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第六二話 京へ急ぐのじゃ

 ◆天文十六年(一五四七年)七月中旬 近江国(おうみのくに)


 信長ちゃんに伴っての久々の出陣だ。といっても、付き従うのは、丹羽長秀、佐々成政、池田恒興。それに加えて、近ごろ召抱えた岩室(いわむろ)長門守(ながとのかみ)重休(しげやす)など馬廻りと、佐久間大学盛重、佐久間信盛程度と少数の出陣だ。


此度(こたび)は戦にならぬかもしれぬが、急ぎ京へ上るのが必要なのじゃ。みなのもの急げ!」

 将兵を叱咤(しった)する信長ちゃんは、お気に入りの軽量な白い鎧で身を固めて、白い鉢金鉢巻に紺の陣羽織姿。おれがプレゼントしたうす緑色のヒスイの髪飾りに合わせて、うす緑色の平たい紐をリボンのようにして、ポニーテールをまとめている。


 凛々しい信長ちゃんの姫武将姿は、見ているだけで気分が高揚する。ポニーテールが殆どの彼女には、ゴムが手に入ったら綺麗な布で作ったシュシュを贈ってあげたいと思う。

 だが、ゴムはこの時代は手に入るのだろうか? 南蛮船がもしかしたら、持ちこんでいたりするのかな。困ったり、難しいときはやっぱり頼りになるアイツ――長秀に頼んでおこう。

 できる子長秀のことだから、ひょっとすると見つけてくれるかもしれない。


 ともあれ、信長ちゃんが危惧していたとおり、明智光秀が守る京の二条城が攻められたための出陣だ。京への進軍中に追加情報が諜報衆からもたらされて、戦闘の経緯や状況が見えてきた。

 今月始めに、五月の会見を踏まえて、二条城で室町幕府十二代将軍の足利義晴が、嫡男の義藤(よしふじ)義輝(よしてる))に将軍職を譲ると同時に、斯波(しば)義統(よしむね)が幕府ナンバーツーの管領(かんれい)に就任した。

 いわば、織田傀儡(かいらい)将軍政権の誕生が、二条城で宣言されたわけ。


 もちろんこれまでの政治体制で、権勢をほしいままにしていた勢力は黙っていない。

 筆頭は前将軍義晴の元で管領だった細川晴元(はるもと)。そして、形式上は晴元の家臣だが、主家を凌ぐ実力がありこの当時の天下人ともいえる三好長慶(ながよし)だ。現在の三好長慶は、細川晴元と反目していて、細川氏綱を新管領として擁立する動きをしていたが、反織田を旗印にして再度手を組んだらしい。


 まずは細川晴元の挙兵に、三好長慶と三好三人衆と呼ばれる三好一族が呼応する。さらには長慶が擁立する細川氏綱と、南近江の六角定頼(さだより)の嫡男の六角六角義賢(よしかた)までもが出陣する。

 結果として、二条城に攻め寄せた軍勢は合計で約一五〇〇〇とのことである。とはいえ、寄せ手も一枚岩でない。長きに渡って政争をし続けた間柄で、全くのカオスだ。


 一方、織田家重要拠点の二条城を守るイケメン明智光秀も、新将軍の足利義藤名義で、南近江の六角定頼、北近江の浅井(あざい)久政(ひさまさ)、伊勢(三重県)の北畠(きたばたけ)晴具(はるとも)後詰(ごづめ)(救援出陣)を要請をしたそうだ。

 だが、この三者の援軍は期待できないだろう。六角氏は本来は足利義晴に近い筋なのに、嫡男の義賢(よしかた)が二条城の寄せ手に加わってすらいる。また、浅井や北畠が足利義藤に対し、援軍するほどの義理はないだろう。


 だいたいね。将軍に近い筋で武力を持っているヤツらが、しっかりしていないから戦乱が治まらないんだよ。室町幕府の将軍以下の政争劇には、いい加減頭にきてしまう。そこで既に諜報衆の多羅尾光俊により、寄せ手の各陣営の軍勢には、混乱を引き起こす工作員が多数潜入している。一枚岩ではない寄せ手が、何枚に分かれるか見物だな。散々に踊ってもらおうじゃないか。


 信長ちゃんも、森可成と太田牛一、橋本一巴(いっぱ)に鉄砲五〇〇を含めた兵三〇〇〇を、既に二条城に増援している。二条城守備用にもともと光秀に任せていた鉄砲五〇〇を含めた兵二〇〇〇と合わせると、合計で鉄砲一〇〇〇を含む兵五〇〇〇。

 城攻めには守備方の十倍の兵力が理想だと言われているし、三倍の兵力程度なら城が簡単に落ちる心配はない。それに、八個と数は少ないけれど、あのマロを驚かせたナパームもどきも持たせてある。光秀よ、寄せ手をしっかりこんがりと、ウェルダンにしてくれ。ただ延焼には注意するんだぞ。


 さらにもうひとつ朗報がある。

 二条城ではイケメン光秀以外には、斯波義統と足利義晴・義藤親子が篭城しているが、足利義藤の従者の細川藤孝(ふじたか)が、明智勢に混じって奮戦しているとのこと。この細川藤孝は、不思議な嗅覚を持っている男だ。いつの間にやら勝ち組にうまく入り込んで、負け組には絶対につかない。『勝ち組探査犬』ともいうべき細川藤孝が篭城しているので、勝利確率は一〇〇パーセントとなったも同義だ。大きな安心材料といえる。

 きっと今回の二条城篭城戦で、史実どおりに光秀と藤孝が仲良くなるのだろう。そして将来、光秀の娘が藤孝の息子に嫁入りして、細川ガラシアになるに違いない。元歴史マニアとしては興味深いけれど、運命を知る身からすればどんどん史実と乖離してほしいぞ。


 信長ちゃんは自らの出陣と前後して、柴田勝家にも岐阜から鉄砲五〇〇を含めた兵四〇〇〇の二条城援軍を命じている。あわせて、西美濃五人衆の安藤守就(あんどうもりなり)氏家直元( うじいえなおもと)、半兵衛の父 竹中重元(しげちか)不破(ふわ)光治(みつはる)に対しても、美濃・近江の国境の関ヶ原に、それぞれ一五〇〇の兵を率いて着陣するよう命じた。西美濃五人衆は真っ先に織田家に臣従してきた、いってみれば信用できる将たち。彼らは嫡男が二条攻めに加わっている、六角定頼に対する牽制だ。


 このように万全の救援態勢を取った今回の二条城での合戦は、史実で信長が足利義昭を擁立した後に起きた本圀寺(ほんこくじ)の変と似通っている部分がある。

 こうして信長ちゃんが少数で、京都を目指しているところはそっくり。史実では冬に変が起こり、信長が京都を目指すうちに凍死者も出たほどハードな行軍だった。今は夏なので、凍死の心配はないが、逆に暑くてたまらないぞ。


 史実の本圀寺の変は永禄十二年(一五六九年)と現在より二十年以上も後に起こる出来事だ。史実より信長ちゃんの権力が強大なうえ女子なので、バタフライ効果のように、史実と異なる部分がさらに広がっていくのだろうか。


 ◆天文十六年(一五四七年)七月中旬 京 二条城


 慌しく少数で出陣したおれたち一行が、京都の二条城に着くと、果たして既に戦は終わっていた。事情通の牛一に話を聞くと、血の気の多い可成は敗走する敵の掃討に向かっているらしい。


「わしも三左に負けず働かねばなっ!」と、武功に飢えている佐久間盛重(もりしげ)が志願して、兵を引き連れて掃討戦に出陣していく。だがその他の面々は、四日間も馬に揺られ続けなのでしばしの休息だ。

 おれも湯殿に入りさっぱりとして寛いでいると、同じく風呂上りの信長ちゃんもちょこんと横で座り、もたれかかってきた。


 はて。なにかが物足りない。

 そうだ。風呂といえば石鹸だ。この時代だと南蛮渡りのシャボンかな? ぜひにもシャボンがほしいぞ。

 湯上りの美少女に石鹸の香りは絶対に必要だな。

 これも長秀への宿題だ。主君のモチベーションが非常に高まる重要課題だぞ。


 今回の二条城の籠城戦で大殊勲の光秀がやってきた。

「さすが日向(ひゅうが)だぜ。見事な戦ぶりだったらしいな」

「日向のおかげで、二条城や公方(くぼう)(将軍)様親子、武衛(ぶえい)(斯波義統)様も無事だった。比類なき働きなのじゃ!」

 おれや信長ちゃんが、光秀の功を手放しで(ねぎら)う。


 だが当のイケメンは「三左(森可成)殿、和泉(太田牛一)殿の助力と、左近殿のなぱあむでなんとか守リ切れました」と謙虚にはにかむ。

 そして驚いたことに「殿がいらっしゃるとのことで――ほらっ! どうぞ」と、戦乱の最中に信長ちゃん用のカステーラを大量に仕入れてある。

 イケメンなだけでなく、仕事や気配りもできて人柄も温和で謙虚。本能寺の変のラスボスだけれど、最高の男ではないか。


「日向の働きぶり、見事である。頼れる日向を配下に持ち、ワシも果報者なのじゃ」

 信長ちゃんも、カステーラ片手のご満悦顔で最大級の賞賛だ。

「過分の賞賛、(かたじけな)し」

 再びイケメンがはにかんでいる。少々悔しいがまさに絵になる男ぶり。いろいろな意味で勝てる気がしないぜ。いやいや、勝たなきゃまずいんだけど。


 だが、この世界の明智光秀は、信長ちゃんとの相性もよさそうだ。本能寺の変のような大それた行動は起こさない気もしてきた。

 もちろん充分に警戒はするけれど、おれがラスボスと敵視し過ぎるのも、逆効果になるのかもしれない。


次話、勝利に沸く二条城で信長ちゃんが決意の告白。


2/22(土)1000ごろ 更新予定。


読者の皆さまのブックマークと(最終話の広告の下部分で入力可能)が、創作活動のモチベーションの源になります。


どうぞよろしくお願いします。


里見つばさ

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