表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/130

第五〇話 そうだ、京都へ行こう

 ◆天文十六年(一五四七年)三月上旬 尾張国 那古野城


 おれの帰還祝いは、森三左可成や柴田権六勝家など飲兵衛が、酒を持参してきていたり、織田屋食堂に料理を追加オーダーしたせいもあって、夜更けまでわいわいがやがやと非常な盛り上がりを見せる。さすが武士が集まるだけあって、話題は昨秋の合戦――美濃(岐阜県)の斎藤義龍(よしたつ)が父道三を追い落とすクーデターを仕掛けた際に、織田家が道三救援のため出兵した戦に移っていく。


 長良川(ながらがわ)の河原での戦では、我が那古野勢も大活躍した結果、見事に道三の救援に成功した。首尾よく救助された美濃の蝮こと斎藤道三は、現在は那古野城で暮らしてもらっているらしい。

 おれが拉致される直前の比良(ひら)の大蛇騒動(第四三話参照)のときに、信長ちゃんは大蛇を捕獲したら那古野城で大蛇を飼いたい、と苦笑させてくれたが、ある意味願いが叶っているのが笑える。いま那古野で飼っている蛇は危険な毒蛇だけど。


 ともあれ『長良川の合戦』と後に呼ばれるようになった戦闘は、史実では斎藤義龍勢一七五〇〇に対し、道三勢は二七〇〇という圧倒的戦力差もあって、結果として道三はあえなく首を取られてしまう。

 だが信長ちゃんは道三の危機とみるや、自慢の鉄砲隊八〇〇と長槍隊三〇〇〇を中核とする那古野勢を、即日のうちに率いて出陣する。

 加えて信パパの清洲勢九〇〇〇と信光叔父勢一五〇〇にも出陣を依頼し、計一四〇〇〇余の道三救援軍を美濃に向かわせたのだ。


 合戦では、岡崎城攻め後に松平家から織田家に鞍替えした酒井左衛門尉(さえもんのじょう)忠次(ただつぐ)が、目を見張る活躍を見せたらしい。三河勢に交渉の余地を許さず、史実で家康の重臣となった優秀な人材を、強引にスカウトした甲斐があったな。

 決定的だったのは、佐久間出羽守(でわのかみ)信盛(のぶもり)が粘り強く巧みな後退戦術を展開していたところに、丹羽五郎左長秀と信長ちゃんが指揮する鉄砲隊が、横合いから浴びせた連射だった。

 大量の鉄砲の射撃で混乱している斎藤義龍勢に、那古野勢主力の柴田勝家や森可成に続いて信パパ率いる清洲勢が散々に追い討ちをかけて、結果的には大勝だったらしい。

 さすが『退()き佐久間』の異名が現代にまで伝わる佐久間信盛。信パパとの試し戦のとき、顔面に目潰しをクリーンヒットさせてしまったことを、そのうちに謝っておこう。


 義龍の首を取ることはできなかったが、鉄砲で負傷させたとの目撃情報もある。生死を確かめなくてはいけないけれど、斎藤義龍に織田勢強しの印象を与えたことは間違いないはずだ。

 斎藤道三は『長年の間、敵として戦った備後(びんご)殿(織田信秀)の援軍とは、誠に心強いことよ』と感慨深げに側近に語ったという。


 史実の信長は、尾張を統一後の桶狭間合戦の快勝後、上洛(じょうらく)して室町幕府の十三代足利義輝(よしてる)将軍に拝謁(はいえつ)している。

 軟禁中に考えていたことだが、十二代将軍の足利義晴(よしはる)に、信長ちゃんの守護代補任(ほにん)の礼を述べるとともに、朝廷との交渉パイプを太くしたい。尾張三河の二か国を掌握したうえ、北伊勢にも拠点を押さえている織田家は日ノ本屈指の大大名といえる。さらなる政治的な立場を強化するためだ。

 もちろん、京都を任せているラスボス明智光秀にも、充分なケアをしなくてはいけないから、このタイミングでの上洛はきっと有意義になるはず。


 そこで、横に座って甘えるようにもたれかかっていた信長ちゃんに、上洛を提案してみる。

「姫! 来月にでも、京の都へ行きませんか?」

「うむっ! そうだ、京の都に行くのじゃ」などと信長ちゃんは、四五〇年ほど時空を飛ばした答えをしてきたので笑えてしまう。

 上洛の際には朝廷と足利将軍家との外交以外に、おれはもうひとつ重要な目的をもって望むつもりだ。


 彼女には内密にするけれど、謀略を仕掛けて北近江(滋賀県北部)の浅井(あざい)久政(ひさまさ)(長政の父)から、佐和山(さわやま)周辺の重要拠点を奪おうと考えている。もちろん、諜報衆頭領の多羅尾光俊の手を借りての計略だ。

 史実で浅井久政は、信長との婚姻同盟に反対の立場をとり、結果として子の長政が信長を裏切る一要因にもなっている。

 父の亮政(すけまさ)を射殺したうえ、重ね重ね申し訳ないけれど、北近江の一等地に時流の見えない浅井久政を、のさばらせておくわけにはいかない。

 おれは今回の拉致軟禁のせいで、まる一年働いていなかったようなものだから、大きな仕事の成果を出さないと、家中の目も厳しくなるしな。


 それはさておき、勝家の横で幸せそうな笑みを浮かべる祥姫をつくづく見ても、目が信長ちゃんより優しげな印象があるといった、せいぜい誤差程度の相違点しか見つからない。

 だが、普段は厳しいようなキツめの雰囲気ながら、ときおり見せるデレの素晴らしさを勝家は知らないだろ。

 柔らかさやふわっとした優しさは、そのうちに信長ちゃんに『祥姫ぷれい』をしてもらえればいい。


 ◇◇◇


 左近屋敷に集まっていた連中も、ひつまぶしを始めとした料理と酒に大満足して、ぽつりぽつりと帰宅していった。

 残っているのは信長ちゃんだけ。やっと二人になれたぞ。

「さこんと都で、でえとは実に楽しみなのじゃ。食事処や小物屋もたくさんあるのかな?」

 彼女も甘えた声で、すっかり京都行きを楽しみにしている。現代の京都で信長ちゃんとデートならとても楽しそうだけれど、この時代の京都は戦乱で荒廃していたといわれてる。それに何よりも、身の安全を確保しなくてはいけない。


「今回はデート目的ではなく、外交(仕事)が目的ですよ」

「ワシもさこんがおらぬ間、尽力しておったぞ。たまの息抜きも良いと思うのじゃ」

 上洛をデート気分に考えている信長ちゃんを(たしな)めると、不機嫌そうに頬を膨らませる。

「ええ、姫は見事でしたな!」

「さこんがおらねば戦や(まつりごと)ができぬ、と思われるのも口惜しいからな」


 たしかに信長ちゃんの言葉どおり、おれが不在の間に那古野の面々に負担を強いたのは間違いない。もちろん一番大変だったのは信長ちゃんのはず。

「姫は戦で見事な采配だったそうですね。さすがです」とフォローする。

「で、あるか!」

 彼女は満足そうに微笑んで、おれの膝に頭を乗せてくる。久しぶりに甘えたいのだろう。


「しかし、此度(こたび)はさこんには大変な思いをさせて、すまなかったのじゃ」

「姫のせいではありませんよ。こうしておれも無事です」

「ワシにもっともっと力があれば、斯様に無体な行いはなかったのじゃ」

 信長ちゃんの身内の信広兄が、犯人だったら嫌な感じだな。史実の信長が苦しんだ一族との争いから解放してあげたい。


「いえ、おれの自業自得だったのです。姫こそ気鬱(きうつ)にて湯治をしていたとか」

「さこんがおらぬとも、皆に侮られぬよう尽力しすぎたようじゃ。それに寂しかったので気鬱になってしもうた。そこで四郎右衛門(多羅尾光俊)やお奈津に連れられて行った下呂(げろ)の温泉は格別であったぞ」

 信長ちゃんは、よくがんばったよ。寂しかったといわれて愛おしくなり、彼女の頭を優しく撫でてみる。すると彼女は、ニコニコと機嫌よさそうにしている。まるで猫だな。この美少女と二度と離れたくない、と思った。


「温泉は通常の湯と違って、疲労回復にも効きます。そのうえ様々な身体の具合の悪さが軽減されますね」

「うむ! 温泉にて身体の具合がよくなったのじゃ。ともに温泉に入ったお奈津は、肌が美しくなる、と喜んでおったぞ。ワシの肌も美しくなるのかな」

 もともと信長ちゃんの肌は、すべすべしていて綺麗なはずだ。同等の祥姫の肌を知っている。


「温泉ですか。おれも行きたかったな」

 今しがた湯殿でしっかり疲れを癒やしたところだが、温泉でゆっくりというのも実に捨てがたい。

「ワシもさこんがおらなかったゆえ、湯は満足できたがいささか寂しかったのじゃ。上洛の途上に温泉はないものかな」

 なんとも可愛いことを言ってくれて嬉しくなる。すっかり信長ちゃんは、温泉がお気に入りになったようだ。


 上洛の道筋には温泉があったかな? あいにく有名な温泉は記憶にないぞ。温泉もいいが、本来の目的の上洛準備を本格的にしなくてはいけない。

 京で活動をしている明智光秀に、まずは十二代将軍足利義晴(よしはる)義藤(よしふじ)(義輝)親子との、面会の約束を取り付けてもらおう。

 将軍との面会の次には朝廷とも顔合わせだ。信長ちゃんが後奈良(ごなら)天皇に、謁見できるように手はずを整えたい。

次話、左近が悪企みしているところ2つのニュースが。


2/12(火)06:00ごろ 更新予定。


読者の皆さまのブックマークと(最終話の広告の下部分で入力可能)が、創作活動のモチベーションの源になります。

どうぞよろしくお願いします。


里見つばさ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ