小鳥遊 東
時刻は午前5時30分を回ったところ、場所は巨大な橋の上。
目前立札を挟んで、2人と1人に分かれています。
「……申し訳ありませんが……先に進ませて頂きますよ」
「って言うか、まさか選んでもらえると思ってたの?
あんだけ滅茶苦茶しておいてさー!」
2人の方……すなわち『かたりべ』の中年と『おとな』の少女は、思い思いの言葉を発しています。
置いていかれる、1人の方……『ふえふき』の壮年は、半ば呆然とした顔つきで、2人を見た後。
がくり、とその場でへたり込んで、肩を落としています。
「……あ、そうだ!」
少女はそんな壮年を見つめて、何か思いついたかのように中年に耳打ちします。
「……え?
はあ、まあ良いですが……」
「おっけー、そういう感じで。
じゃあ、オタク君、私たちは先に行くけど、君のことは絶対に忘れないからね~」
『おとな』の少女は手をひらひらさせていますが、『ふえふき』の壮年は視線を地面に落としたままです。
壮年の耳には、自分から離れていく足音が、遠く、遠くに聞こえているのでした。
そして、肩を落としながら、壮年は……。
……何故か、ニヤリ、と、笑ったのでした。
……まるで、何もかも自分の思い通りになった子供のように!
「……ねえねえ、どうしたの?
まるで、何もかも自分の思い通りになった子供のような顔で!」
驚愕の表情で顔を上げた壮年の前には、ああ!
信じられないくらい笑顔の猫の少女が、いたのでした。
「……なん……だ、お前は……。
アイツを選んだん……だろう。
ふざけ……やがって。
さっさと先に行……け」
『ふえふき』の中年だけ先に歩いて、『おとな』の少女がその場に残っていることに気づかせないというトラップ。
そんな初歩的なトリックに引っかかってしまった壮年は、思わず声を上げますが。
「最初に変だと思ったのは、オタク君の、その『どもり』だよね」
壮年の声を無視するかのように、少女は続けます。
「『どもり』がどうしたん……だ」
「『どもり』がどうしたん……ですか」
壮年の声に重ねるように、少女は続けます。
「何、真似をしているん……だ。
馬鹿にしてるの……か」
「何、真似をしているん……ですか。
馬鹿にしてるの……ですか」
「ぐっ!?」
壮年の苦々しい顔を、あざ笑うかのように、少女はつぶやきます。
「敬語ばっかり使っているせいで、普通の言葉を喋るときに『どもる』なんて。
いくらなんでも、大失態でしょ。
天才の名前が、泣くんじゃない?
ねえ、ガリ勉君?」
猫の少女が嘲笑います。
その言葉は。
……『ふえふき』の壮年が、鶏の少年であるかのような、言い回しでした。
「何を言っているん……だ。
……俺……は、『ガリ勉君』ではない……」
……が。
『ふえふき』の壮年は、『なにを馬鹿な』とでも言うように、冷静に。
少女の言葉を否定したのでした。
「次に、変に思ったことは……これはついさっき、気づいた事だけど。
『 ”ふえふき”は、登場人物を、1人、殺さなくてはならない』
コレ」
猫の少女は落胆した様子もなく、壮年の言葉を無視して言葉を続けています。
「この文章だけど、ガリ勉君が『情報多すぎ……』とか言いつつ。
全然、情報多くないせいで、ウソ情報って解ったんだけどね」
一息吐くと、猫の少女は、言葉を発しました。
「ガリ勉君が次に教えてくれた情報。
『緑のドアが、正しい進行ルートです。
進行ルートに沿って進めば、いやでも元の世界に辿り着くことが出来ます』
……これも全然、情報多くないよね?」
グッと息を呑む壮年の声が聞こえてきます。
「うん、この場合、二つの理由が考えられるわけだよね。
一つめは、こりもせずにまたウソをついた可能性。
そして二つめは。
こんな少ない情報でも大量の情報を得られることの出来る、大天才様の可能性」
「……好い加減に……」
「……そして、最後に気づいたこと……」
壮年の言葉を相変わらず無視し続けながら、猫の少女は言葉を続けます。
「ガリ勉君が最初に呟いた、偽名。
……数多 品数。
何のことかと思ったけど、何のことはない。
あ ま た し な か ず。
た か な し あ ず ま。
アレだね。
……並び替えだ」
猫の少女は、笑いながら話し続けます。
「思わずパッと、言っちゃったんだろうけど。
私は、スルーしてやんないぞ?」
相変わらずの猫の少女のドヤ顔に。
「……。
……。
……。
……ああ、くそ、なんなんですか。
悔しいですねえ。
……バレましたか……」
『ふえふき』の壮年は……いいえ。
鶏の少年は。
本当に悔しそうに……苦笑いするのでした。




