『こども』の老女
8月某日、縁側にて。
『こども』の老女は、ぼんやりと空を眺めていました。
死んだつもりだったのですが、何故か、生きて、この世界に舞い戻ってきたようです。
……恐らく、『ふえふき』の壮年がいろいろ調整してくれたのでしょう。
……どういう理屈でそうなったのかは、解りませんが。
「ばーちゃん、ばーちゃん、見てくれよ~!」
ふと、隣を見ると。
老女の孫が、彼女に向かって話しかけていました。
可愛かった孫は、既に中学生。
日に日に、在りし日の旦那に似てくる孫を、老女はニコニコと眺めています。
その手元には、『18歳以下無差別級空手選手権優勝』の賞状がありました。
「ほら、これならもう、じーちゃんより強いだろ!」
「うーん、まだかもねえ」
老女は、正直に、言いました。
「嘘だよ。
それ、『思い出補正』ってヤツだ!」
孫の可愛らしい反論に、老女は思わず噴き出します。
「大体、じーちゃん、なにか賞とか、もらってたの?」
そう言われると、老女の旦那は、まともな大会などには出ていませんでした。
「じーちゃんは、なんの賞も取っていなかったよ。
だけどね」
まあ、それでも、と老女は思います。
「流石のあんたも、『人食いモナリザ』とタイマンは、張れないだろう?」




