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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
浦野ハイツ中庭:金属の笑顔
40/46

出口はどこだ?

 時刻は午前7時、場所は浦野ハイツの中庭。


 ()は『騙りべ(・・・)』の中年の姿を止め、男だか女だか、老人だか小児だか分からないいつもの姿に戻ることにしました。

 そんな()に、猫の少女は会話を続けます。


「ん、やっぱりね。


 っつーか、恐るべきはガリベン君だよ……ほぼ最初の段階で、あんたの正体まで全部、読んでるんだからね」


「……まあ、貴女という存在が(・・・・・・・・)いる時点で(・・・・・)、5人のうち4人がブレーメンの面子で、もう1人が私だと予想が出来たんでしょうけどね」


「成る程……ガリベン君の視点から見ると、そうなのかも」


 猫の少女は、ふむ、とうなずいています。


「……それで、貴女は、これから(・・・・)どうするんです(・・・・・・・)


 ……ここ(・・)から出て行く方法は、いくつかあります。


 今まで通り、普通に、先に進む(・・・・)

 『ねずみ』の小児の様に、死ぬ(・・)

 『こども』の老女や、『ふえふき』の壮年の様に、留まる(・・・)


 ……大きくまとめると、この3つでしょうか。


 まあ他にも探せば、後戻りする(・・・・・)、とか方法はあるのでしょうが」


「うん、それなんだよねえ……。


 正直、あんまり、よく解ってないんだよねえ」


 少女は、考えているようでした。


「……まあ、好きなだけ考えると良いですよ。


 生きて帰れるか否かの、大事な選択ですから……」


「あ、いや、選択肢はもう、決まっているよ。


 ただ、何でその選択肢になるのかなあ、って考えててね」


「……は?」


 私が驚いた声を上げると、少女は当たり前の様に答えます。


「もしも私がガリベン君の正体に気づかなかった場合。

 何も考えずにこのまま出口に向かったと思うよ。

 つまり、ガリベン君は、私がそのまま先に進む様に誘導したって事になる。


 なので、正解は、『このまま、先に進む』。


 理由は、『ガリベン君が、私を、そうなるように(・・・・・・・)誘導したから(・・・・・・)』」


「……貴女……そういう物の考え方、止めませんか?」


 私は呆れたように、声を上げました。


 スイムさんで出された謎々しかり。

 彼女はどうも問題本文ではなく、出題者の意図や他人の考えから逆読みして(・・・・・)、問題の答えに辿り着いている様に思えます。


「更にいうと。


 ガリベン君が正体を隠していた理由は、『ピザデブ引きニートになっているのを、私に知られるのが

嫌だった』というもの。



 超天才のガリベン君が(・・・・・・・・・・)そんなアホな理由で(・・・・・・・・・)バカ犬やネクラちゃん(・・・・・・・・・・)を見捨てる訳がない(・・・・・・・・・)


 当然(・・)他の面子も(・・・・・)無事脱出(・・・・)しているはずだ(・・・・・・・)


 またもや、斜め上の方向から推理が始まっています。

 私は思わず、眉間を押さえてしまいました。


「……あの……ちゃんとした方法で謎を解いてほしいのですが……」


「つまりまとめると、これが、正しい手順。


 初めに『ねずみ』の小児が死んで。

 次に『こども』の老女がいなくなって。

 その次に『ふえふき』の壮年がいなくなって。

 そして最後に『おとな』の少女が先に進む……」


 少女はそう呟きながら。

 『ふえふき』の壮年が送った、最後のメールを読み直しています。


『緑のドアが、正しい進行ルートです。

 進行ルートに沿って進めば、いやでも元の世界に辿り着くことが出来ます』 


 少女はその文章を2度口に出して呼んだ後。

 小さく「そうか」と呟いて、更に言葉を続けました。


「……成る程。


 つまり、この、ドアの進む道こそが!


 ハーメルンの物語の(・・・・・・・・・)進行する時間軸(・・・・・・・)なんだ(・・・)!」


 明後日の方向からアプローチされた正解に、私は思わず、ため息を吐きます。

 ……残念ながら、正解(・・)です(・・)


 脱出の順番は(・・・・・・)物語からいなくなる(・・・・・・・・・)順番で(・・・)

 脱出の方法は(・・・・・・)物語の内容に準拠(・・・・・・・・)していたのです(・・・・・・・)


 まず、『ねずみ』が死んで。

 次に、『こども』と『ふえふき』がいなくなって。

 そして、『おとな』は死にもせず、いなくなりもせず。


 ……そのまま物語の時間軸を進み続ける。


 つまり、少女の言うとおり。

 『おとな』の少女は、このまま先に進むのが正解、ということになります。


「……いやあ、それにしても、最初の時点で気づいていたガリベン君、凄すぎでしょ!」


 少女は、改めて私へ視線を移すと。

 汚らしい笑顔で、言葉をつむぎます。


「ねェ、どんな気持ち?

 望まない方向から答えを見つけられて。

 ねェ(・・)()どんな気持ち(・・・・・・)?」


「ぶっちゃけ、ムカついてます」


 私の正直な台詞に、少女は声を上げて笑いました。


 相変わらずの笑顔で、意気揚々と、出口へ向かう猫の少女。


「……ひとつ、アドバイスして差し上げましょう」


 流石に悔しかったので、私は、少女の笑顔に負けないくらい汚らしい笑顔で、同じく言葉をつむぎます。


「今回出てきた面子は、たまたま(・・・・)そうなった未来から(・・・・・・・・・)引っ張ってきただけ(・・・・・・・・・)、ですよ?」


「……?」


 首を傾げる少女に、私は更に続けます。


「未来は確定していない、ということですよ。


 当たり前ですがね。


 そう、例えば、ですが。


 貴女が、鷹臨(たかのぞみ)高校に合格しなかった未来があったとして」


 少女の、唾を飲み込む音が聞こえました。


「高校3年間一緒にいなかった鶏の少年が。


 ……まさか(・・・)フリーな状態だと(・・・・・・・・)思ってるんですか(・・・・・・・・)?」


「……!!


 く、くそー!

 最高の捨て台詞だな、それー!」


 少女は悔しそうに唇を噛むと。

 


 ……中庭の向こうの、緑色の扉へと、歩き出したのでした。

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