7不思議その6:目前立札
時刻は午前5時過ぎ、場所は巨大な橋の上。
B地点の塔へ向けて、3人が歩いています。
「それで、何かわかったんですか?」
『かたりべ』の中年が『おとな』の少女に声をかけます。
「んー。
……聞きたい?」
『おとな』の少女は、勿体ぶって答えます。
「……どうせたいしたことは、解ってい……ない……」
『ふえふき』の壮年が、答えます。
「……オタク君が次に来る7不思議の順番、当てていたでしょ。
あれがなんでなのか、分かっちゃった」
「……」
「ほ、本当ですか!?
それ私も知りたいです、教えてください!」
『おとな』の少女は、得意げに少し時間を空けた後。
答えを発します。
「しりとり」
「……しりとり?」
少女は、笑いながら、うなずきました。
「そう、しりとり。
考えてみたら、単純だ。
べにがらす、すいむ、むくろえき、きんじろうぶね」
「……あっ!」
確かに、しりとりになっています。
『かたりべ』の中年は、少しだけ興奮したような声をあげましたが。
しばらくして、がっかりしたような顔をしています。
「……でも、途中までじゃないですか。
きんじろうぶねの次は、ミサキボッコ。
そして、目前立札。
しりとりには、なっていませんよ?」
「うん、そうだね。
じゃあ、その間にしりとりが成立するように、入れてみようか?」
「……?」
『かたりべ』の中年は考えます。
きんじろうぶねの後、ミサキボッコの前。
ね、み。
ミサキボッコの後、目前立札の前。
こ、も。
「ね、ず、み。
こ、ど、も。
あ、あ、ああああ!」
「そう、私たちに与えられた最初の名前。
それを入れることで、しりとりが完成する」
べにがらす。
すいむ。
むくろえき。
きんじろうぶね。
ねずみ。
みさきぼっこ。
こども。
もめんどうふ。
「……という訳で、七不思議と私達に与えられた役割で『しりとり』が出来る仕組みだった……てわけ。
……どう?
オタク君、正解?」
「……」
オタク君と呼ばれた『ふえふき』の壮年は、何も答えずに歩き続けています。
そして、その行動が、このしりとりこそ正解であると、如実に語りかけていたのでした。
『おとな』の少女は満足そうに頷くと、更に言葉を続けます。
「そして、もう一つ、解ったことがあるんだけど。
ここに参加しているメンツ。
……ブレーメンの屠殺場と、同じメンツだ」
「……ぶ、ぶれーめん?……が、なんですか?」
「……屠殺が……どうした……んだ……」
2人がとぼけていますが、『おとな』の少女は笑って答えます。
「二人とも、知らないフリしても、ムダムダ。
……最初の事、覚えてる?
この世界……『ハーメルンの音楽祭』では、問題の答えとなる言葉を話すことが出来ない。
最初は、そんなルールがあると、思っていた。
……でも、どう考えても解答の手助けとなるはずの『しりとり』と『ブレーメンの屠殺場』という二つの言葉。
これを私がしゃべれた時点で、先ほどのルールは崩壊して。
別のルールが、思いつく」
少女の言葉に、『かたりべ』の中年と『ふえふき』の壮年は、注意を払わずにはいられません。
「……『全員が解っている事に関しては、しゃべることが出来る』という物。
そりゃあそうだ。
この世界はナゾナゾが大事だから、ヒントを与えることは出来ないけれど。
皆が理解していれば、話すことも出来るはず。
例えば……。
私の名前は、猫屋敷、西」
少女の自己紹介は……何者にも邪魔されずに行うことが出来ました。
……つまり。
「……やっぱり、二人とも、知っていたわけだ。
私が、猫屋敷西、だって」
少女の呟きに、中年と壮年は、苦虫を噛み潰したような顔をしています。
「……更に言うと、『こども』のお婆ちゃんは、根暗ちゃん……『驢馬塚 北』。
『ねずみ』の正太郎くんは、『子犬丸 南』」
少女が続ける台詞も、特に修正される事なく言葉に出来ています。
「……二人とも、知っていたんだね。
ってことは、もう、確定だ。
あんたらの、どっちかがガリベン君……『小鳥遊 東』だ」
「……な、なにを言っているのやら……」
「……わかる言葉で、しゃべ……ろ……」
白を切る二人の言葉を無視するように。
「あ!
あれ、立て札じゃない?」
少女は、声を、上げたのでした。
立て札が、現れる、という事実。
解っていた事ですが、3人のテンションは少し下がっています。
「……避けて通るわけにはいかない……ですよねえ」
『かたりべ』の中年が、言います。
「……なぞなぞの解答上、最短距離を通らないといけない……からな……」
『ふえふき』の壮年が、答えます。
「……ま、解っていた事でしょ。
さっさと、内容を、確認しよう」
『おとな』の少女が、肩を竦めます。
恐る恐る、立札に近づく3人。
……そこには、こう、書かれていました。
『男ト女、各々1人ズツデ進ム可シ』
「……」
「……」
「……」
3人は、無言で立札の内容を反芻します。
女というのは、勿論、『おとな』の少女になります。
そして、これより先に進めるのは、一人の女性と……そして、一人の、男性。
「……つまり、私か『ふえふき』さんの、どちらかが。
……ここで、脱落する、と」
「……どう……する?
殴り合いでも……するか?」
『かたりべ』の中年の言葉に、『ふえふき』の壮年は軽口を叩きます。
しかし。
「……いいえ、こう言うのは、どうでしょうか。
なんだか、いろいろ解っているみたいですし。
ここは、『おとな』さんに、決めてもらいましょう。
どちらが、『おとな』さんと一緒に進むに相応しい人物なのか。
どちらが……『小鳥遊 東』、なのかを」
『かたりべ』の中年が、その決定権を、『おとな』の少女に委ねようとします。
「……まあ、良い……だろう……。
……選……べ、『おとな』。
どっちが……『小鳥遊 東』……なんだ?」
既に看板の向こう側へ移動している少女に向かって。
二人の男が、手を差し出しています。
一人は、敬語を話す『かたりべ』の中年。
解答数こそ少ないものの、彼の知識は何度も『おとな』の少女を助けました。
もう一人は、寡黙な『ふえふき』の壮年。
冷たい印象の彼ですが、あちこちで意外な優しさを見せていました。
少女はゆっくりと。
二人を見渡した後。
「……じゃあ、一緒に、先に進もうか」
決心したように、一人の男性に、手を差し伸べたのでした。
その男性は。
「……ね、おじさん」
……『かたりべ』の中年、だったのでした。




