番外編:黒竜王と娘の出会い 後編
「うぅ~、ここは?え?キャッ!」
やはり竜人化は子供には刺激が強すぎたようだ。だが、わざわざ元に戻るのも面倒なのでこのまま会話させてもらう。
「落ち着け。そしてさっきまでの状況を思い出せ」
「えっ!しゃべった!?じゃなくて、……確か、お父さんもお母さんも殺されて……それで……」
そこまで言ったところで少女の目から涙がこぼれ落ちた。それからまるでため込んだものを吐き出すかのように涙を流し始めた。我はそれをそっと見守った。
「グスッ、もう……お父さんとお母さんはいないんだね」
「ああ、確認したが家に生き残りはいなかった。焼けた死体が二人分あったから、おそらくそれがお前の両親の死体であろう」
「そう…ですか……」
それから何を思っているのだろう。彼女はしばらく黙り始めた。
「して人間の少女よ。お前はこれからどうするつもりだ?」
「わからない。これから生きても碌なことにならないかもしれない。でも、お父さんとお母さんは生きろって言ったから……」
「そうか……」
成人になる前に親の助けなしで生きていく方法は奴隷になることくらいだろう。だが、奴隷になっても幸せだというのは少数だ。大体のものはその扱いに不満を抱える。この少女も、おそらくそうなる。いや、もしかしたら売れずにそのまま死ぬかもしれない。
「何で……」
ふと、少女が漏らした言葉。
「なんでこうなったの?なんで?なんで?」
それに対して、我はこう言うしかなかった。
「すまない、我がもっと早く駆けつけていれば……」
「あんたのせいで、あんたのせいで!あアアアアァァァァぁ」
それから、少女は泣きながら我を殴った、そんなもの、我にとっては痛くもかゆくもなかった。ただ、心はナイフでえぐられるように痛かった。
「どうしてもっと早く来てくれなかったの!?どうして私だけ生き残ったの!?どうしてこうなったの!?もうやだよこんなの!!」
我はその言葉を受け止め続けた。そのたびに傷ついた。それでも、その言葉を受け入れ続けた。
「……どうして何も言い返さないの?」
「…………」
「わかってる。これはあなたが悪いわけじゃない。あなたのせいで村が滅んだんじゃない。悪いのは盗賊。そして……家族すら守れなかった無力な自分」
「そんなことはない!自分を否定するな!」
「竜には分からないよ。最初から力を持っているのに、力が無くてそれで大切なものを守れなくて、無力な自分を呪う私の気持ちなんて」
「……力があっても守れないものはある。我にも、守りたくても守れないものがあった。そして、自分を呪った。今のお前のようにな。だが、死んだ者はそれを望んでいないだろう。死んだ者が望むのは残されたものの幸福、決して呪うことではない。だから、今は前を見ろ」
ーマリーSideー
「あんたのせいで、あんたのせいで!あアアアアァァァァぁ」
分かってる。ほんとはこの人のせいじゃないんだって。全部、無力な自分のせいだって。でも、それなのに何も言われないのはそれが悪い事じゃないって言われてるようで、それがとても嫌だった。こんなに理不尽な八つ当たりしても、この人は何も言わない。なんでもいいから自分を否定してほしかった。罵倒してほしい!馬鹿にされてもいい!ただ、無力な自分を否定してほしい。家族を守れなかった自分を否定してほしい。何も言われないのは、無力な自分を肯定されているようで、それがとても嫌だった。
「何とか言ってよーーー!!!」
そう言っても、その人は何も言わず、ただ泣き止むのを待つだけだった。
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「竜には分からないよ。最初から力を持っているのに、力が無くてそれで大切なものを守れなくて、無力な自分を呪う私の気持ちなんて」
きっとこの人は私の気持ちなってわからない。だってあんなに強いんだもん。きっと大切な人を失った悲しみも、それを呪う苦しみもわからない。そう思っていた。
……力が無くても守れないものはある
私の言葉に対してそう返事をしたその人の目を見れば、何か思いつめたような遠い眼をしていた。まるで今の私みたいに。
その時私は、この人も知っているんだってわかった。大切なものを失う悲しみも、そのことを後悔して自分を呪う苦しみも。
その人はそのあとこう言った。
前を見ろ
その一言で、私は救われた気分になった。微分を呪わないでいいのだと、ただ前を見て生きろと、そのことがやっとわかった。
ー黒竜王Sideー
少女の目に希望の光が宿った。これで大丈夫だらう。だから、提案してみることにした。
「人間の娘よ。望むなら、我とともに来い。我がお前の親代わりとなろう」
助けたあとは自由に生きろなんていうつもりはない。それでは少女は辛い人生を歩んでしまう。助けたからには最後まで責任を取って育てないといけない。それをしなかったら自分のやったことは悪と変わらなくなる。
「……嫌、もっとここにいたい」
「わかった」
おそらくずっとここに入れないことも、我と一緒にいることが最善だということもわかっているだろう。ただ、感情がここにいたいと、それに逆らうことができなかったのだろう。おそらく、数日滞在してけじめをつけたら、我のところについて行くだらう。だから、待つことにした。
その数日は、みんなの墓を掘った。我も手伝った。死体は全部焼けていたから、細心の注意を払って扱った。だから、数が足りないなんてことにはならなかった。
「行ってきます。お父さん、お母さん、村のみんな」
「……いいのか?」
「うん、けじめはつけた。だから、連れてって」
「わかった」
こうして、黒竜王とその娘の生活は始まったのだった。
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