第一話:黒竜王と国竜王の娘
この世界は、剣と魔法の世界。
魔物が世界にはびこり、それを倒す人間が存在する。
そして……魔物の中でも最強と言われているのが…………ドラゴンである。
ドラゴンにはそれぞれの属性の頂点に位置する王が存在する。
炎をつかさどる赤竜を代表する赤竜王
水と氷をつかさどる青竜を代表する青竜王
風をつかさどる緑竜を代表する緑竜王
大地と緑をつかさどる茶竜を代表する茶竜王
そして……それらの上に立つ全ての竜の王が存在する。
四つの属性のすべてをつかさどるその竜の名は…………黒竜王。
かつて、人に災いをもたらし、幾人もの人の命を喰らった、伝説の竜。
その目は見るものを震え上がらせ、その爪は地を裂いて、その咆哮は天まで響き、その牙はいかなるものも噛み砕いた。そして……その口で幾人もの人を喰らった。
そして……いつしか人々はその竜のことをこう呼んだ。
厄災竜……ディザスタードラゴンと…………。
時は流れ、その伝説はもうおとぎ話となっていた。もうその伝説を信じる者はいない。
だが、その竜は確かに存在した。いや、今も存在する。
人里離れた山の頂上。高度6000m。とても人が住むようなところではない。
だが、人ではないそれには、そんなこと関係なかった。
黒光りする鱗。縦に裂かれた目、見るからに強靭そうな爪と牙、そう、黒竜王は、そこにいた。
そして、その竜にこう呼びかけるものがいた。
「お父さ~ん」
その声を発したのはまだ15歳にもなってない少女だった。
そしてそれに答えるものは……
「おお、戻ったか」
そう、先程の黒竜王である。
だが、鱗、牙、爪は存在するものの、それは四足歩行ではなく二足歩行。人型になっていた。
サイズもせいぜい普通の人より大きいくらいである。
「言われたとおり、この山に生えている薬草をとってきたよ」
「おお、こんなにたくさん。どうやら採取の技術はだいぶ身についたようだな。では、それを調合してみろ。前に教えたことをよく思い出してやってみるのだ」
「はい、お父さん」
「今は師匠と呼べ」
黒竜は、今は人間と暮らしていた。
~黒竜王Side~
我は黒竜王。人間からは厄災竜とも呼ばれていた伝説の竜である。
さて、なぜ我が人間の女と暮らしているかというと、この女は我の娘であり弟子だからである。
それは、我が気ままに空を飛んでいるときのことであった。
下を見てみれば、小さな村が盗賊に襲われていたのだ。
我は急いでそこに向かった。
だが、ついた時には村は壊滅していた。
賊は皆殺しにしたが、もう生きている者はいなかった。
それでも諦めきれずに探していると、地下に生体反応があったので、我は急いでそこに向かった。
それが、我と先程の少女、マリーとの出会いであった。
村に生き残りは彼女のみ。おそらく放っておけばこの少女は死ぬだろう。
だから、我はこの子を育てることにした。
だが、彼女はかたくなにこの村から離れたくない、ついていきたくないの一点張りだったのでしばらく様子を見て、落ち着いたらもう一度説得することにした。
どうやら正解だったようで、それから我たちは一緒に暮らし始めた。
高度6000mは人間にはいろいろと問題があったが、それは我が魔法で解決した。
だが、当然我は子育てなどしたことがなく、度重なる苦労があったが、それでも愛情を込めて育てた。
そして、徐々にマリーは心を開いてくれたのだ。
はじめて「お父さん」と呼んでくれた時は思わず泣いて喜びそうになった。
そして、我はマリーを娘としてだけではなく、弟子としても育てようと思った。
この世界には強大な敵がわんさかいる。
我でも戦うのがめんどくさいと思うような敵に会ったらマリーは瞬殺されてしまうだろうし、強さは手に入れて損はないしな。
まあ、そいつらは人間の中では国が動くレベルで危険な者たちだし、世界に害を及ぼすような奴は我が殺しておいたので、そう心配することはないだろうが、一応な。
そして、格闘術、剣術、料理、裁縫、家事、調合術、魔法etc……。
様々な技術をマリーには叩き込んだ。どれもあって損はないものだし、かなり厳しいとは思ったが、まあ、ついてこれてるわけだし、許してもらおう。
そんな感じで、我はマリーと楽しく過ごせている。
だが、マリーもそろそろ15歳だし、アレの準備もせねばな…………。
~マリーSide~
私の名はマリー。人間だ。でも、私の父は……竜だ。
お父さんは、私の故郷が壊滅した時、私を拾ってくれたのだ。
だけど、私は急な状況の変化と、相手が竜であることと、当時の両親が死んだことといろいろあって、よく父に反発した。「あんたのせいで故郷がほろんだんだ!!」といっても、お父さんは反論せず、私が心を開くのを待ってくれた。
今思えば八つ当たりもいいところだ。
黒歴史といっても過言ではない。
こんな私を拾ってくれたお父さんには感謝している。
人間ではないが友達もできたし、お父さんは私にたくさん愛情を注いでくれた。修行はものすごく厳しくて、途中でついていけそうになくなったし、何回も地獄を見たし、心の中でさんざん罵倒したけど、それでもお父さんを嫌いになることはなかった。
むしろ強くなったことには感謝している。
だけど、お父さんは自分の昔のことについてはあまり話してくれない。聞いても適当にはぐらかすばかりだ。
だけど、私にとっては今の厳しくて、優しくて、強くて、かっこよくて、頼りになる今のお父さんがすべてなので問題ない。
あまり気にしないことにしている。
そう言えば、そろそろ私の15歳の誕生日だ。どんなことが起こるんだろう。
私は、その日を楽しみにしていた。その日が良くも悪くも自分を変える運命の日だなんて、この時の私は、知る由もなかった。