情報共有 その3
時刻は午前1時過ぎ。
場所は公園の中。
「こぽっ」
最後にそんな声をあげて。
『ねずみ』の小児は、呼吸をやめました。
『ふえふき』の壮年はそれを冷たい目で眺めた後に、金次郎へ向かってその体を放り投げました。
ごぎぎぎぎぎぎいいい。
金次郎は、嬉しそうに、投げ捨てられた小児の体へと向かっています。
少し視線を移すと、公園の出口には、いつの間にか出現した緑色の扉が出現していました。
「出……たか……行……くぞ」
壮年は噴水の中央から降りて、その扉を開けると他の皆へ声をかけます。
そうこうしているうちに金次郎は、『ねずみ』の小児の前で跪き。
くちゃくちゃくちゃと。
美味しそうに、『それ』を食べ始めました。
その光景を固まって見ている面々。
しかし。
「急……げ……。
死にたい……か……!」
3人はその声に、弾かれたように立ち上がると、扉へ向かって走りだしました。
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時刻は午前2時。
場所は浦野ハイツ201号室の前。
「ぜ、全員いる?」
『こども』の老女が声をかけます。
「は、はい、ぐ、ぐ、ぐう……ッ」
『かたりべ』の中年が痛みに顔をゆがませながら、答えます。
「『全員』はいない……がな……」
『ふえふき』の壮年が、鼻を鳴らして言いました。
「お、お前ぇぇえぇえ!」
『おとな』の少女が、大声をあげて壮年に掴み掛ります。
「な、な、なん、なんで、なんで正太郎君を殺した!?」
『ふえふき』の壮年は、見下したような顔で、答えます。
「なぞなぞの答えを解いたまで……だ。
それとも何もせずに、全滅するのが希望……だったか?」
「お前が死ねばよかっただろおおおお!」
「覚えていない……のか?
あれは最初に……俺……が救った命……だ。
どう使おうと……俺……の、勝手……だ」
「ふ、ふ、ふざけんなよおおおおぉ⁉」
「ちょ、気持ちはわかるけど、落ち着いて、『おとな』ちゃん!
ぐ、ぐううう……ッ」
壮年と少女が激しく言い争いますが。
普段は喧嘩を仲介する立場の中年も、自分の傷でいっぱいいっぱいみたいです。
そんななか。
「……落ち着きなさい、『おとな』ちゃん」
声をあげたのは……『こども』の老女、でした。
「『かたりべ』さん、痛いのは分かるけど、今はがまんのしどき、でしょ?」
「は、はい……」
「……そして、『ふえふき』さん」
「……」
「いろいろ隠したいことはあるんだろうけどさ。
最低限は説明しなよ。
でないと。
……ばらすよ?」
珍しく、『こども』の老女が厳しい声をあげていました。
壮年は、ガシガシと頭をかいています。
何かばらしてほしくないことが、あるのでしょうか。
一度ため息をついた後。
「……お前ら……は、どうやってこの小説内から抜け出すつもり……だ?」
そんな言葉を投げかけました。
「「え?」」
声を上げたのは、『かたりべ』の中年と、『おとな』の少女です。
「もちろん、問題を全て解けばクリアだとか。
……そんな生易しいことを考えてはいない……よな?」
ぐっ、と猫の少女が黙り込みます。
すっかり忘れていましたが、一番最初にもらったメールの内容は、以下の通り、だったのです。
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クリアの条件は以下の通りです。
条件:ミッションを正解し続け、”ハーメルンの音楽祭”から抜け出す術を見つけること。
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以前の『ブレーメンの屠殺場』でもそうでしたが。
ミッションを正解し続けるだけでは、この小説、『ハーメルンの音楽祭』を抜け出すことは出来ないのです!
「な、なるほど……。
このまま問題を正解し続けるだけではこの小説の世界から抜け出すことはできないということ、ですか」
「……そう……だ。
それが、『ねずみ』を殺した理由の一つ」
「……少しだけ読めてきました。
この世界から抜け出す方法として。
与えられた『固有名詞』も、関わってくる可能性があるんですね」
『かたりべ』の中年の相槌に、いやそうな顔をして壮年が答えます。
「……ああ……。
1つ、……俺……が、『ふえふき』で……ガキ……が『ねずみ』であったこと。
2つ、……俺……に渡された情報が、『誰か1人殺さなくてはならない』というものであったこと。
そして3つ、先ほどの問題の回答が、『誰か1人殺せ』だったこと。
以上から、……俺……は、『ふえふき』が『ねずみ』をここで殺すことこそ……俺……と『ねずみ』のどちらもがクリアできる必要条件であると判断し……た」
壮年はぽつぽつと語ります。
なるほど、辻褄は合っているように思われます。
しかし、以前分からないことだらけです。
『ふえふき』の壮年は、何を、どこまでわかっているのでしょうか。
「あ、あのさあ……」
しかし、猫の少女は、取りあえず謝罪することにしました。
「さ、さっきはごめん。
オタク君も、いろいろ考えてやったことだったんだね」
もちろん、だからと言って許せることではありませんが。
仕方なかった、と割り切れる程度のことだともいえます。
心を込めて謝罪をした猫の少女でしたが。
「謝るなら最初から突っかかって……くるな……小娘……が……」
の台詞で、改めて壮年を『殺すリスト』に追加するのでした。




