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魔法の星  作者: メーティス
3/3

目が覚めた場所は

真っ暗闇の中にいた。

その真っ暗闇の中で、とても綺麗で優しい白色の光が空中にふわふわと浮かんでいる。

その光は何かを私に訴えていて、よく聞くと声が聞こえくる。


「.....き、.......て。」


何と言っているのかよく分からない。

その声を良く聞こうと、耳を澄ませる。


「........きて、.......起きて!!」


声が聞こえた瞬間、意識が急に浮上してきた。

目を開けて思いっきり体を動かして、立とうとする。

だが.......、


「痛っ......!!」


「痛いっ......!!」


目の前にあった綺麗な緑色の瞳が光る顔に思いっきりぶつかり、激しい痛みが顔全体に広がる。

顔を押さえて、俯くが、何とか状況を確認しようと顔をあげると、私と同じように顔をさすりながらうずくまっている緑色のワンピース姿のリンダがいた。


「な、なんでリンダがいるの!?」


「それはこっちのセリフよ!どうしてリコリスが此処にいるの?」


『此処』と言う単語を聞き、即座に辺りを見渡す。

白い壁が四角に広がっていて、私は白いネグリジュのままこの部屋にあった茶色い木製の椅子の上に腰掛けていたようだ。

だが、逆に言うとこの白い部屋にはこの椅子にしかないようだった。


「ここは...、私は確かナタリーの部屋にいたはずなのに。」


「私もハンスキン叔父さんに呼ばれて寝室に行ったのだけれど、それからの記憶が曖昧なの。」


「一体どうしてこんな所に連れてこられたのかしら? それに、今が何時なのかも気になるわ。」


そう、あれから寝てしまっていたとして、もう朝だったとしたら、一体学校にはどうやっていけば....。

部屋には窓一つなく、部屋の電気一つで照らされているだけだ。

しかも、この部屋は熱くも寒くもないので、日の光でもたらされる室内の変化も感じることが出来ない。

異様に不安が胸の内を支配する。

ただ一つの救いは、この部屋にリンダがいてくれた事だけだった。


「このままじゃ、埒があかないわ!

 いい加減ドアを壊してでも外にでましょ!」


そう言ったのは、今まで体育座りをしていたリンダだった。

もともとリンダは男勝りな所があるのだ。

だが、そこで不意に違和感が私達を襲った。

その違和感が少しずつ確信へと変わっていくにつれ、私の顔から血の気がサーッと引いていくのが分かった。

リンダも同じ事を思ったのだろう。

さっきまでの勢いはつねに無くしており、顔が引きつり、強張っている。


「.........ドアが。」


恐ろしくて、なかなか最後まで言葉が出てこない。

下を向き、世話しなく視線をうろつかせてしまう。


「ドアがないわ。閉じ込め.....られた。」


リンダの声がした。

顔をあげると、リンダも少し茫然とした感じで突っ立っている。

つまり、私達は誘拐されてしまった可能性も出てきたということだ。

いったい、何で私達が捕まってしまうのよ!?

だいたい、何故ナタリーはいないの!?


「どうしたら......、警察....、そうだ!リンダ、スマホ持ってない?」


「持ってた.....、けど、抜きとられてた。」


ポケットを探る仕草をしたが、何の膨らみもないポケットが絶望的な状況を物語っていた。

これでは、私達を誘拐したのは計画的に仕組まれていたことだと言われているようなものだ。

そもそも、犯人の狙いは何なのだろう?

ドアのない部屋。

つまり飢え死に?

でも、私達は恨みを買うような事はしてない、はず.......。だよね?

それに、犯人に何の利益もないし、ドアを塞ぐにしても、結構な費用がいるはずだ。

だとしたら、売り飛ばされる?

でも、やっぱりドアを塞ぐ必要はないはずだ。

むしろ、私達を縄で縛って口や目を塞ぐだろう。

でも、私達は手はおろか、身体の一部分も縛られてはいなかった。

考えれば考えるだけ、謎は深まっていくばかりだ。


「「..................。」」


小さな白い空間を静寂が支配する。

全く物音一つしない、それは十分に無言の混乱を物語っている。

混乱しているのに、結局この部屋から出るすべが見つかってはいないのだから。

頭では理解している。

こんなドアのない部屋でいつまでもいたら.........、


────? いつまでもいたら、どうなってしまうのか?

今、漠然とだが、またさっきのドアの事とは別の違和感を感じた。

もしもこの部屋に2人の人間がずっといたとしたら、それが、ドアのない部屋だとしたら.......、


─────酸素が......、なくなる?


忽然と気ずいてしまった真実、リンダは今はまだ気ずいていないようだ。

出なければまだここまで落ち着いていられる訳がなかった。

でも、今までは息苦しさなんて感じていなかった。

いや、今だってまったく息苦しくなんてない。

もうそろそろ苦しくなるのだろうか.....?


「以外と元気そうだね。」


「ぴぎゃゃゃゃゃゃややーーーーー!!!!!!」


思考の海に浸っていた私の耳を、少し低音な声と、生暖かく少し湿った風が包み込む。

耳がカーッと熱くなり、まるで兎が天敵に出会ってしまったように飛び退く。

ついでに、とんでもなく情けない叫び声を出してしまった。


「随分と可愛げのない悲鳴だったね。」


そこにいたのは、金髪の髪が煌々と月の光を受けて、天使のようになった、優しい眼差しの美少年ことファンド君だった。

ファンド君は腕を組んで、苦笑を顔に称えている。


「な、な、ななななんで、此処にファンド君が!」


「ファンド君っ!一体どうやって入ってきたの?」


まるでどこかの漫画の中のようにどもってしまう私とは反対に、さっきまでの事が嘘のように立ち上がったリンダが冷静にファンド君に尋ねる。

ファンド君は何故か足下までつく位の長く黒いローブを着ていて、そのローブの間からは褪せたジーパンと白いシャツが密かに見え隠れしている。

靴は何かの革を使っているようで、光沢が眩しい。


「ここから入って来たんだよ。」


ファンド君が指を指した先には、壁の隅の部分に丁度人一人が屈んだら通れそうな四角い穴が開けられていた。

穴の向こう側には、外の景色が見えていて、青々所狭しとはびこっている野草が生えている。


「でもどうして此処が分かったの?」


「それを説明するには時間を必要とするんだ、でも、今は時間がない、とりあえず今はここから脱出しなくちゃ!」


ファンド君はその形の良い眉をノの字にまげ、顔には焦燥感を滲ませている。

それに、さっきまでは気にも留めなかったが、よく見ると少し顔には汗が伝っていものも分かる。

何故ここまで焦っているのだろう。


「でも、あなたに付いていって助かると言う保証もないわ!」


途端に横からリンダの警戒した声が飛んでくる。

確かにここでこの部屋をでたとしても、もしかすると誘拐犯に見つかって殺されるかもしれない。

どっちを選ぶにしてもリスクは付き物だ。


なら私は............、


「お願いだっ!今だけでいいから信じて下さい!」


「────!!」


「────!!」


なんと、ファンド君は頭を床、つまり真っ白な純白の絨毯に頭をこすりつけている。

こ、これは.....!私がジャパンに行った時に見た

 ド ・ ゲ ・ ザ........!!!

なんと言うか、私のなかでの【形だけの】王子様イメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。

でもその分だけ、ファンド君の真剣さも本物だと痛いほど伝わってくる。


「清々しいまでの無様さね....。」


何故か淡々とした、リンダのいつにもました辛辣な言葉が飛んでくるが.....。


「はぁ.......、でも、その意気込みだけは信じてあげる。」


リンダが片目を瞑り、少しだけピンク色の舌を出す。

まるで子供が我が儘を言っているのを許すように。

仕方ないとでもいいたげだった。


「で、リコリスはどうする?」


リンダは両手を腰に当てて、首だけをこちらに向けてきいてくる。

私は....、流石にあそこまで誠意を見せられて断れるわけなんてない。

私もリンダと同じように、はぁ、と仕方なさそうに溜め息を吐いて、腰に手を当てると....、


「うん、一緒に脱出する!」


にこやかな笑顔で言い切った。


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