り狂ったボスゴブリンが最後の抵抗とばかりにこちらに走り寄って攻撃しようとしてきたが、冷線により一瞬で砕かれその一撃が届くことはなかった。


 今砕いたボスで最後だったようだ。後には冒険者たちの荒い息遣いだけが響いた。それ以外の音は何もなかった。


 残心が済んだ彼は、冒険者たちの安否を確認するために近づいて行った。


「おいぶじk「ギャア!化け物!」「頼む近づかないでくれ~!」「死にたくない死にたくない!」「畜生なんでゴブリン退治なのにこんなバケモンが・・・!」


 そんな命乞いをする冒険者たちの中に、あの男がいた。声をかけようとしたが、その恐怖に見開かれた眼を見て、止めた。


 やるせない心をどうにか鎮め、軽くため息をしてからもう一度あの男を見る。やはり恐怖に染まった顔をしていた。

 

それを確認した彼は無言で彼らに背を向け、霞のように消え去った。


 後に残ったのは男たちの荒い息遣いと、人狼が残した悲しみだけだった。



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