第二話:黒竜王の伝説
宿屋の料理人になって数ヶ月……
「マリーちゃん料理まだ~!?」
「あと1分待って!」
「それ終わったら五番テーブルの人の注文料理も作って!」
「はい!」
私が働いている宿「銀狼の巣」は嬉しい悲鳴を上げている。
原因は私の料理だ。私の料理がそこらの飲食店よりもうまいと噂が広まって、ついにここまでは繁盛してしまった。
仕事は順調。宿の主人……名前はアルというらしい。が、仕事が終わるたびにご機嫌になる。
その娘のメルも同じくご機嫌だ。
でも、私は忙しくなる。ずっと料理を作っているし、それが終わったらお客様を部屋に案内したり、部屋を掃除したり、やることがたくさんある。
しかも、厨房から表に出るときよくセクハラされるのだ。
宿の中で暴れるわけにもいかず、せいぜい手を払う程度しかできない。
外だったら思いっきりボコボコにしてやるのに。
私が暴れるときといったら……
「テメェ!喧嘩売ってんのか!?」
「そっちこそやんのかゴラァ!?
…と、こんなふうに暴れる人たちを……
ゴンッ×2
…という感じで、鉄拳制裁を加えるときだけである。
これをやったあとは一時的にセクハラがなくなるので、喜ぶべきか悲しむべきか、複雑なところである。
ー営業時間終了ー
「にしても、すごく強いねマリーちゃん。今日拳骨した二人、Bランクのハンターなのに」
今日はメルちゃんからそんな話が出てきた。
「Bランクってどれくらい強いの?」
「う~ん?確か…ランクは上から五番目だったと思うよ」
「じゃあたいしたことないね」
上にあと四段階も存在するならきっと弱いほうだと思ったら、案外そうでもないらしい。
「Bランクは長年魔物を狩り続けたベテランの人が到達できる階級で、それ以上は才能がないと無理だから、15歳でそれを倒すマリーちゃんはすごいよ」
とのことらしい。
しかし、自分が強いって言われても実感がわかない。
だってお父さんにはいつも負けてるし、それ以外の竜達にも勝ったことがない。
いや、竜を基準にすることがダメなのだろうか?もしかしたら、人間の中ではかなり強いのか?私…………
「それに、最高ランクのSSSなんて今は誰もいないし、あってないようなものだよ」
「今はってことは、昔はいたの?」
「これについてはお母さんのほうが詳しいから、お母さんを呼んでくる」
****
「SSSランクね~。確かに、歴史上一人だけいるね」
マルさんの話では、確かに存在するらしい。
「当時、もう何万年昔だろうね。冒険者のランクはSSまでしかなかったのさ」
「えっ!じゃあ今はなんであるんですか?」
「確か、急に現れた新人が、とんとん拍子に手柄とランクを上げて、SSランク昇格試験の時、試験官だったSSランクのハンターを軽くあしらったらしい。そして、とてもSSで収まる実力じゃないってことでSSSランクができたのさ」
おお!当時最強ランクだったSSを軽くあしらうとは、どんな人だったんだろう?
「数万年も前のことだから、もうこの世にはいないだろうねぇ。ある日さっぱりと姿を消してえ、それっきりらしい。そういえば、そのハンターが消えたときらしいね。厄災竜が現れたのは」
「なんですかそれ?」
11年間竜と暮らしてきたが、そんな竜聞いたこともない。
そう言ったら、なぜか二人ともぽかんとした。
……変なこと言っただろうか?
「本当にそんなことも知らないのかい?」
「この国じゃ有名なおとぎ話だよ」
マルさんとメルさんにとっては常識みたいだ。
でも知らないものは知らない。
「はぁ、いいかい?厄災竜ってのは、かつてこの国を滅ぼしかけた伝説の竜、黒竜王の別称さ」
「黒竜王!?」
(嘘!私は黒竜なんて、この世で一体しか知らない!まさか……お父さん!?)
マリーの驚きをよそに、マルさんは話を進める。
「黒竜王を討伐しようとした兵士は皆殺し。そして、世界中の亜人たちを絶滅させたんだ」
「亜人?」
「エルフやドワーフのことさ。聞いたことはあるだろう?」
もちろん、聞いたことはある。
(でも、絶滅ってどういうことだろう。お父さんからはちゃんと生きてるって聞かされたんだけど?)
「ひどいもんさ。おかげでこの世界には人間と魔物しかいなくなった。まあ、伝説の話だから本当かどうかも分からないけどね。SSSランクの冒険者だってお釈迦の英雄の話さ。本当かどうかなんてわからない。くだらない話は終わりにして、そっさと明日の準備をしな!」
「「はい!!!」」
話が終わった後も、私には疑問が残っている。
(お父さんが絶滅とか皆殺しとか、そんなことするはずがない。でも、なんか伝説になっちゃってるし、そもそも、私お父さんのこと何にも知らない。ん~、いつか再開したら、絶対聞き出してやる!!)
こうして、マリーの目標がまた新たに増えたのだった。