act-13
それは遠い遠い昔のこと。
タミニアと言う小さな町に、ミノフスと言う男がいた。
この男はこの町の領主で皆に慕われる心優しき男であった。
そしてミノフスにはニアと言う娘と、ノースと言う息子がいた。
そのミノフスの娘が国王に見初められ、第1王子の妻になることとなった。
「お父様にお兄様、王都についたら何か美味しいものをお送りしますね!」
娘であるニアは、綺麗なブルーの長い髪と、髪と同じブルーの瞳を持っていた。この国では青い髪も青い瞳も珍しく、そして保有できる魔力が他者より多いと言われていた。
「王都には美味しいものが沢山あると言うからな。楽しみにしているよ」
結婚前夜、親子水入らずの最後の夜。
明日の朝になれば、ニアは王都から来る馬車で王子のもとに嫁ぐ。第一夫人では無い上に、小さな町の領主の娘。爵位も無いニアとの結婚式は行われることは無い。
「タミニアのみんなに会えなくなるのは寂しいけれど」
「たまには帰して貰えるだろう。その時、王都の話をたくさん聞かせてくれ」
「もちろんですわ! ノースお兄様!」
ミノフスの息子・ノースもニアと同じく青い髪と瞳を持つ。
色はニアより薄いため、魔力の保有量はニアの方が上だ。
ノースはミノフスの跡を継ぎ、タミニアの新たな領主になることが決まっており、先日、ニアのお祝いとノースのお祝いを町全体で盛大に行った。
「お会いしたことのない方のところに嫁ぐ不安もありますが、向こうでも頑張りますわね」
「あまり気負いするなよニア」
2人の子供たちの新たな旅立ちに、ミノフスは一抹の寂しさとともに嬉しさを噛み締めていた。
しかし、これがニアと交わした最後の言葉となった。
* * *
ニアが王子のもとに嫁いでから半年。
一向にニアから連絡が来ないことに不安を覚えたミノフスは、ノースに勉強と称して王都に上ることを進めた。
ノースはすぐにそれを了承し、翌日には王都へと旅立っていった。
* * *
「ニアが、死んでいた……」
1ヶ月後、ノースからもたらされた訃報にタミニアの領民たちは悲しんだ。
なんでも、ニアは王都に着いた1ヶ月後には既に亡くなっていたとのことだった。
魔力の保有量が多いニアは、隣国との密かな争いのために第一王子に嫁がされ、王都に着いた次の日には争いの最前線付近に行かされた。
「魔力の保有量が多いと言っても、ニアは戦いなんて出来ない。攻撃魔法だって……」
戦いの素人だろうが、攻撃魔法をさほど使えなかろうが、魔法が使える人間は隣国には脅威になる。
そう考えた王子はニアを使った。そして、勝った。
「なんで、なんでニアなんだっ! 戦争がしたいなら俺で良いじゃないかっ!」
「……ノース」
ニアより保有量が少ないとは言え、稀少な青を持つ男なのだ。
男の自分ではなく、なぜ女のニアなのか。
そう言ったノースに、国王は冷たい視線で
「相手が女のほうが油断すると思ったのだが、相手も馬鹿じゃなかった」
と言い放った。