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第八三話 一年の計

 ◆天文十七年(一五四八年)一月上旬 尾張国 那古野城


 新年早々に信長ちゃんと念願の素敵な一夜をともにして、そのまま幸せな気分で二人で微睡(まどろ)んでいた。

「さこーん、起きてる?」

 彼女の声で目が覚めた。

「んあ……姫。どうしました?」

 これまでも信長ちゃんと一緒に朝まで寝たことは幾度かはあった。だが、彼女を腕枕をしていたり、抱きしめて寝ていたりまでだった。

 信長ちゃんと一つになれた今朝は、格別に精神的充実感が今までよりアップして、これまでにない幸福感と充実感を感じる。


祝言(しゅうげん)はあげておらぬが、さこんとは夫婦(めおと)同然である。二人のときは『姫』ではなく『吉』と呼んでも良いのじゃ」

 信長ちゃんはニコと微笑む。

「ああ、なるほど。きつ、寝顔も素敵だったぞ。こうですか?」

 やはり信長ちゃんの名前を呼び慣れていないため、自分でもぎこちなさがありありと分かる。

「で、あるか!」

 だが、名前を呼ばれて信長ちゃんはご機嫌の様子。


「分かってはいるのですが、『姫』のほうがしっくりするのです」

「ワハハ。さこんもおかしなことを言うのだな。是非もなしなのじゃ。伝わればよいので、好きに呼べばよい」

「ええ。分かりました」

 信長ちゃんは『吉』と名前呼びをしてほしそうだけど、他の家臣の前で間違えて呼んでしまいそう。慣れがだいぶ必要だな。

 えて呼んでしまいそう。慣れがだいぶ必要だな。


「それにつけても、さこんのおる布団はぽかぽかであって、これもまた魔物であるな。出るに出られぬのじゃ」

 火鉢程度の暖房なので、信長ちゃんは少し寒いのだろうか。おれにひしと抱きついている。

「本日は特に急ぎの予定もないですし、おれも姫に出てほしくないです」

「うむ。ではしばしぽかぽかしようぞ」

 ヨメちゃんが満足そうな笑顔で、いっそう強く抱きついてくるので、おれも抱きしめ返す。新年早々最高の気分だ。今年も幾度も戦場に向かうことになるのだろうが、そのための気力の充電にはなによりのシチュエーションだ。

「ええ。日が昇って暖かくなるまで、しばらくこうしていましょう」


「しかし新年であるから、ぽかぽかながらも今年の(くわだ)ても、ゆるゆる考えねばならぬな」

 信長ちゃんは一年の計は元旦にありということで、今年の計画を立てるんだな。さすがだ。彼女はやるときはやるのだ。

 しかし昨晩は二人でらぶらぶと満足して、そのまま寝落ちした状態。ふとん幕府の企画力、政策実行力は、こたつ幕府よりさらに劣るだろう。


「うーん。畿内制圧、寺社勢力の武装解除、水軍衆の組織化、鉱山の直轄化辺りですかね」

 とりあえずは以前から検討していた計画を今年は進めていきたい。

「うむ。さすが我が婿さこんなのじゃ。いちいち的を射ているが、ワシはにはもう一つせねばならぬことがある」

 はて、信長ちゃんは何を企んでるのだろう。


「姫がしなければならないこととは?」

「うむ。一昨年やり残した比良(ひら)の大蛇の蛇がえ(捕獲)なのじゃ」

 プッと吹き出してしまった。ふとん幕府はやっぱり計画する政策が怪しいぞ。


内蔵助(くらのすけ)(佐々成政)と権六(柴田勝家)が潜って探しても、大蛇はいませんでしたな」

「うむ。大蛇はおらんかったな。だが、あの時分は探し方が悪かったと思うのじゃ。ワシが潜ればきっと見つかったと思うのだが、子に(さわ)りがあるかと、潜らなかったのでな」

 妊娠中に冷たい水に潜っちゃダメです。というか、妊娠中でなければ潜ろうとしてたのか?

 史実の信長の一級資料の信長公記には、信長がふんどし一丁で脇差を口にくわえて大蛇を探すエピソードが残っている。だが信長ちゃんに、そんな真似をさせられわけがないだろう。


「姫の裸を衆目に(さら)すわけにはいきません」

「だが比良の民も大蛇を恐れるであろう。断じて潜るゆえ士元よ。よき手立てを考えるのじゃ」

 まずい。信長ちゃんは大きな目をキラキラさせて、好奇心マックスになっている。ふとん幕府の杜撰さが露呈しているぞ。

 また成政が要らぬ情報を耳に入れたのかもしれない。こうなるとおれは彼女を止められない。舌打ちしたい気分だ

 しかもヨメちゃんがおれを『士元』と呼んだ場合は、仕事モードで策を検討しろ、という意味なのだ。龐士元(ほうしげん)(=龐統)が、大蛇の捕獲策を献策するとも思えないが、このままだと非常にまずいことになるぞ。

 信長ちゃんの裸を他人に見られたくない。だが彼女は断じて潜りたがる。困ったな――――。


 わかった! 幸せ気分で思考能力が絶賛低下中だが、なんとか策を思いついたぞ。というか頭が働いていないので、このような考えを思いついたのか。

 信長ちゃんに水練用の着物(水着)を作ってあげよう。しかも成長した信長ちゃんは、日頃鍛えているだけにかなりのスタイルの良さを誇る。もちろん水着はビキニにしよう。水に潜る時に裸を晒さずに済むだけでなく、仕上がりしだい信長ちゃんに着てもらって、目の保養にできる素晴らしい利点もあるな。


 武家の頭領がビキニで大蛇を探す是非は問わない。断じてビキニの開発をするんだ。御用仕立て屋と相談しよう。


「姫の裸を衆目に(さら)さずにすむ良き策がございます」

「うむ! さすがは我が婿のさこんなのじゃ。これで蛇がえも目途(めど)がたったな」

 大蛇がいなければ成功も何もないのだが、ともあれ御用仕立て屋に頼むとしよう。材質は絹だと水に弱いはずだから、木綿か麻なのだろうか。

 水着の柄は、適度な大きさで家紋の織田木瓜(もっこう)を散りばめれば、現代の水玉柄のように見えて、可愛さがアップするのは間違いない。ブラは首の後ろと背中で紐で縛るタイプだろうか。ショーツも紐で固定するタイプかな。


 ◇◇◇


「女子用の水練用着物でございますか……。ふむ」

 総技研(=総合技術研究所)の無茶振りに慣れているのかもしれない。御用仕立屋は大して驚きもせずに、信長ちゃんの採寸をすると五日程度でビキニを仕上げてくれた。

 早速、ビキニを信長ちゃんに着てもらうと、スタイルが良く現代風美少女という素材の良さのため、とても見栄えがいい。思ったとおりだ。素晴らしいぞ!


「これでは裸を見られているようで、いささか恥を感じるぞ。乳などこぼれ落ちそうなのじゃ」

 信長ちゃんはビキニを着始めた当初は、顔を赤く染めて恥ずかしがる素振り。

 ところが「姫! とても似合っていて魅力が倍増しています。ますます姫のことが好きになりましたよ」と思い切り褒めたところ、やはり女の子なのだろう。


「さこんが気に入るとは、ワシに似合(にお)うておるのだな」

 彼女もまんざらでもない笑顔で、モデルポーズのような格好までし始める。

 従三位(じゅさんみ)権大納言(ごんのだいなごん)右近衛大将(うこんえのだいしょう)という高い位を持つ武家政権のトップに、ビキニでポージングさせてよいのだろうか、とも少々考えてしまう。

 だがヨメちゃんの可愛い姿は、おれのモチベーションアップにつながるだろう。そう言い訳をしながら、目の保養を充分に満喫する。実に似合っていて、寒くなければずっと鑑賞したいくらいだ。


 この水着に目をつけたのが、織田屋で実力を発揮して活躍中で、現在は貨幣鋳造準備をしている木下藤吉郎だ。

『織田の姫様も着用! 男衆(おとこしゅう)に大人気の女子用水練用着物』と売り出したところ、爆発的な人気商品となるのだった。


次話は、まともに左近が今後の戦略を練ります。


読者の皆さまのブックマークと★評価が、創作活動のモチベーションの源になります。

どうぞよろしくお願いします。


里見つばさ

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