公式 1:夜に浮かぶ
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世の中には謎が満ちている。
身近なものから、そうでないもの。それらはふとした瞬間に解き明かされ、そして社会へと浸透する。
しかし、全ての謎がそのような道をたどるわけではない、解き明かされず放置されるもの、解き明かされたが社会に馴染めず消えていくもの。
そして、解き明かされ社会に浸透されるのを拒まれたもの。それらは社会へと出ることを拒まれ、社会の大半を占める一般人に知られることなく密かに消されていく。
それに善か悪かといった問いは無意味だ。いや、正確には消されていったものたちがもし存在していたならば、という仮定が存在しないのではそれを問うことができない、というだけのこと。もし存在していれば・・・いかなる混乱がこの世界を覆っているのだろうか。その混沌と化した世界を見て、それに問うことは出来るのか。
比べるべき世界は存在しない。
今ある世界を享受し、そこに生きていく者達には比べる意味を持たない。
何故なら、その者達は…。
*
―――深夜。
一台の車が道路脇に停車する。
後部座席から人が降りる。一人の男性。その人物は車の中に顔を突っ込み、運転席に座る誰かに声をかける。
「戸田。お前等はここにいろ」
「分かってるわよ。私達、荒事は専門外よ」
運転手は女性。助手席に座る人物を見ながらその女性は返事をした。その視線は、夜の冷たさよりもなお冷たく感じる。
それを男は見やり、次いで後部座席に座っているもう一人の女性に声をかける。
「…ならいい。おい、行くぞ」
「はい。工藤さん」
返事をした女性は言われるがままに車を降りる。
男がそれを確認して顔を上げた。ふと、首筋に冷たいものが当たった気がした。
見上げれば、そこには白く小さい粒が舞っていた。
「…雪、か…」
*
「冷えるな・・・」
その呟きは夜の闇に漂い、誰にも聞かれること無く掻き消えていく。
言葉を発した主は己の呟きに思いを馳せる。
その者にとってその言葉の意味は他の者達とは異なる。その者には外界から受ける冷気は肉体に何の影響も及ぼさず、自らが望む環境を作り上げる。肉体的な寒さを感じての言葉ではない。冷えるのは心だ。
他とは似て非なる我が身を思い、悠久の時に身を委ねる己の心を想う。
それは孤独と呼ばれる感情。
歩みを共にする者が居ない悲しさ。心を通わせる者が居ない虚しさ。
それがその者・・・彼女の発した言葉の意味だった。
彼女は普通ではなかった。非凡という意味とは若干の差異が生じる。確かに一般人とは違うのだが、それは頭脳や容貌から来るものではない。
肉体的、いや存在的に普通ではないのだ。
その体は外界からの干渉を受けず、その意思は認識する範囲内において超常的な干渉を及ぼす。
彼女は今、雪の降る凍えるような寒さの中、その肉体から感覚的にではなく空間的に冷気を遮断している。
彼女のような存在を知る者達は、彼女達のことを「魔術師」と呼ぶ。
「魔術師」は自らが認識する世界に干渉し、自らの思うがままに現象を起こす。空を飛び、雷を落とし、炎に炙られても火傷一つせずに悠然と立つ。
だが、彼らは万能ではないと言われる。
空を飛ぶなら、それのみ。
雷を落とすならば、それのみ。
つまり、魔術師一人には一つの現象を起こすことしかできないということらしい。
全ての魔術師を調べた訳ではないため、確実ではないが、少なくとも調べた結果内においてはそういうことだった。
「だけど、…違う」
自らの思考に否定の言葉を口にし、立ち上がった。
彼女の下には地面がない。空に立っていた。
眼下に広がる都市を見下ろし、その美しき口元に笑みを浮かべる。
「初めまして。同族の方」
彼女は挨拶をする。突然の言葉、それは自らの後ろに向けられてのもの。
後ろを振り返り、すぐ傍にある高層ビルの屋上を見る。
そこに人影が二つ。一つは男性。一つは・・・同族の女。
「こいつはあんたとは違う。同じにするな」
口を開いたのは同族の女ではなく男。首元を緩めたスーツ姿がどこか飄々とした雰囲気を匂わせる。コートが屋上の風に煽られてはためく。
「確かに違うかな。まぁ、大差はないと思うけど」
「こいつは犯罪を犯さない。だから違う」
「犯罪? 私が?」
疑問の表情を見せる。相手、男の表情からは自らが何か犯罪を犯したのだと告げていた。
犯罪、それは社会において決められた秩序を乱す行為。そういう認識で言うなら、彼女は自らの過去の中でそのようなことをした覚えは・・・いや。
「あぁ…あれかな。競馬で、馬の体調を狂わせて任意に順位を誘導したこととか。あれは儲かった」
「…そんなことやってたのか」
「あれ、違う? ん〜…それじゃあ。パチンコの玉を穴に誘導して…」
「……」
「…違う、みたいね。ヒントくれる?」
「クイズじゃねぇ!」
男は彼女の告白する内容に呆れ、ついに怒鳴り声を上げる。
「…工藤さん」
「あぁ…ちっ。なんか調子狂うな。大体なんで賭け事ばかり…」
後ろに立つ女の言葉に男、工藤は冷静さを欠いたと気づき、舌を打つ。次いでぼさぼさの頭をがしがしと掻く。
「…あんたが、あれをやったんだろ?」
軽いため息を吐きながら工藤は言った。
「あれ?」
「今世間を賑わしてる例の事件だ。猟奇殺人…人の皮を生きたまま剥いで、爪を剥ぎ。歯を抜き。指の骨を折り、砕き。目ん玉を抉り取り、最後には鼻の穴から脳ミソを引き釣り出す…言ってるだけで気持ちワリぃ」
「ふむ」
確かに、その事件は知っている。しかし―――
「その事件はもう、犯人捕まったんじゃない?」
記憶が正しければ、二日前に犯人逮捕という大きな見出しが新聞で載っていたはずだ。
「あれが本当の犯人ならな」
工藤が言いたいのは。
「つまり、本当は…私だと?」
「……あぁ」
工藤の目がさっきまでとは違う真剣な光を漂わせた。
これは、茶化すのは終わりか。そう心の中で呟くと彼女は口元の笑みを崩す。
「何故? 少なくとも、何か証拠でもあるからこうしてやってきたわけでしょ?」
「うちらの機関には複数の『魔術師』がいる。現場に残された魔術…あんたらが言うには干渉の残滓が残っていた、らしいな」
「なんだか、魔術を信じていない言い方ね」
「信じられるかよ」
工藤は吐き捨てるように呟く。
「この状況でも?」
そう言って、彼女は自らの足元を指差した。魔術の顕現とも言うべき、空に立つ自分を示す。
「常識的じゃねぇんだよ。この目で見ても『はいそうですか』と納得できるかよ」
「なるほど。なかなか頑固なおじさんね」
「まだ30代だ…じゃなくて、話を逸らすな。とにかく、その干渉の残滓ってやつを追いかけたらあんたがここにいた。しかも、その状態でな」
「ふ〜ん…まぁ、80点くらいか」
「は?」
突然の採点に意味が分からず工藤は間の抜けた声を出す。
「現場の痕跡からここまで辿り着き、次いで私の存在を確認し。その私に対抗するべく同族の彼女を連れてきた。それに対する点数よ」
「…100点じゃないのか?」
「減点対象が二つあるわ。あの現場に残っていたのは私の干渉が起こした残滓、それは正解。でも、あの事件の犯人は私じゃない。だから、私が本当の犯人だと判断したのが減点の一つ。そして――」
「彼女じゃ、私に対抗できない」
*
「!!」
魔術とは、世界に対する干渉。
そこに存在する世界の在り方に手を加え、改竄する力。
工藤は突然掻き消えた目の前にいた女を捜した。一瞬、下に落ちたのかと考える。が、自らの上司の忠告「常識的に考えるな」という言葉を思い出し、そして後ろを振り返った。
「なかなかの反応ね。工藤さん」
「てめぇ…」
振り返った先に、二人の女。片や同僚である魔術師。片や犯人と思える魔術師。
同僚はその相手に首を掴まれ、足を浮かせるように吊るされていた。相手は今地面に立っている。いくら相手が女性だとは言え、それを持ち上げる力もまた女性なのだから、その力は常識的に言っておかしい。どう見てもその細腕にそんな力があるようには見えないのだ。
「うっ・・・かっ…っ…!」同僚が苦悶の顔でもがいている。
それを見て工藤は自らの胸元へと手を伸ばし、
「!?」
「お探しのものは、こちらかしら?」
工藤の顔に驚愕が走る。
胸元にはここに来る時に何度も確認した物がなく、目を開いて相手の手元へと向けると、そこにそれがあった。黒光りする鉄の塊が入った肩掛けのホルスターが。
「物騒なものをお持ちで?」
「これが…」
魔術か。
有り得なかった。目の前で起こる事象全てが異常だと感じる。
さっきまで、手をそこに伸ばすまで感じていたあの重さ、感覚、それらはリアルであった。なのに、手を伸ばした瞬間にそれがそこに存在せず、相手の手元へと移動していた。常識的に不可能な技。
「あぁ、そうそう。この娘の魔術に期待してもダメよ」
そう言うや否や、女の周辺から突風が吹き荒れた。すさまじい衝撃が工藤の下まで届き、足が浮きそうになる。
「私はその干渉を受けないから、ね」
「ぅっぁっ……!!」
同僚の力が世界に干渉したのか。魔術を使っての反撃。突風と衝撃はそれの余波だったのだろう。しかし、それすらも意に介さず涼しげに語る魔術師。
「…ま、いたずらもここまでにしときましょうか?」
異常の中の異常をいたずらと語る魔術師は手に持ったホルスターを、すっと手放し地面へと落とす。
ゆっくりと、それは重力に引かれて、
―――ゴッ
干渉の余波のせいで荒れ狂う風の音の中、なぜか鮮明にその鈍い音が辺りに響き渡った。
「なっ?!」
次の瞬間―――
何も、変化していなかった。いや、変化はしたのだ…つい先ほどまで居た立ち位置や向き、風や匂いなどが全て…魔術師が一瞬にして掻き消えたあの瞬間の手前と同じ状態に、戻っていた。まるで、今までのことが幻だったかのように。
時計を見る。時間は彼女と出会ってから数分程度しか経っていないことを示していた。感覚的にはもう少し長いはずであるのに。
後ろの同僚を見ると、自分と同じように困惑の表情を浮かべていた。
*
「どうかしら? その身で魔術を体験してみて」
空に立つ魔術師。それすらもあの時のままの状態。その彼女が微笑を浮かべながら尋ねる。
「幻術? なのか…有り得ないだろ。魔術師は魔術を一つしか…いや、それも幻なのか?」
空を飛んでいる、もしくは目の前にいるというのが幻?
「当たり。そして、はずれ」
「何?」
魔術師の返答に再び疑問を浮かべる工藤。当たりは幻術を指し、はずれは幻…いや、魔術を一つしかという件か。
彼は魔術師の摂理を上からある程度の知識を与えられている。それを魔術師によって否定された、というのはどういうことか?
上が嘘の知識を?
否。
そのような誤りの情報を与えても、危険があるだけだ。与えられた方も、与えた方も。
その疑問に微笑の魔術師は答える。
「あなた達の機関? っていうのが調べたのは一部の魔術師のこと。しかも、ここ最近の若い魔術師」
「それは…つまり、古い魔術師だと違う、ということか?」
「ま、古くても大抵はそういう結果が出るでしょうね」
「……あ?」
「あぁ、ごめんなさい。別に謎掛けをしたいわけじゃないわ。…つまるところ、あなた達が調べられる、捕まえられる魔術師って言うのは魔術師としては普通なの。どちらかといえば、人間に近いというべきかしら。そうじゃない魔術師、つまり私のような魔術師はあなた達に捕まえられるようなことは起こらないし。調べられることもない。だから、あなたが知る魔術師の情報というのはそれこそ一部でしかない、ということよ」
工藤は同僚の女を見る。彼女は自らの力が遠く及ばない存在に対して驚愕していて話に参加する余裕はなさそうだった。
なまじ魔術師としての力があるだけに、相手の力量が明確されてしまい必要以上の恐怖を持ってしまったのだろう。
工藤は同僚への心配を止めて相対する女へと向き直る。今の優先事項はこの化物との対話だ。
魔術師はそんな二人を見やりながら話を続ける。
「魔術とは、世界に干渉するための無数の公式。そして、魔術師は誰しもそれらの公式の中の一つを理解する。そして理解した公式を己が持つ魔力によって実行し、世界に干渉する。魔術が一つしか使えないというのは、魔術を一つしか知らない、理解していない、というだけのこと」
「じゃあ、何か。魔術の公式を知っていれば、魔術師は多くの魔術が使えるってことか?」
「イエス」
「あんたは…多くの公式を知っているのか?」
「それもイエス。ただし、それは一度見たことがある魔術だけに限るわ。見たことも聞いたことも、想像することもできない魔術は理解することができないから」
「…それは…どういう?」
多くの魔術を使えるというのなら、どのような魔術も意のままに理解し使用することができるのではないだろうか。
「そうね…こう言い換えようかしら。誰かが使った魔術公式以外、この世界に魔術の公式は存在しない。魔術は誰かが生み出すものではなく、既にある魔術公式を再現しているに過ぎない、と」
工藤は考える。魔術とは何か。そもそも工藤の知識で、魔術において公式と呼ばれる概念すら存在しなかった。
「私達魔術師は、その才能に目覚めた時、既に一つの魔術公式を知っている。これは野生の動物が生まれてから直ぐに走ることを知っているように。または、生まれた赤ん坊が笑顔を知っているように。とにかく、魔術師は目覚め、一つの公式を認識する。その公式は魔術師によってバラバラで、魔術師の個性とも言えるわね」
魔術師は生まれてから既に魔術師であると思っていたが、それは違うのだろうか。目の前の魔術師は、まるで人間が成長過程の上で魔術師へと目覚めると言っている。そして、目覚めた魔術師は本能においてその才覚を表すのだと。
「そういった複数の魔術公式も所詮は知っているから再現できるに過ぎないわ。赤ん坊が初めから言葉を喋るかしら? それも複数の他国の言語を? しないわよね。それと同じよ。認識した言語しか話せない人間と同じで、魔術師は認識した魔術しか使えない」
「だが…うちの機関にはそんな…複数の魔術を使う魔術師はいないが」
工藤が機関に所属して三年が経っている。三年程度で機関の全てを知ると思っているわけではないが、少なくとも与えられた情報と今まで見聞きしてきた状況からはそのようなものを確認した記憶はない。
「理解することができるということが、才能なのよ。初めから知っているのを使えるのは当たり前。新たに覚えることができる、理解できるというのは並みの才能じゃあないわ。さっきも言ったけど、複数の言語を知っていてもそれを使えるかどうかはまた別でしょう。もっとも、それは理解し得る誰かが体系立てて、教育を施せば身につく才能でもあるけれど」
「…では、魔術師であるだけでは魔術師足り得ない、と?」
「いいえ。私が言うのもなんだけど、魔術を使えるだけでも十分な才能だと思うわ。事実、今のあなたは魔術を使えないのだからそれを自覚できるんじゃないかしら。要は、魔術師であってもそれだけでは少し変わった才能を持つ人間であるというだけ。一般的な超能力者と大差ないわ。魔術師が魔術師として自覚し、人間という概念からかけ離れた異常者となるのはそこからよ」
*
ビルの屋上で工藤と魔術師が会話をしている頃、近くに停めた車の中で待機している二人組みがいた。工藤と共にここに来た二人だ。
運転席に大人の女性、助手席には小学生くらいの子供。
「冷えるわね。暖房壊れてるのかしら?」
「壊れて、ないよ」
女性、戸田の呟きに隣の子供が答えた。
それを聞いた戸田はちらりと子供を見て不機嫌に鼻を鳴らした。
「あんたに聞いてないわよ」
「ご、ごめん、なさい」
「いちいちどもらないでくれる?」
大人の女性が子供に対して取るべき態度とは程遠い様で戸田は隣の子供に言葉をぶつける。
そして、そのことに戸田自身が自覚していた、が。
(普通の子供、じゃない。こいつは、私の…)
「お、お母さん」
「!!」
車内に乾いた音が響く。
子供は目を見開き、右の頬を手で押さえていた。小さな手の下が赤く腫れていく。
「二度とそう呼ばないで! 私は、あんたみたいな化け物を生んだ覚えはないっ!!」
肩を大きく上下させ戸田がヒステリックに怒鳴る。
子供はそれを聞いて小さく開いた口を噤んだ。
それを見て戸田は気持ちを無理矢理落ち着かせていく。
「それで、何?」
戸田は子供が何かを言おうとしたことを思い出して尋ねる。今は声も聞きたくないが、それでもそれが重要なことならば聴かないわけにはいかない。もし重要なことでなければ今度は拳で殴ってやる、そう心に決めて聴く。
「く、工藤さん達が、うご、きはじめ、て…」
「あーはいはい」
最後まで喋らせなかった。工藤の名前を聞いて内容は分かった。成功したか、失敗したかどうかは分からないが、とにかく死ぬことなく状況が動いた、ということだろう。車のキーを捻ってエンジンに火を入れる。そしてゆっくりと車を動かし始めた。
*
to be next.....
コンニチワ。
どうも、作者の日乃です。妄想爆発してます。
とりあえず、お報せをば。
この小説は、投稿形式が異常です。
理由は簡単。 まだ妄想がとまらないから!
…と、なんのこっちゃわからんですよね。
この小説、【公式1:夜に浮かぶ】となっていますが。
次回投稿は【公式2:〜】ではありません。【公式1】のほうで更新していきます。
つまり、読んだところまでを覚えててねwってことです。
はい。スミマセン。変な形式で。ゴメンナサイ(汗)
とにかく、ちょこちょこ変更していくので気長に見ててくださいですよ。
んでは、また次回にお会いしましょう…会わせて下さいオネガイシマスm(_ _;)m




