act-05
「イヴお嬢様、おはようございます」
「……おはようターシャ」
「夕べはあまり眠れなかったのですか?」
「少し夢見が悪かっただけよ。大丈夫」
いつもの時間、いつものようにアーリーモーニング・ティーを持って起こしに来る専属侍女のターシャは、褐色の髪を頭の高い位置で1つに結んでいる。彼女が動くたびに左右に揺れるその髪は元気な彼女のトレードマークだ。
彼女はイヴが幼い頃に父親が雇って来た。イヴより2つ年上のターシャは当時から仲の良いお姉さんのような存在である。
「今朝はオリジナルブレンドのたっぷりミルクティーです」
「ふふ。ありがとう」
ベッドで上半身だけ起こしてターシャからカップを受け取る。
芳醇な紅茶の薫りをたっぷりと吸い込んでからゆっくりと口を付けると、口のなかに濃厚なミルクと紅茶の渋みが広がった。
イヴは紅茶を飲みながらふと、バルコニーの方へと視線を投げる。
昨晩現れた逝聖者と名乗る男・ノースと、彼のお目付け役だと言ったシヴァ。彼らに問われ願いを言ったところまでは覚えているが、その後どうなったのか全く分からない。
(鍵までちゃんと閉まってる)
鍵を掛けて眠りについたはずのバルコニーに続く扉。
それをどうやってか開け、そして閉じていった彼ら。
(本当に逝聖者なのかしら)
イヴは小さく首を傾げ、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干した。