表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

act-10

「ねえ、イヴさん。逝聖者(サンタクロース)を見たことはある?」


 お昼の時間。沢山の生徒が詰め掛ける食堂の奥、2人用のテーブルでそれぞれのランチを食べていると、アリシアはヒレ肉を優雅に切り分けながらイヴにそう問いかけてきた。


「……急にどうしたの?」

「いえ。あるかなと思いまして」

「ない、けれど。アリシアはあるの?」


 イヴは少しの焦りを悟られないように、白身魚を小さく切って口に運ぶ。


 思い出すのは数日前。

 月明かりの中、シトシトと雪が降る静かな夜の出来事。


「私は無いですが、先日、隣のクラスの方がお会いしたと騒いでらしたので」

「……っ」


 確かにイヴが彼らに会ってから少し経った後にも逝聖者(サンタクロース)が現れる条件が整った夜があった。


「その人は、願いを叶えて貰ったの?」

「ああ。騒いでらしたのはご友人で。そのお会いした方は今入院中で良く分からないのです」

「入院?」


 彼らは願いを叶えるかわりに大事なものを貰うと言っていた。

 願いの重さに比例していると言うその大事なもの。入院は願いを叶えた代償と言うことなのだろう。


「騒いでいたご友人いわく、その願いを叶えて貰った方、利き手の親指が使えなくなった、と」


 アリシアの話によると入院したのはニック・アルフォード。

 アルフォード家の嫡男である。


 アルフォード家は代々王騎士を輩出している名家だ。


 王騎士とは、王族の住まう王城、そして王都、隣国と接している都市や要所を守る騎士団のことであり、アルフォード家現当主は王騎士団の騎士長をしている。


「親指が使えないと剣は握れないわね」


 ニック・アルフォードと言えば学園内では右に出る者は居ないほどに剣術と体術に秀でていたはずだ。毎年年度始めに行われるテストでは2年連続で剣術・体術部門で1位だったと記憶している。


「……ええ。騎士団でも将来有望と期待されていたと聞いていますが、今回のことで騎士団は諦めるしか無いとか」


 親の七光りと言われがちな貴族社会の中で、自身の力で認められるのは難しい。そんな難しいことを彼はやっていた。


 しかし、逝聖者(サンタクロース)に願いを叶えて貰ったが故に、その努力が水の泡となった。


(自分の1番大切なものを犠牲に)


 ニック・アルフォードにとって、剣を握ることが1番大切なことだったのだろう。

 だから彼らはそれを貰った。


(ニック・アルフォードがそれほどに叶えたかった願いとは何だったのかしら)


 それはきっと、イヴには理解出来ないことのような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ