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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
203号室:目前立札
35/46

小鳥遊 東

 時刻は午前5時30分を回ったところ、場所は巨大な橋の上。


 目前立札を挟んで、2人と1人に分かれています。


「……申し訳ありませんが……先に進ませて頂きますよ」


「って言うか、まさか選んでもらえると思ってたの?

 あんだけ滅茶苦茶しておいてさー!」


 2人の方……すなわち『かたりべ』の中年と『おとな』の少女は、思い思いの言葉を発しています。


 置いていかれる、1人の方……『ふえふき』の壮年は、半ば呆然とした顔つきで、2人を見た後。


 がくり、とその場でへたり込んで、肩を落としています。


「……あ、そうだ!」


 少女はそんな壮年を見つめて、何か思いついたかのように中年に耳打ちします。


「……え?

 はあ、まあ良いですが……」


「おっけー、そういう感じで。


 じゃあ、オタク君、私たちは先に行くけど、君のことは絶対に忘れないからね~」


 『おとな』の少女は手をひらひらさせていますが、『ふえふき』の壮年は視線を地面に落としたままです。

 壮年の耳には、自分から離れていく足音が、遠く、遠くに聞こえているのでした。


 そして、肩を落としながら、壮年は……。



 ……何故か(・・・)ニヤリ(・・・)()笑ったのでした(・・・・・・・)





 ……まるで(・・・)何もかも自分の(・・・・・・・)思い通りになった(・・・・・・・・)子供のように(・・・・・・)








「……ねえねえ(・・・・)どうしたの(・・・・・)


 まるで(・・・)何もかも自分の(・・・・・・・)思い通りになった(・・・・・・・・)子供のような顔で(・・・・・・・・)!」





 驚愕の表情で顔を上げた壮年の前には、ああ(・・)




 信じられないくらい笑顔の猫の少女(・・・・)が、いたのでした。



「……なん……だ、お前は……。

 アイツを選んだん……だろう。

 ふざけ……やがって。

 さっさと先に行……け」


 『ふえふき』の中年だけ先に歩いて、『おとな』の少女がその場に残っていることに気づかせないというトラップ。

 そんな初歩的なトリックに引っかかってしまった壮年は、思わず声を上げますが。


「最初に変だと思ったのは、オタク君の、その『どもり』だよね」


 壮年の声を無視するかのように、少女は続けます。


「『どもり』がどうしたん……だ」


「『どもり』がどうしたん……ですか(・・・)


 壮年の声に重ねるように、少女は続けます。


「何、真似をしているん……だ。

 馬鹿にしてるの……か」


「何、真似をしているん……ですか(・・・)

 馬鹿にしてるの……ですか(・・・)


「ぐっ!?」


 壮年の苦々しい顔を、あざ笑うかのように、少女はつぶやきます。


「敬語ばっかり使っているせいで、普通の言葉を(・・・・・・)喋るときに(・・・・・)どもる(・・・)なんて(・・・)



 いくらなんでも、大失態でしょ。



 天才の名前が(・・・・・・)泣くんじゃない(・・・・・・・)




 ねえ(・・)ガリ勉君(・・・・)?」



 猫の少女が嘲笑います(・・・・・・・・・・)


 その言葉は。


 ……『ふえふき』の壮年が、鶏の少年であるかのような、言い回しでした。



「何を言っているん……だ。

 ……俺……は、『ガリ勉君』ではない……」


 ……()



 『ふえふき』の壮年は、『なにを馬鹿な(・・・・・・)』とでも言うように、冷静に。


 少女の言葉を否定したのでした。


「次に、変に思ったことは……これはついさっき、気づいた事だけど。

 

『 ”ふえふき”は、登場人物を(・・・・・)1人(・・)殺さなくてはならない(・・・・・・・・・・)


 コレ」


 猫の少女(・・・・)は落胆した様子もなく、壮年の言葉を無視して言葉を続けています。


「この文章だけど、ガリ勉君が『情報多すぎ……』とか言いつつ。


 全然(・・)情報多くないせいで(・・・・・・・・・)ウソ情報って(・・・・・・)解ったんだけどね(・・・・・・・・)


 一息吐くと、猫の少女(・・・・)は、言葉を発しました。



「ガリ勉君が次に教えてくれた情報。


 『緑のドアが、正しい進行ルートです。

 進行ルートに沿って進めば、いやでも元の世界に辿り着くことが出来ます』 



 ……これも全然(・・・・・)情報多くないよね(・・・・・・・・)?」


 グッと息を呑む壮年の声が聞こえてきます。


「うん、この場合、二つの理由が考えられるわけだよね。


 一つめは、こりもせずにまたウソをついた可能性。


 そして二つめは。


 こんな少ない情報でも(・・・・・・・・・・)大量の情報を(・・・・・・)得られることの出来る(・・・・・・・・・・)大天才様の可能性(・・・・・・・・)


「……好い加減に……」


「……そして、最後に気づいたこと……」


 壮年の言葉を相変わらず無視し続けながら、猫の少女(・・・・)は言葉を続けます。


「ガリ勉君が最初に呟いた、偽名(・・)



 ……数多 品数(あまた しなかず)



 何のことかと思ったけど、何のことはない(・・・・・・・)








 あ ま た(・ ・ ・) し な か ず(・ ・ ・ ・)


 



 た か な し(・ ・ ・ ・) あ ず ま(・ ・ ・)





 アレだね。



 ……並び替え(アナグラム)だ」



 猫の少女(・・・・)は、笑いながら話し続けます。



思わずパッと(・・・・・・)言っちゃったん(・・・・・・・)だろうけど(・・・・・)



 私は(・・)スルーして(・・・・・)やんないぞ(・・・・・)?」




 相変わらずの猫の少女(・・・・)のドヤ顔に。




「……。




 ……。




 ……。




 ……ああ(・・)くそ(・・)なんなんですか(・・・・・・・)



 悔しいですねえ(・・・・・・・)



 ……バレましたか(・・・・・・)……」




 『ふえふき』の壮年は……いいえ(・・・)


 鶏の少年は(・・・・・)



 本当に悔しそうに(・・・・・・・・)……苦笑いするのでした(・・・・・・・・・)

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