act-18
「本当の話だよって言ったらどうする?」
シヴァのその言葉に驚いて、勢い良く彼を見ると悪戯っ子のような笑顔で「なんてね」と言った。
「嘘、なの?」
「どうかな。本当かもしれないし嘘かもしれないね」
「……」
「ふふ。2000年も前のことなんて覚えてないよ」
しゃがむシヴァはとても楽しそうにそう言うと、よっと声を上げ立ち上がる。
イヴは、そんなシヴァを見上げため息を吐いた。
外ではいつの間に雪が止んでいたのか、月明かりが一層強くなったような気がした。
「もう少しの我慢だから、それまで待っててよ」
シヴァはそう言うと、くしゃりとイヴの頭を撫で笑った。
* * *
「イヴ様、夜分遅くに大変失礼いたします」
「……ターシャ? どうしたの?」
シヴァが立ち去ってから暫く、イヴはベッドに座り外を眺めていた。月明かりが雪に反射して夜中だと言うのに明るい。
と、暫くボーッと外を眺めていたところ、控えめなノック音が響いた後、侍女のターシャの声が聞こえた。
潜めてはいるが、いつもより硬い声音がイヴの耳に入ってくる。
「……明日、ご当主がお帰りになるとの事で、お伝えにあがりました」
「お父様が……」
「はい」
「分かったわ。有難う」
「いえ。ではお休みなさいませ」
「ええ、お休み」
イヴの父親、ジャンフィット・フェイル伯爵は格式を重んじる頑固な人だ。侯爵令嬢として間違った事や品格に合わない事をすると幼い頃から怒られた。
それでも、母が生きていた時はまだマシだった。
たかが外れたように厳しくなったのは、母が亡くなって程なくだった。
以来、イヴは父が苦手だ。
幸いと言っていいのか、王城で財務トップの任についているジャンフィットが家に帰ってくる事は稀。フェイル家主催の夜会も初めの挨拶に居るくらいで、後は父の妹であるクリスティーンが全てを仕切っている。
そんな父が帰ってくると言うことは、前回の夜会でアルベルト・ローゲンのダンスを断ったことや自室に逃げたこと、その後の学園での求婚のことまで耳にしたのだろう。
説教と、侯爵令嬢としての心得を再度叩き込まれ、あとは求婚を受けることの話をされるのだろうことが容易に想像出来、イヴは小さくため息を吐き、ベッドへと潜り込んだ。
「今回は1週間ほどかしら」
外ではまた、雪が降り始めていた。