act-06
ユベルト王国には現在、貴族が通う王立学園と平民が通う都市学校が存在する。
貴族の通う王立学園は王都に1校のみだが、平民の通う都市学校は各主要都市にそれぞれ配置されており、授業料は破格。どんな身分、どんな人間も分け隔てなく通える学校だ。
在籍年数は王立学園が5年、都市学校が3年と異なるが、一般教養の内容はほぼ同じである。都市学校は一般教養を3年で身に付けたら卒業となり、その後の進路は様々である。
平民に混じって貴族の三男以下が通うことも多い。
王立学園の4・5年は主にダンスレッスンやマナーレッスンなど、紳士淑女になるための授業に充てられる。
ここに通う貴族の子供たちは跡継ぎの長子、それを支える次男、そして政略結婚が主な令嬢が多い。
「イヴさん、おはようございます」
「おはようアリシア」
「今日の授業はリコット先生ですよ」
「……アリシアは本当にリコット先生が好きなのね」
イヴは王立学園の2年生である。
正式な嫁ぎ先が決まっていないイヴは、父にこの学園で人脈を広げて来いと半ば強引に入学させられた。
人脈を広げる=誰か相応しい相手を見つけて来い
ということだ。
「ふふ。だって素敵じゃありませんか」
イヴの隣で柔和な笑みを浮かべているのはアリシア・コンドル伯爵令嬢である。
金糸のような艶やかな髪は緩くウェーブが掛かっており、彼女の穏やかな雰囲気を引き立てている。瞳はエメラルドグリーンでまさに宝石のように綺麗に澄んでいる。
そんな彼女が熱を上げているのがエリオット・リコット先生。
王立学園の教師試験に最年少で合格した天才と呼ばれる人物だ。
「……私は興味ないわ」
「イヴさんのお眼鏡にかなう方は存在するんでしょうか」
「どうかしらね」
黒く短い髪をすべて後ろに撫で付け、焦げ茶色の切れ長の瞳は一見厳しそうだが実は笑うと可愛い、と女子の間で人気のリコット先生だが、イヴはあまり興味がないのかアリシアとの話を適当に切り上げる。
つまらない。
すべて、すべて、色の無い世界のようでつまらない。
だって
(私にはあの人が居ればそれで良いのよ)
「さあ、早く教室に入らなければ大好きなリコット先生に怒られるわよ」
イヴはアリシアにそう言うと、一足先に教室へと向かうため歩みを再開した。