act-14
憎かった。
国王が、王子が、王騎士が、王城に雇われている上位魔法使いが、そして自分自身が。
『……なら、すべてを殺してしまえば良い』
「……お前は」
『俺が誰かなんてどうでも良いだろう。憎いなら殺してしまえば良い。俺と契約すればそれが出来る』
「契約」
『全て殺したあと、お前の魂を俺にくれれば、お前が憎む全ての者を殺してやるよ』
ノースはその声の主と契約をした。
そして、ノースの望み通り、ノースが憎むもの全てを殺した。
「あとは俺だな」
『なあ、ノース。人間を辞める気はないか?』
「どうした急に」
『いや。なんとなく、お前を食べるのが惜しくなってな』
「人間を辞めて、俺にどうしろと?」
『そうだな。俺みたいに色んな人間と契約すれば良い。相手の願いを叶えて、代償を貰う。簡単だろう?』
「魂を食べるなんて気色悪いことしたくない」
『魂じゃなくても良い。俺が魂が好物だっただけだ』
ニシシッ。と気色悪く笑う声に、ノースは一瞬耐え難い表情を浮かべる。
が、その後、ふっと力なく笑うと
「人間を辞めるのも有りかもな」
と言った。
数多くの人間を屠ったノースは、自分のなかでは既に人間では無いと言う気持ちだった。
声の主と契約する前に、父とミノフスの領民を己の手で殺し、町に火を放った。
「どうしたら俺は人間を辞められるんだ?」
『俺を喰えばいい』
「なんだよ。結局気色悪いじゃないか」
そうしてノースは人間を辞めた。
これが逝聖者の最初の物語。
* * *
「って、逝聖者じゃなくて悪魔じゃない」
秘密の部屋で赤い革張りの本を閉じたイヴは小さくごちる。
サイドテーブルに本を置き、ソファーに体を預ける。ランタンの光が小さく揺れた。
「……ノース。彼の髪は青くなかった」
青い髪と青い瞳を持つ人間はこの国では珍しい。
魔力云々は既に失われて長い年月が経っているから分からないが、昔、確かに隣国と争った歴史は存在する。
「このお話は本当なのかしら」
イヴの呟きは誰に聞かれることはなかった。