ロンドン橋
時刻は午前5時、場所は【203】号室の、緑色の扉の前。
「……ひとまず、これをクリアすれば終了……に、なるんですかねえ……」
「……行……くぞ……」
『かたりべ』の中年と、『ふえふき』の壮年が緑の扉を開こうとしていると。
「あ、ちょっと待って」
『おとな』の少女が、待ったをかけました。
「先に言っておくよ。
私、次のなぞなぞ、解かないから。
2人で考えてね☆」
きゃるん♪と擬音語が聞こえてきそうな少女の発言に。
「え?は?
いやいやいや、そういうわけにはいかないでしょう!?」
「……おい……何を考えているん……だ……」
男性陣は非難の声をあげますが。
「『かたりべ』のおじさん。
まともに解けた問題、最初の1問だけ、だよねえ?」
「うぐっ!」
『おとな』の少女のセリフに、『かたりべ』の中年は二の句が継げなくなりました。
……というか、少女はまともに解けた問題が無いのですが。
「『ふえふき』のオタクさんは論外。
情報を隠すとか、ありえないでしょ」
「……っち」
同じく『ふえふき』の壮年も言い返すことができません。
……というか、少女も最初は自分の情報を隠していたのですが。
「ほらほら、名誉挽回のチャンスなんだから、2人とも頑張ってキリキリ考えてよね」
「「……」」
無言を肯定と取った少女は、満足そうに頷くと、緑色の扉を開いたのでした。
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目の前には……川が、ありました。
「……相変わらず、唐突な場所に飛ばされますね」
「……」
♪ぴろり~ん♪
そしていつものように、メールが届きます。
今回は、画像も付いていました。
『ロンドン橋が落ちちゃったよ!
急いで作り直そう!
橋は川岸と垂直にしかかけられないよ。
A地点から、B地点までの距離が最短になるように、橋をかけてみてね』
「……算数の問題、ですかね」
「……だったら簡単なん……だがな……」
『かたりべ』の中年が、地面にさっと同じ図を記載して。
B地点の川幅分だけ上に架空のC地点を作り、AとCを線で結びました。
その線と川岸とが交わる点から垂直に橋を架けます。
「……算数なら、ここが正解、ですけどねぇ」
「……ただこれは、なぞなぞ……だからな……」
「まあ、そうですよね」
2人は、後ろにいる少女を確認します。
「うーん……って言うことは、あの時の言葉の意味は……。
……なんであの時……」
『おとな』の少女は2人を無視して何かしら思考に没頭しているようでした。
もちろんなぞなぞなど全く見もしていません。
「『おとな』さん、本当に考えないつもりみたいですね」
「……っち……」
『ふえふき』の壮年は、改めて地面に書かれた図を見ています。
「……駄目……だな……」
そして、足でいったん書いていた絵を消しました。
無駄に算数の図を書き込んでしまったせいで、答えから遠ざかっている気がしたのでしょうか。
「そう言えば、橋には『幅』も、あ……るな……」
『ふえふき』の壮年は、橋の幅をLと設定すると、B地点より川幅分だけ上方、そしてL分だけA地点よりに、架空の点Dを書き込みます。
同じくA地点とD地点を結んで、岸と接した点に橋を架けています。
「……なんだか、より、答えから遠くなっている気がしますが」
「……いや、違う……な。
そう……か、これ……か。
これが、正解……か」
『ふえふき』の言葉に、『かたりべ』の中年は、否定的な言葉を出します。
「え?
ま、まさか。
これが答えじゃあ、あまりにも算数じゃないですか。
全然なぞなぞになっていませんよ」
「違……う。
……俺……が言いたいのは。
『橋の幅』……だ」
『ふえふき』の壮年はそう言うと。
川いっぱいに、超巨大な橋を、架けました。
「これが正解。
問題では、『垂直に架けろ』とは書いてい……るが、『橋の幅』には、言及してい……ない」
「……あっ!」
……ゴゴゴッゴゴゴゴ……
突然、激しい地鳴りが起こります。
「……正解……みたいですね……!」
「……ああ……」
2人が川のほうを見てみると。
いつの間にか、超巨大な橋が架かっていました。
「B地点って、あそこ、でしょうか」
『かたりべ』の中年が指さす先には、巨大な塔が立っています。
「……最短距離で進まなくてはいけない、ということ……だろうな……」
『ふえふき』の壮年も、自分に言い聞かせるように頷いています。
「いやあ、凄いねえ!
2人とも、ご苦労様!!」
背後から、人をイラつかせるような声が聞こえました。
そのままスタスタと背後の人影は2人の前に出ると、くるりと振り返ります。
「なん……だ、その笑顔は……気持ち悪い……」
「……もう、考え事は良いんですか?」
若干ウンザリしたような男性陣の言葉に。
「……うん、大体分かったよ!」
少女は、満面の笑みで返すのでした。
図が汚い。




