気付き
石川翠様より素敵なレビューを頂きました!
ありがとうございます、ありがとうございます!
……嬉しい以上に、エタり過ぎてて、申し訳ないです!
時刻は午前4時、場所は裏野ハイツの【101】号室。
残りの人数も少なくなってきました。
『おとな』の少女と。
『ふえふき』の壮年と。
『かたりべ』の中年の、3人です。
『こども』の老女が最期の最期でぶっこんだ事実を。
3人はそれぞれ咀嚼していました。
「……というわけで、見せて貰えるかなあ、『ふえふき』のおっさん。
ちゃんとしたメールを、さ。」
「……私も、正確な情報が欲しいのですが……」
有無を言わせない2人の言葉に。
「……」
『ふえふき』の壮年は、憎々しげな顔で、『かたりべ』の中年と『おとな』の少女を見た後で。
「……ちっ」
諦めたように、自身が貰った情報を、見せたのでした。
「最初から、そうしておけばよかったのに。
どれどれ」
壮年が投げて寄越した携帯電話には、こう書かれていました。
『緑のドアが、正しい進行ルートです。
進行ルートに沿って進めば、いやでも元の世界に辿り着くことが出来ます』
……なんというか、わかりきった内容が、書かれていました。
「……ん……え……?
こ、これだけ、ですか?」
「……ちょっと、オタクのおっさん、まだ何か隠してるんじゃないの?」
意外な内容に二人は呆気に取られた後、またも壮年が何かしらの嘘をついている可能性に言及しましたが。
「……送られてきたものはそれで全部……だ。
……本当はそれも削除したかった……が、でき……なかった」
その言葉に、猫の少女は速攻でメールの削除を試みます。
「ちょ、ちょっと『おとな』さん!?」
「……ホントだ、削除できないね」
猫の少女は自分に送られてきたメールの削除も試して。
そして、結論付けました。
「……これが、オタクのおっさんに送られてきたメールで間違いないみたい」
「ほ、本当ですか!?
こ、こんな、分かりきった内容ですよ?」
「……」
猫の少女は考えます。
『ふえふき』の壮年は、このメールを見て『ねずみ』の小児を殺すことを考え。
それが自然であるように、嘘のメールで誘導したことになります。
この短いメールで、そこまでのことが読めるのでしょうか……?
「ヤバいな……何も知らないでクリアした方が、よかったかも……」
『おとな』の少女は、苦笑いをするのでした。
#######################################
猫の少女は、改めて『ふえふき』の壮年に送られたメールのコピーを読み返します。
『緑のドアが、正しい進行ルートです。
進行ルートに沿って進めば、いやでも元の世界に辿り着くことが出来ます』
この、『いやでも』の部分を読めば、わかることがありました。
「……なるほど、前回とは違うわけ、か」
前回の『ブレーメンの屠殺場』では、自分でちゃんと理解できなければ元の世界に戻ることはできませんでした。
今回は、小児や老女などに対する救助処置のようなものでしょうか、別に理解できなくても元の世界に戻ることが可能だということなのでしょう。
何もわかってなくても、緑の扉を通り続ければ、最後には元の世界に戻れる。
……そうとしか、読めないのですが。
「なんだか、引っかかるなぁ。
進行ルートって、なんでわざわざそんな言い方するのかなあ?
進行ルートに沿って進めってのも、なんだか持って回った言い方だし」
猫の少女の疑問はもっともです。
というかむしろ、『緑の扉の通りに進めばゴールです』で良い気がします。
……何か意味があるのでしょうか。
「……ダメだ。
少し考えを変えよう」
猫の少女は、『こども』の老女……いえ、彼女の大親友、驢馬の老女を思い出していました。
「私がニッケルさんなら……北ちゃんだけ呼び出したりはしないよね。
多分、『ねずみ』くん、『ふえふき』さん、『かたりべ』さん。
このうちの二人は、バカ犬と、ガリベン君だ」
猫の少女は考えながら、思い出します。
「そういえば、北ちゃんが見せた孫の写真。
正太郎君に激似だったけど。
今考えたら、正太郎君と北ちゃんが結婚して、生まれた孫だったんだろうね。
ってことは。
正太郎君が、バカ犬かガリベン君の、どっちかだ」
つまり、『かたりべ』の中年、『ふえふき』の壮年のどちらかが。
ブレーメンのメンバーということになります。
「じゃあ、なんで教えてくれないんだろう。
……ていうか、待てよ、なんで北ちゃんも直前まで黙ってたんだろう」
そこで、猫の少女は。
唐突に、思い出しました。
それは、一番最初の、自己紹介の時。
彼の言った、あの言葉。
「あ、あ、あああああ!」
猫の少女は、ゆっくり振り返ると。
各々別行動を取っている男二人を見て、言いました。
「……あんたが、ガリベン君、だったのか……!!」




