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act-16

 その日、イヴはワインレッドの長い髪の女性の夢を見た。


 その女性はとても寂しそうな表情で、じっとだれかを見ている。

 彼女の視線の先を追うと、銀色の髪と真っ赤な瞳を持つ青年がいた。


『……』


 鈴の音のような声が、誰かの名前を紡ぐ。

 その名前はきっと、彼女の視線の先にいる『彼』。

 しかしなんと呼んでいるのかは、聞こえているはずなのに音にならず消えていく。


『……』


 彼女が伸ばした手は虚空を切り、彼には絶対に届かない。

 そのことを知っているのだろう。彼女は静かに涙を流す。


『……私は、もう』


 彼女はそれきり言葉を発することは無かった。


* * *


 次の日、街はすっかり雪景色だった。

 王都の主要な道は夜中に掃除夫の男たちが雪かきをしてくれるため、雪が降った日でも馬車を動かすことが出来る。

 イヴはいつもの時間にいつものように馬車に乗り込むと学校へと向かった。



 広い車停めスペースは貴族用の学園特有のものであり、1度に何十の馬車が留まれるほどのスペースがある。

 しかし、いつも登下校時はその広さでも補いきれない程の馬車が溢れ返っており、なかなかに大変な状況だ。

 がしかし、今日の車停めスペースは心なしか空いているように思えた。


 イヴは侯爵家という立場ゆえに専用の車停めスペースがある。 

 だから登下校時のパンクには縁はない。

 専用のスペースに向かう際に、脇を通るのでいつも心苦しいくらいだ。


「……メルーニ男爵家、アトレー子爵家、あと幾つかの下級伯爵家」


 同じ時間帯に車停めを利用する家の者たちはここ2年でほぼ把握しているイヴは、ざっと車停めスペースを見回し居ない者を確かめた。

 そして、車停めにいる他の屋敷の従者たちの話に耳を傾ける。


 曰く、アルフィード家の嫡男以降、少しずつ同じように入院や特殊な理由により学園を休む者が増えているらしい。


 イヴのクラスでそう言う人間が出ていないのと、噂に無頓着故に気付かなかった。


 学園を休んでいる者の共通点はただ1つ。

 逝聖者(サンタクロース)に願いを叶えて貰ったと言うこと。


「……」



 人は何かしら叶わぬ願いを抱いている。


 この世の理から外れるものや、道徳心に反するものだけではなく、身分で許されないものや、自分の力ではどうにも出来ないもの。

 叶えられない理由は様々で、それは他人からしたら些細な願いかもしれない。


 でも、それでも、願いを持つ者にとってはとても大きく、果てしなく、求めてやまない願い。


 必死で足掻いて、それでも届かない願い。


「…………」


 代償を支払って叶えられた願いは、果たして彼らに幸福をもたらすのだろうか。

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