act-24
ワインレッドの髪の女性が、泣いている。
* * *
「今、学園を休んでいる、たまは既に学園を退学している方は5学年で合わせて30名ほどです」
「全員が逝聖者に会っているのかしら?」
「内13名が会っていると言うのは確認出来たのですが、噂程度の方も居て全員かは分からないです」
お昼時、いつもは賑わう学園内は心なしかどんよりしている。
どんな願いでも叶えてくれる逝聖者。
失われた魔法を使える、唯一の存在。
そして、今は恐怖の対象。
染み渡る青い空には雲1つなく、冬だと言うのに陽射しがポカポカと暖かい。今日の夜は満点の星空だろう。
彼が現れる条件には到底なりそうもない。
「……アリシア、気を付けてね」
「特にどうしても叶えたい願いもありませんので、大丈夫ですよ。イヴさんも気をつけてくださいね」
「……ええ」
アリシアに曖昧に笑いながら、しかし、気を付けると言う言葉はついに言えなかった。
* * *
『私は、もういいの。お願い、お願いだから、私を忘れて』
ワインレッドの髪の女性は、涙を流しながらそう呟く。
くすんだ灰色の髪の、誰かに向けて
「ごきげんよう、リール・アルフィート」
『……シヴァ、さま』
真夜中の街は静かだ。
少しずつ欠ける月を眺めながら、シヴァは己の手を握りしめる。
「ふふ。君も俺のことを様付けするんだね。変なの」
『アルジェは、何をしようとしているの?』
ワインレッドの髪に、銀色の瞳。透き通るような白い肌。
体は彼女のものでは無いのに、その姿は彼女そのものだった。
「……思い出したんだね。さて、記憶を取り戻した君は、まだあいつの事が愛しい?」
『……ええ。と答えて良いのかしら』
「良いんじゃない。魂の記憶は嘘つけないから。うん、なら最後まで見守っててあげてよ」
どんな結末になるかは、きっと、君次第だから。
* * *
「結局、逝聖者は愛に溺れるのかな」
雪の降る、平原が続く先にはポツリと1軒些末な小屋がある。
初代ノースが住むその小屋を見つめながら、シヴァは小さく呟いた。
愛を知らない自分には理解出来ない感情を、ノースもあいつも持っている。
それがなんだか、酷く痛かった。