どこかのだれかの噂話 その1
なあなあ。
お前の家の近くに美味しいパン屋さんあるよな?
行く途中に踏切あるじゃん。
そうそう、うん。
この前、そこの踏切を通って帰ったんだよ。
え、いや、電車1駅乗り過ごしちゃってさあ。
駅から出た後に気が付いてね。
ま、夕方の5時くらいだったし、ダイエットがてら、歩いて帰ろうかな、ってなったんだよ。
せっかくだからってそこのパン屋で美味しそうなメロンパンを買って……あー、うっせーなぁ、歩いて帰ったからプラマイゼロだよ。
は?
行かない方が良い?
いやいやいや、相当レベル高かったぞ。
かなり美味かったしお前も行ってみろって。
マジでマジで。
え?
踏切を渡るからイヤなの?
なにそれ。
いやいやいや、意味わからんないんですけど。
まあいいや。
えーっと……何の話だ……そうそう。
それで、歩き食いしながら踏切の方に歩いていくとさ。
電車の、電線、あんじゃん。
びっしり、止まってるのな。
カラスが。
夕焼けのせいで、皆、まっかっかなんだよ、すんげーブキミでさあ。
なんであんなにびっしり止まっているのか、とか。
気になってさ。
なんだろ、渡り鳥とかって電磁波の影響とか受けるらしいから、電線とか関係あるのかなーとか。
ちょっと遠いけど、あのパン屋の残飯とか漁ってるのかなーなんて考えていたんだよ。
そういえばカラスって、生き物の中では、人間の次に頭良いらしいのな。
おうおう、猿とかよりも。
奴らってさ、横断歩道にクルミとかを置いていくんだと。
それで車にそれを割らせた後、青信号の時にそれを回収するんだってよ。
うん、この前動物のテレビか何かでやってた。
アレを電車でやってるのかな、脱線したら危ないなー。
なんて、思ってさ。
まあ実際は、線路にクルミは置いてなかったんだけど。
そんで、考えてみたけど分かんねぇから、気持ち悪ぃなぁと思いながら、歩いているとさ。
ちょうど渡ろうとした時に踏切がカンカン鳴り出したんだ。
いや、まだ閉まってなかったし、余裕で渡れるタイミングだったよ。
けど、まあ急いでもいないし、止まって電車が通り過ぎるのを待つことにしたんだ。
うん。
そしたらさ。
カラスの1匹が、フラフラーっと踏切の方に落ちてきたんだ。
およーっと思ったね。
突然の不調か~?
カラスにも、そんなこともあるのかな~?
ただ、何とも哀れにバタバタしてるんだよね。
俺って車に引かれで死にかけてる犬とか見ても何とも思わないくらいドライなんだけど。
なんていうかな。
心に迫るようなバタバタだったんだよ、あれは。
まあ、電車来るっていってもまだ余裕あるし。
どうしよっかなー、助けよっかなー、でも危ないしなー。
なんて考えていると、向こうから電車が見えてきたからさ。
これはもう無理だ、成仏しろよカラス。
南無~。
なんて。
ボーっと見てたんだよ。
そしたら、横からパッと。
犬だよ犬。
飛び出してきたんだ。
犬にしてみたら、心に迫るバタバタなんて、関係ないんだろうな。
弱肉強食だよ。
動物番組だな。
哀れなカラスが、まんまと食べられると、思うじゃん。
そしたらカラスの奴さ。
パッと身を翻したんだよ。
それで、的確に犬の片目を点いたんだ。
うん、クチバシで。
そんで、そのままパッと逃げて行ったんだ。
犬は突然片目をつぶされてキャンキャン鳴いていたよ。
まあ、すぐ鳴き止んだけど。
んで、電車が通り過ぎた後。
うん。
あれだ。
ミンチに、なるじゃん。
そしたらさあ。
カラスって、雑食なんだなあ。
俺、メロンパン吐いちゃったよ。
んで、カラスたちを良く見てみるとよ。
最初夕焼けで赤く見えていると思ってた奴らがさ。
違うんだ。
真っ赤なんだよ、実際に。
あれ多分、同じ方法で動物を何匹も殺してるよ。
さっきも話していたけどさ、横断歩道にクルミを置くっていうアレ。
アイツら、もっと簡単に多くの食糧を得られる方法を、見つけたんだな。
頭いいわ、やっぱり。
まあ、そんな所だけど、あそこのパン屋さんは美味かったし、多分また通ることになるとは思うんだけどな。
え?
まあ、確かにあの踏切を通らないとパン屋には行けないけどさあ。
別に動物のスプラッターくらいじゃあ、俺の食欲は止められないぜ。
……ん?
あそこのカラスの主食は、動物じゃない?
は?
意味分かんねぇ。
じゃあ一体、何が主食なんだよ?




