act-19
父のジャンフィットにたっぷり3時間説教をされたイヴは、疲労困憊の表情で昼食を摂っていた。
説教の内容はやはり、この前の夜会でのイヴの振る舞いについてとアルベルトの求婚のことだった。
主催なのだからダンスを断るなんてもってのほかだ、とか、ローゲン侯爵家は同じ侯爵家とは言え、歴史は向こうの方がある。嫡男が夜会の度にダンスに誘って下さっているのだから無下にするな。夜会が終わったらゲストが居なくなるまで見送るのがホストの務め。なのに途中で逃げあげく隠れるなど言語道断。
そんな振る舞いをしたお前を嫁に欲しいと言ってくれているのだから、ローゲン家に嫁ぐのがお前のため。
と言うことらしい。
のだが、見送るのがホストの役目なら何故父は居ないのか、という疑問がイヴの中で浮かんだ。まあ問うたところで一喝されるのがオチなので口にはしなかったが。
「明日から1週間、朝晩、ミクルガ様のレッスンがあるとのことです」
何度目かわからないため息と一緒にコーンスープを飲んでいたイヴに、側で仕えていたターシャが伝える。
ミクルガと言う名前が出た途端、イヴの眉間に皺がよる。
「わざわざミクルガ様をお呼びになったの?」
「……そのようです」
「ミクルガ様ももうご高齢……ルタから出てくるのは大変なのではないかしら」
「ミクルガ様は今、王都の娘ご夫婦のお屋敷にいらっしゃるようです」
ターシャのその言葉に、イヴは泣きたくなるのを賢明に堪える。
ミクルガ・ルナンシェは元々は王城の教育係だった。
王家に見初められた王妃候補たちは後宮でミクルガの教育を受ける。のだが、あまりにスパルタで厳しいため、途中で根を上げる令嬢もたくさん居た。
ジャンフィットとは同じ王城務めと言うことで話をする機会が多かったらしい。ミクルガが教育係を辞めたあと、ジャンフィットは短期でイヴの貴族令嬢としてのレッスンをミクルガに頼んでいる。
何年か前、年齢を理由に王都から馬車で3時間ほどの片田舎である故郷のルタへと引っ込むまで、短期レッスンは両手で足りない数している。
言葉遣いは丁寧で、教え方も上手い、自発的に考えさえる部分も好ましい。が、如何せん本当にスパルタなので、イヴは父と同じく、ミクルガが苦手なのだった。
「明日から1週間、朝も夜もレッスン……学園に行けるのが唯一の救いだわ。ターシャ、午後は籠るわね」
「かしこまりました」
イヴは明日からのことを考えまた1つ、大きくため息を吐くのだった。