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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
202号室:ミサキボッコ
28/46

さつちゃん

 時刻は午前3時過ぎ。


 場所は【202】号室の前。



 残っているのは、4人です。


 『かたりべ』の中年と『おとな』の少女。

 そして、『ふえふき』の壮年と『こども』の老女が。

 それぞれ、なんとなく2組になって離れています。


「次は、ミサキボッコ……だ」


 壮年が、誰にともなく声を上げます。


 ……誰も、特に言葉を返しません。


 ギスギスした空気の中で。

 【203】号室の扉が、緑色に変化します。


 『かたりべ』の中年が、一息入れると。

 ……ゆっくりとその扉を、押し開けるのでした。


###################################


 扉の先にあったのは……はるか先まで続く、一本道の道路、でした。

 ふと目を向けると、路肩にタクシーが一台、止まっています。


 ……他には何も、ありません。


「……『乗れ』ということ、でしょうね」


 『かたりべ』の中年がそういうと、運転席の扉を開けようとします……が。


「……どけ……」


 振り返ると、その後ろには『ふえふき』の壮年が立っていました。


「邪魔……だ、……俺……が、運転……する」


「……貴方に運転を任せるつもりはありません。

 どうなるか、分かったものじゃありませんからね。


 ……なんなら、多数決でもしましょうか?」


「はい、はーい!

 『かたりべ』のおじさんで良いでーす!」


 中年の提案に、『おとな』の少女がすかさず反応しました。

 『こども』の老女は、特に言葉もなく状況を見守っているみたいです。

 壮年は、何か言おうとしましたが、一旦考え込んで……改めて言葉を発しました。


「……意味もなく、運転を、ミス……るなよ……」


「……当たり前です。

 なんで私が意味もなく運転をミスるんですか」


 中年の憤りの声を聞いた壮年は。


「……そう……だな。

 意味もなくミスる意味は……無いな」


 意外と素直に、助手席の扉へと移動しました。


「んじゃ、乗り込みますか……」


 続いて少女が、最後に老女が、後部座席に乗り込みます。


「さあて、鬼が出るか、蛇が出るか……」


 そんな台詞を『こども』の老女が言ったそのタイミングで。



 ♪ぴろり~ん♪



 メールが(・・・・)届きました(・・・・・)


 4人は、それぞれ内容を確認します。



『さつちゃんは、交通事故で死んで、遠くへ行っちゃったよ。


 事故の相手は、タクシーの運転手さん。

 たまたま無傷だったタクシーの運転手さんを検査した結果、事故直後の彼の血液から、大量のアルコールが検出されたんだって。

 飲酒どころか、泥酔の状態だったみたい。


 けれど、運転手さんは何の罪にも問われなかったよ。


 なんでかな?』


 がくん……。


 メールが届いた次の瞬間。

 車が、動き出しました。


「か、『かたりべ』さん、ど、どうしたの?」


「ち、違います、僕が動かしているんじゃありません!」


 『かたりべ』の中年が、慌ててハンドルや足元のペダルを操作して確認しています。


「ハンドルは効きますが……アクセルとブレーキは効かないみたいです!」


「問題を解かないと、止まらないってことか……」


 そんな事を話している間にも、車のスピードはゆるゆると上がっていきます。


 現在のスピードは時速30㎞。

 原動機付自転車の法的最高速度です。


「すみませんが、私は運転に集中します……どうか皆さん、なぞなぞの方は、よろしくお願いしますよ!」


「……お前は……最初っから頭数に入ってい……ない……」


 『ふえふき』の壮年が半ば本気の軽口を叩いた次の瞬間、車が交差点に進入して。



 ドガッ!!



 ……何かを(・・・)撥ねました(・・・・・)



「あ、あ、あーあー!?

 アホかアホかアホかー、見え見えだろー!!」


「ちょ、『おとな』さん!

 すみませんでした、すみませんでしたから首を絞めるのを止めてください!!」


 スピードを上げる車の速度は、既に時速60㎞。

 一般道路の法定速度に達しており。


 ……人間を殺すには(・・・・・・・)十分な速度に(・・・・・・)なっていました(・・・・・・・)


 

 そしてもちろん、撥ねたのは人ではなかったようです。


 なぜなら、蜘蛛の巣のようにひび割れたフロントガラスには。


 ……真っ黒な血が(・・・・・・)あたり一面に(・・・・・・)散っていたのですから(・・・・・・・・・・)!!


「う、運転できるかい、『かたりべ』さん?」


「な、なんとか!」


 すかさずウォッシャー液とワイパーでフロントガラスを洗い流して運転を続けています。


 そして、次の瞬間。


 車の天井から、フロントガラスへ。



 べたり(・・・)、と、張り付く影がありました。



「う、うわあああああああああ!!」



 そこにいたのは……黒い(・・)子供でした(・・・・・)


 まるで燃えた残りカスの様な(・・・・・・・・・・)体に。



 大きな(・・・)大きな(・・・)黒目(・・)



 ……そうです、ミサキボッコです!!


 高速で走る車体の周りを。


 ミサキボッコは、まるでヤモリの様にペタペタ走り回ります。


「く、お、落ちろ!」


『かたりべ』の中年が、車を蛇行させて振り落とそうとしますが、全く無駄なようです。


 


 車のスピードは、時速120㎞。 



 その速度は既に、高速道路の最高速度に達していたのでした。

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