act-12
母に教えられた秘密の部屋は、普段、本棚にその扉を隠されている。
イヴは母が亡くなったあと、父に言って母の部屋を貰い受けた。
母に教えられたこの秘密の部屋と共に。
「……始まりの、逝聖者?」
秘密の部屋は本棚の後ろにあるからか、本棚4つ分ほどの横長の部屋だった。
奥行きは本棚1つ分ほどだろうか。ちょっと広い秘密基地だ。
扉を開けた正面に机があり、机の左右にはびっしりと本の詰まった本棚がある。扉の右側も同じように本棚があるが、こちらはあまり本が入っていない。
イヴはその秘密の部屋にソファーを持ち込み、暇があればそこに籠っている。
ランタン1つだけの明かりは部屋全体を照らすことは出来ず、イヴはいつもランタンを片手に母が集めたという本から気になる本を引っ張り出していた。
「ずいぶん薄いのね」
絵本のような薄さの本は、とても綺麗な赤い革張りの表紙だ。
中を開くと文字と絵が書かれており、子供向けの小説のような感じがした。
イヴはソファーに腰掛け、ソファーと一緒に持ち込んだサイドテーブルにランタンを置く。
そして赤い革張りの本を丁寧に開いた。
* * *
ユベルトから魔法が消えたのは今から1500年以上前。
なぜ魔法が消えたのかはいくつか俗説があるが、どれも根拠がはっきりとしない為、正確なところは不明である。
1番有力な説は、長年に渡り人間が魔法を使い、地上の魔力を補助するものを使いきった為。と言うものだ。
そんな魔法を、現在も唯一使える存在が逝聖者と呼ばれる者なのだが、この存在もまた、分かっていない事の方が多く、謎に包まれている。
そもそも魔法が消えたのが1500年以上も前なのにも関わらず、今も魔法が使える逝聖者は魔法が不死なのか。それとも子や孫、と特別な血を受け継いでいるのか。
なぜ逝聖者と名乗り、色んな人の願いを叶えているのか。
分からないことが多すぎる。
がゆえに創作活動に持ってこいの存在なのか、逝聖者を題材にした作り話はたくさんある。
イヴが手にした本もその中の1つのようだ。
「逝聖者は、愛する者を己の手で殺してしまった人間の成れの果てである」
赤い革張りの本の出だしは、なんとも物騒な雰囲気を醸し出していた。