act-15
「アルベルト様、」
「お返事を頂こうと思いまして」
アルベルトからの2度目の呼び出しは、先日の申し出への返答の要請だった。
普段とは違う、アルベルトとイヴ以外誰もいない放課後の中庭はピンっと冷たい空気が張っているように感じる。
「……私のようなものには有難いお話ではあるのですが」
前回とは違い、お互いベンチ近くの木の下で向かい合って立つ。
アルベルトは背が高く、平均的な女性身長のイヴはアルベルトを見上げる形になる。斜め下から見上げるアルベルトの顔は確かに整っていて綺麗だなと思った。
「父に聞いてみなければ……」
「フェイル侯爵は貴方に婚約者を立てていないと聞きましたが」
「そ、れは、そうなのですが」
自身の爪先を眺めながら歯切れ悪く答えるイヴ。
アルベルトも気付いているだろうが、イヴの父はイヴは婚約者を立てていない。そして爵位は同等だが、優劣ではアルベルトの方が優。父に確認したところでイヴはアルベルトの申し出を受けることになるのは目に見えている。
「フェイル侯爵に確認するのであれば確認してください。しかし、」
侯爵は喜んで下さると思いますよ。
アルベルトはそう言い残し中庭から立ち去った。
ああ、この世はなんて残酷なの。
貴方のいないこの世などつまらないと言うのに。
でも
"貴方"はだあれ?
* * *
「あれ、お出迎え?」
夜。
今日はすっかり雪景色で、空を見上げても月は出ていない。
アルベルトのことをどう父に説明しようかと考えていたら、バルコニーに1つの影が降りた。
「……お目付け役が目を離して大丈夫なの?」
「あいつなら大丈夫だよ。今は動けないから」
イヴが開けたバルコニーの扉から中に入ってきたシヴァは、意味ありげにそう笑うと近くにあったソファーに腰を掛けた。
「動けない?」
「ん? ああ。気にしないで」
「良く分からないけど、ねえ、私はいつ消えるの?」
シヴァが腰かけた向かい側。一人掛けのソファーへ静かに座ったイヴはまっすぐシヴァを見つめて口を開いた。
「……いつ、かな。僕には何も言えない」
「早く、消えてしまいたい」
「何故?」
「……だって、あの人が居ないんだもの」
ぽつりと溢したイヴの言葉に、シヴァは興味無さげに「ふうん」と呟いた。
しかしその瞳は赤く光っていた。