act-03
カタリ。
小さな音を立てて開いた窓から吹き込む冷たい風に、頬を撫でられる。
フルリと震えながら身を起こすと、月明かりを背にバルコニーに誰かがいた。
「……だれ、」
「俺は逝聖者」
真っ赤な洋服を着て赤い帽子を被った恰幅の良いおじいさんは、顎に真っ白な髭を蓄えている。帽子から覗く長い髪も、髭同様に真っ白だ。
白い大きな袋の中は子供たちへのプレゼントでいっぱいで、それをトナカイが牽くソリに乗せて空を駈ける。
クリスマスの日、煙突からやってきて枕元の靴下の形をした袋にプレゼントをそっと入れていく。
それがお伽噺でよく聞くサンタクロースの姿。
しかし、目の前に静かに佇む男は恰幅の良いおじいさんではなく、細身の、お兄さんと呼べるくらいの男性だ。
赤い帽子も被っていなければ、白い髭も蓄えていない。大きな袋も持たないし、トナカイの牽くソリも見当たらない。
「……魔法使い、なの?」
それはユベルト王国が他国に隠し通さなければいけない唯一の存在。
失われた魔法が使える、たった1人の存在。
お伽噺でサンタクロースが居るため、庶民には魔法使いと呼ばれている存在。
「俺が魔法使い?」
「サンタクロースではなく、逝聖者なのでしょう?」
「……っはは。君たちは面白い呼び方をしているんだね」
隣でしゃがみ込む全体的に気だるそうな男が何やら面白そうに喉の奥でクツクツと笑っている。
「魔法使いね。でも残念。逝聖者はそんな優しい存在じゃないよ」
「あなたも、逝聖者なの?」
「いんや。僕はシヴァ。君たちの言う魔法使いのお目付け役、かな」
「……じじいと一緒に引退すりゃ良かったのに」
よろしくね。と人懐っこい笑みを浮かべるシヴァを横目で睨みながら逝聖者はボソッと何かを呟いた。
私はそれを聞き取ることが出来ずに首を傾げる。
途端、風が激しく窓ガラスを打ち付けた。
「僕だってこんな面倒な事したくないの。ノースから言われたから着いてきてるけど、あんまり生意気なこと言うと消すよ?」
「……っち」
シヴァと名乗った男は、逝聖者より立場が上らしいと言うのが今のでわかった。
「俺はノース。お前たちの言う魔法使いってやつだ」
ノースは月明かりの照らすバルコニーの手すりに腰を掛け、大仰に足を組見直すと
「お前の願いはなんだ。俺が叶えてやる」
と言った。