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act-26

『私を忘れて幸せになって欲しかったのに……』


 それは誰かの悲痛な願い


* * *


 満月が照らす街は、前日まで降った雪もありとても明るい夜だった。

 雲ひとつ無い夜空には煌々と満月が上がり、星の輝きを消している。地上は前日まで降っていた雪が白く覆っていて満月の明かりを反射している。

 イヴは約束の今日、お気に入りのドレスを着て、バルコニーへと続く窓を開けノースたちを待っていた。


 昼間はターシャや父、アリシアに会って言葉を交わした。何気ない、いつもの会話。しかしそれはイヴにとって最高に幸せな日常だった。


 消えたい。


 そう願っていたはずなのに、父と向き合ってからの日々はとても充実したものだった。


「これはまた、今日は一段と綺麗だねえ」

「着飾る必要なんて無いだろう」

「えーでもほら、最後の日くらい綺麗で居たいだろうよ」

「……意味わからん」


 街が寝静まった頃、1ヶ月振りに現れたノースとシヴァにイヴはドレスの裾を持ち上げ挨拶をする。


「約束の日だね」

「……ええ。私が消える日ね」


 バルコニーの手すりの上にしゃがみこむシヴァと、腕を組み手すりに立つノース。イヴはそんな二人を見つめ微笑むと、ゆっくりとバルコニーへと歩みを進めた。

 ノースから1人分ほど距離をあけバルコニーの手すりを掴むとイヴは街を見つめながらぽつりと言葉を溢す。


「あなた達に会った時は、この世は色のないつまらない世界だった。心のどこかでいつも誰かをさがしていた」


 『あの人がいない』と叫ぶ心と、何をしても色のつかない世界。

 つまらなくて仕方がなかった。


「でも、この1ヶ月はとても色彩豊かな1ヶ月だった」


 父と話し、ターシャと話し、アリシアと話した。

 ああ、あと最後にアルベルトとも話したのだった。ごめんなさいと頭を下げるイヴに「だと思った」と笑うアルベルト。何とも思っていなかった相手のはずなのに、あの時ばかりはとても美しいと思った。


「有難う。素敵な1ヶ月をくれて」


 ノースを見上げお礼を言うイヴに、ノースは理解できないと眉間に皺を寄せた。


「……なぜだ? なぜ逝聖者(サンタクロース)に感謝する?」

「なぜかしら。でも、私はあなたに会ったから向き合うべき人と向き合えたの。そうね、それに対する感謝かしら」

「……変な女だな」

「自分を消してほしい。なんて願いをする女がまともなはず無いでしょう?」

「それもそうだな」


 ふわり。と、その時初めてノースが微笑んだ。

 そしてノースの銀色の髪が、風に靡く。


「……アルジェ」


 イヴの口から漏れた言葉に、ノースの瞳から色が消えた。

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